冒険者協会2
「すげえ美人だぜ……」
「メイドか」
「なんで日暮の奴なんかに」
「そういや強いメイドがどうのって話がなかったか?」
ざわざわと響く声の中を紀伊達は進み、カウンターの受付嬢の下へと辿り着く。
「おはようございます。いつものお仕事でしたら、特に報告の必要はありませんが」
「いえ。今日は別の要件です」
「別の? しかし、他に日暮さんに受けられるような仕事は……あ、引退ですか?」
何を言っているのかと言いたげな受付嬢……嘲りすら含んだその表情にアインがピクリと反応して。紀伊が止めようとしたその瞬間には、アインがカウンターに乗り受付嬢の胸元を掴み上げ額に銃を突き付けていた。
あまりにも洗練された、高速での動きに誰も反応できず……掴み上げられた受付嬢ですら、一瞬何が起こったか分からないといった表情であった。
「つまらない冗談です。当機は早急な謝罪を要求します」
「は!? え!? な、何ですかこれ! 銃!?」
「あるいは、現世からの引退を強く推奨します。さあ、選択を」
「じゅ、銃なんか! 今さらそんなものが通用すると!?」
「試射希望ですね。当機はその要請を受諾します」
「ちょ、ちょっと待ったあ!」
引き金を引こうとするアインを、紀伊は必死でしがみつき制止する。
アインの銃がモンスターにも通用することは、紀伊も知っている。
あんなものを撃ったら、受付嬢の頭がスプラッタな結果になるのは目に見えている。
「アイン! 俺は気にしてないから! やめよう! な!?」
「しかし」
「撃てばいいでしょう! 科学兵器なんか、レベル1の人にだって通用しないんですから!」
「貴方も煽るのやめてください! 額に穴が開く程度じゃすみませんよ!?」
「離してください、マスター。互いの合意は形成されました」
「されてないから! やめよう! マスター命令だから!」
「チッ」
受付嬢を突き飛ばすと、アインはカウンターから降りて。自分たちを囲むように展開していた警備の職員達へと視線を向ける。
「かかってくるなら容赦はしません」
「だからさあ……」
溜息をつきながら、紀伊は受付嬢を助け起こしていた別の受付嬢へと振り向く。