一歩ずつ、歩き出す
「しかし、マスター」
「君にあの場で銃を抜かせたのは、俺のミスだ。俺が君のマスターだっていうなら、尚更な」
「……」
そう、紀伊はもっと気を付けるべきだった。
自分をマスターと呼ぶアインが、その「マスター」を馬鹿にされてどう思うか。
その結果、どういう行動に出るか……もっと、考慮すべきだったのだ。
だからこそ、紀伊はアインを真正面からじっと見据える。
「ごめんな、アイン。俺は、もっと君の気持ちを考えるべきだったんだ」
「マスター……」
アインは紀伊をじっと見て。やがて、静かに頭を下げる。
「ではお礼を申し上げます、マスター。貴方の対応により、最悪の事態を免れました」
「だからそういうのはいいって言ってるのに」
「いいえ、ハッキリさせなければいけないことです」
「それよりアイン。さっきの受付嬢の反応からして……ステータスカード、凄かったのか?」
そんな紀伊の誤魔化しにも聞こえる問いに、アインはどうとでも判断できる笑みを浮かべてみせる。
「あんなものは、ただのカードに過ぎません。どうでもいいものです」
「そ、そうか?」
「はい。すぐに世界がマスターにひれ伏す時がやってきます。その時、誰もが知るでしょう。ステータスもまた、基準の1つでしかないということを」
確かにこの時代、ステータス至上主義といってもいい風潮は存在する。
ジョブやスキルも結局はステータスの一部であり、ステータスの良い者こそ良い地位や仕事を得る。そしてステータスの低い者は、底辺として生きるしかない。
それが今の時代と世界の真実。だからこそ紀伊は今まで最底辺だった。
しかし、それを覆すことが出来たなら……それは、きっと面白いことだろう。
だから、紀伊はこう答える。
「ああ、そうだな」
「はい、そうです」
紀伊が歩き出して、その後ろをアインがついていく。そうして2人は、街の外へと向かっていく。
「此処から始めましょう、マスター」
「ああ、アイン。まずは……レイブレイドの扱いをマスターしなくちゃな」
「はい。それが最適解であると判断します」
そうして、始まる。歩き出す。
一歩ずつ、確実に。
全てを覆すマスター・キィの物語が……此処から、始まろうとしているのだ。