戦いの後
アースワームは倒された。
しかし、町はこれ以上ないくらいの打撃を受けていた。
鉄犀騎士団の行方不明、町長を始めとする有力な冒険者たちの死。
その他、生死不明の人間も多数いた。
瓦礫だらけのこの町をまとめる者もほとんど残っておらず、一部では町を捨てようかという話すら出ているほどであった。
「しかし、あの光はなんだったんだろうなあ」
瓦礫の中から使えそうなものを掘り起こしていた男が、そう呟く。
重戦士のジョブも、こうした重作業には非常に役立つ。
そして、そんな重戦士の近くでメモをとっていた男が「あれか……」と呟く。
「何かは知らんが……そいつが居たらしい塔も崩れた。もう生きちゃいないだろうさ」
「だろうな。ま、生きてたとこでロクな目にゃ合わなかったか」
「だな。『生きてる英雄ほど邪魔なもんはない』って言うくらいだ」
納得したように頷く2人だが、掘り起こした物品を並べていた別の男が「ん?」と声をあげる。
「なんで邪魔なんだ? そんなに強い奴なら新しい旗振り役になっただろうに」
「なられちゃ困るんだよ」
「誰が困るんだ?」
「偉い奴だ」
そう、この新時代は強い者、有能な者が世界を導いていく時代だ。
まだそれは大きく変動を続ける最中でこそあるが、おおよその形は決まり始めている。
そこに新しい「英雄」など現れてしまえば、既存の権力は大きく揺らいでしまう。
当然だ。新たな権力者たちは旧時代の権力者を追い落とし今の地位についているのだ。
そこに新しい強者が現れれば当然起こるのは取り込みか抹殺だ。
「だけどよ……」
「町長の息子が生き残ってる。結構強ぇサモナーだからな……」
「そういうこった。英雄サマが生き残っても、敵視されるだけだ」
一部の衛兵も生き残っている。
だからこそ、新しい英雄が居ても無駄に敵視されるだけになってしまうのだ。
「嫌な時代だなあ……」
「そういう時代さ」
「どうせ俺たちゃ流されるだけだ。気楽にいこうぜ」
瓦礫をどかしながら、男達は何かをメモに書きつける作業を続けていく。
「お、見つかった。竹田だなこりゃ」
「ほいほい。竹田死亡……と。あ、そういやアイツはどうなった? ほら、妄想覚醒の……」
「日暮か。まだ見つかってねえけど……死亡でいいんじゃねえか?」
「それもそうか。日暮も死亡、と……」
冒険者協会から掘り起こしたリストに線を引き死亡と書き込む。
こうして死亡確認された冒険者の荷物は、今後の町の資産となるわけだが……その作業は見ての通り適当で。
少なくともこの町の公的書類において日暮紀伊はこの日、この世から消え去ったのである。
そして……混乱の最中、町から遠ざかっていくエアバイクを見た者は、当然のように居なかった。




