冒険者協会
そして、翌朝。目が覚めた紀伊は自分をじっと見つめているアインに気付き「うおっ」と声をあげてしまう。
「お、おはようアイン。早いな……?」
「はい。おはようございます、マスター」
「なんか結局俺が布団で寝ちゃったみたいだけど……」
「気にすることはありません。それより、朝食が出来ています」
「なんか悪いな……じゃあ一緒に食べよう」
「当機は食事を必要としません」
フルフルと首を横に振るアインに「そうなのか?」と紀伊は首を傾げ……思わずアインの頬を突いてしまう。
「なんでしょうか?」
「あ、いや。ロボってわけでもなさそうなのに食事要らないのか……と思ってさ」
「正確には食事を必要としないエネルギー補給手段を持っています」
「へえ……どんなのなんだ?」
「経験値です」
「……ん?」
「もっと正確に言えば経験値と称される、魔力エネルギーの吸収です。アレイアスと同様と考えて頂ければ構いません」
「そ、そうなのか……」
つまりモンスターを狩らなければ食事が必要になるってことじゃないかな……と紀伊は思うのだが、それは言わぬが華だろう。
とにかく、目玉焼きとパンだけの食事を終え、紀伊はアインと共に外に出る。
昨日の騒ぎはもうひと段落ついたのか、アインをチラチラ見る者は居るものの、たいして騒ぎにはなっていなかった。
「もうちょっと何か言われるかと思ったけどな」
「すでに別の話題に移行したのでしょう」
元より人の口に上る話題など、そんなに長くはもたないものだ。そして1度話題から外れれば、興味も薄れていく。たとえそれが生死に関わる話題であろうと……だ。
「まあ、俺としては安心だけどさ」
紀伊とアインが向かうのは冒険者協会と呼ばれる場所だ。冒険者の仕事仲介を主な業務とする場所であり、紀伊のような「役立たず」にもきちんと仕事を渡す、公正にして公平な組織でもある。
まあ、勿論。公平で公正であるが故に、実力主義が過ぎるきらいはあるし、そういった場所で紀伊がどう扱われるかは推して知るべし、である。
「此処が冒険者協会だ」
「大きな建物ですね。この近辺で一番では?」
「かもな。まあ、何かあった時の防衛拠点にもなるしな」
「どちらかというと利権の大きさの結果という気もしますが」
「それは言わない約束ってやつだ」
冒険者協会。此処にあるのは支部だが、それでも相当な大きさの石造りの建物だ。
この町に住む者であれば誰もが慣れ親しんだ、そんな大きな石造りの建物の中に入っていくと、一瞬にして視線が紀伊……を通り越してアインに注がれる。