冒険者協会3
「えーとですね。今日は俺がどうとかじゃなくて、彼女の登録をお願いしたいんですが」
「へ!? あ、はい。承りました」
「それとすみません。騒ぎにしちゃって……」
「いえ。今回はこちらの対応にも問題がありました」
助け起こされた受付嬢が敵意を含んだ視線を向けてくるのをそのままに、その受付嬢はなんとかといった風に笑顔を向けてくる。
しかし……やはり、変わらない。その受付嬢の目の奥にあるのは、紀伊への嘲り。見下し。
そういった、ゴミに向けるような目だった。
だからこそ……本人に自覚すらなく、言葉に毒が混ざる。
それが当然であり自然であると、本人が認識しているからだ。
「たとえ日暮さんに覚醒詐称の疑惑があろうと、お仕事をこなしてくれているのは事実ですから」
「アイン、ダメだぞ」
再び銃を取り出しかけたアインを今度こそ制して、紀伊は仕事を進める受付嬢を見守る。
こんな事で怒っていては、飯の種がなくなってしまう。どんなに馬鹿にされようと、此処は紀伊が仕事を得られる唯一の場なのだ。
「早く登録をお願いします。俺の事に触れようとせず、早く」
「え、ええ。では、こちらのステータスカードに触れてください」
「……これは?」
訝しげな表情をするアインに、受付嬢が微笑む。
「はい。ジョブ『鑑定士』と『魔具士』による傑作、ステータスカードです。触れれば個人のステータスやジョブをプライバシーに触れないレベルで書き込みます。此方でその写しを頂くことで登録完了としております」
チラッと自分を見てくるアインに、紀伊は自分のステータスカードを取り出してみせる。
名前の欄に『日暮 紀伊』と記されている以外は白紙の……そんなカードだった。
「稀に日暮さんのような方もいらっしゃいますが大体の方は」
「出来ました」
受付嬢の台詞に被せるようにしてアインはカードを奪い取り、カウンターへと投げ落とす。
「え? はい……って、ええ!?」
「確認したなら、早く写してください。予定が詰まっています」
「勿論です。けど……え? その、失礼ですが日暮さんは」
「私が誰と行動しようと私の勝手です。さあ、早く」
「は、はい。では、その。お返しします」
無言でステータスカードを受け取ると、アインはそれを素早くメイド服の中に仕舞ってしまう。