ザコ界のトップエリート
「……あの時は、俺も冒険者で成り上がりとか思ってたのになあ」
ステータスの力に目覚める時は、身体の中から光を放つ「覚醒」と呼ばれる発光現象が発生する。
強力なステータスを持つ者はその光も凄いとされるのが定説で、「始まりの1人」などは周囲の目が眩むほどの輝きを放っていたという。
そして紀伊は……風呂に入っているときに突然発光して、しかもかなり輝きが強かったように「見えた」のだ。
……まあ、今となってはお風呂のお湯や鏡に反射してそう見えた可能性も捨てきれないのだが。
何しろ喜び叫んだ「ステータス確認!」の言葉に返ってきたのは今と同じ「簡易メディカルチェック開始」だったのだから。
他に色々と叫んでみても、この無機質な「声」は何も反応することはなく。
「スキル」と呼ばれる特殊技能の1つも使えない紀伊に、冒険者としての活躍を期待する者など居ない。今の時代、ステータスの恩恵を受けていない人間など有り得ないのだ。
言ってみれば紀伊はザコ界の不動のトップエリートであり、そんな紀伊に出来る仕事は非常に限られている。
「はあー……お仕事お仕事。今日の飯代くらいは稼がねえと……」
腰に提げた中古の剣を揺らしながら、紀伊は街の外へと歩いていく。
ファンタジーを否定し尽くした旧時代のものは全て「大転換期」に破壊され尽くして、今はファンタジーこそが現実だ。
紀伊はまだ時代に対応できたが、激変した時代に対応できなかった人間は哀れなものだったらしい。
現在の世界を動かしているのが全員「ステータス」の高い者達であることが、その何よりの証拠だろう。
懐かしきコンクリートジャングルも、今は建築系のジョブを持つ者達により木や石の建物に変化している。街の中心に城が建っているのも、今の子供たちには常識だ。
そうして衛兵が守る門を通り街の外に出れば、広がる草原を貫いて街道が伸びている。
綺麗に整えられた街道には石一つ落ちていない……ということはないが、キチンと整備されて馬車の通行に支障が出ないようになっている。
無論、紀伊は「そこ」には用はない。紀伊の仕事は……だ。
「見つけたオラアアアアアアア!」
「ヂュウウウ!?」
街道の近くに居たモンスター、ジャイアントラットに紀伊は剣を抜いて襲い掛かる。
振り下ろした一撃はアッサリと避けられ、飛び掛かってきたジャイアントラットの一撃が紀伊のレザーアーマーを軽く掠る。
「こ、この……!」
「ヂュウ!?」
叩きつけるような一撃がジャイアントラットを打ち据え、ゴロゴロと転がしていく。
トドメとばかりにジャイアントラットに剣を突き刺し……動かなくなったことを確認すると、紀伊は安堵の息を吐く。
「はあー……きっつ」