その夜
紀伊の住むアパートの扉が乱暴に叩かれたのは、夜の事。
「な、なんだあ……?」
「私が出ます」
何度も扉を叩く音に、アインがドアを開けると……そこには、複数人の衛兵の姿があった。
「此処は日暮 紀伊の部屋だな?」
「はい。何か御用ですか?」
「彼には物資強奪の容疑がかけられている。大人しく同行してもらおうか」
「意味が分かりかねます」
「言いたいことがあれば詰め所で聞く。君もそこをどかなければ共犯と見做す」
何が起こったのか、アインには分からない。
物資の強奪? そんな事はしていない。
可能性があるとすれば……紀伊のレイブレイドやレイガン、エアバイクを誰かが「そう」と見做したということだが……。
「突然なんだよ。物資の強奪? 俺が何を強奪したってんだ」
「森の中で、この町へ向かう行商隊の馬車の残骸が発見された。中の荷物は一部の安価なものを除きほとんど無くなっていた。そして、ここ数日……君がマジックアイテムの移動器具に乗りマジックアイテムの武具を使っているのを見たという報告が複数上がっている。昨日に至っては、遠距離攻撃を可能とするマジックアイテムを見たという報告も出た」
「それが何か?」
「……此処に運ばれてくる予定のマジックアイテムの中に、遠距離攻撃用のものも含まれていた。知っていると思うが、行商隊の運搬する品に関しては保護規定が適用されている。お前がそれを私物化していた場合、罪になる」
それは紀伊も知っている。だからこそ行商隊が襲われた跡を見つけた場合は速やかな報告が必要になる。
行商隊の運んでいた武器や防具などをモンスターが拾得していた場合に面倒な事態になりかねないからだ。
「俺がそれをやったと?」
「そうではないというのなら、大人しくしろ……全員、部屋内を調べろ」
その言葉と同時に衛兵達が部屋の中に踏み込み、家財道具をひっくり返していく。
棚を開けて皿を投げ、布団を割いて中を調べ……あっという間に強盗にでも襲われたかのような有様になっていく。
「行くぞ、日暮。お前にはたっぷりと吐いて貰うことがある」
「容疑の段階で犯人扱いかよ……アイン、何もしなくていいぞ。どうせすぐに容疑は晴れる」
縄を打たれて連れていかれる紀伊を前に、アインは銃に向かっていた手を止める。
何もしなくていい。それが紀伊の指令であるならば、アインとしてはそれに従うほかはない。
ない、が……。
「……アレイアス。想定される今後の可能性について計算を」
―計算開始。それで、どうするのですか?―
「穏便に済むのであれば、それが一番です」
答えになっていない事を理解しながらも、アレイアスのサポートシステムは要求された計算結果をはじき出していた。