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マスター・キィの始動

 荒野をエアバイクが走る。

 街道を避け走っていくエアバイクは、その性質故に道なき道の踏破など容易い。

 エアバイクに乗っているのは一組の男女。

 エアバイクを操る男の腰に手を回しているメイド服姿の少女、アイン。そして……。


「マスター。そのままの方角に直進です」

「ああ。しかし……名前を捨てることになるとはな」

「どうせ旧時代の戸籍などあってないようなものです」

「まあ、明らかに元日本人なのにジャンとか名乗ってる奴もいるしな……」


 世界が変わってから、旧時代に整備されていた戸籍制度もまた滅びた。

 それを維持できる仕組みが滅びたのだから当然ではあるが……その結果、今までとは違う名前を名乗る者も増えた。

 ジークフリート大量発生事件とか、そういうのもあったらしいが……それはともかく「美形」などといったスキルが発生した結果、今までとは容姿が完全に変わってしまう者が居たのも関係していたかもしれない。

 そして、紀伊もまた今までの名を捨て……いや、捨てきれてはいない。

 日暮紀伊ではなくキィと名乗ることにしていた。

 そしてそれは、例えば「徹」という名であった者が「トール」と名乗るくらいには新時代に適応した名乗り方ではあった。


「ま、それに……『妄想覚醒』は嫌な方向に名が売れ過ぎたよ」


 妄想覚醒という二つ名つきで、日暮紀伊の名前は笑い話としてあちこちに輸出されてしまっているらしい、という話はキィも聞いたことがあった。

 そんな名前をぶら下げていれば、きっと何処かで面倒ごとに巻き込まれる。

 だからこそ、キィは今までの名前を捨てたのだ。


「ところでさ、アイン」

「はい」

「あの町に残ってたら、どうなってたと思う?」

「未練が?」

「いや、ない。でも町を離れたほうがいいって言ってくれたのはアインだろ?」


 そう、あの戦いの後に「すぐに町を離れるべきです」と提案したのはアインだ。

 キィもそれを疑うことなく了承して今に至っているが……なんとなく、気になってしまったのだ。


「権力争いに巻き込まれていたと予測します。100%の確率で、新たな冤罪事件に発展します」

「……ま、そうだろうな」


 あの町で「日暮紀伊」の地位はあまりに低すぎた。

 マジックアイテム強奪犯の嫌疑までかけられた以上、あの町で「日暮紀伊」の地位の向上は絶対にありえなかっただろう。

 だからこそアインはキィに街を捨てることを提案し、キィもそれを了承したのだ。


「結果として俺を誰も知らない町への移住、か……」


 エアバイクのせいで快適な移動ではあるが、なければどうなっていたかと考えると実にゾッとする話ではある。


「マスター」

「ああ、俺にも見えた」

「行くのですか?」

「まあな。恩を売っとくのは悪い事じゃない……はずだ!」


 遥か前方に見えた「それ」に向けて……紀伊とアインを乗せたエアバイクはスピードをあげて突っ込んでいく。

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