常識です
そうして、家まで戻った紀伊は……勝手知ったるという風に自分のアパートで家事をしているアインに「そろそろ説明してくれないか」と声をかける。
ちなみにアパートといっても木製の2階建て。安くて狭い、そんな場所であり……紀伊の部屋は1階の端っこだ。
「勿論です。あと少しで食事が完成しますが、それは後回しにしても?」
そう、魔法技術を使ったコンロで煮えているのは美味しそうな煮物で……紀伊のお腹がぐう、と鳴る。
「……いや、完成してからでいい」
「ご英断です」
言いながらアインは調理に戻るが……その背中を見ながら紀伊は、なんとなく懐かしいような感覚を覚える。
(……誰かが台所に居るのを見るの、久々だな)
既存の教育制度も崩壊し、大学とかつて呼ばれた機関に行くこともなく一人前にならざるを得なかった紀伊は、すでに独り立ちしているが……ただ「独り」になっただけで、他に何もない。
すでに遠く感じる家族の記憶を想いながら、紀伊はアインの背中を見つめて。
「……いや、でもメイドなんか家に居なかったしな」
「メイドはお嫌いですか」
「ていうか、なんでメイドなんだとは思う」
「サポートといえばメイドか執事。常識では?」
「もっと他に何かあったと思うけど……いや、まあ。逆に今はその方が目立たないか」
「その通りです」
科学が滅びてから、世の服装は「ファンタジー」に相応しいものが広まってきた。
それは素材の都合もあるが、その方が効率的であるからというのもある。
素材に相応しい形に整えることこそが、素材の力を正しく引き出す。
そうした魔法素材論が広まってきた証拠でもある。故に、メイド服や執事服といったものも「メイド」や「執事」といったジョブの出現により普通の服装になりつつある。
そういった意味では、本当に正しい服装選びではあるのだ。
「さあ、お召し上がりください」
「お、おう。いただきます」
卵にコンニャク、じゃがいも。安く買って置いてあった食材が、実に美味しそうに煮えている。
口に入れればホクホクと美味しくて、自分の適当料理とはモノが違うことをハッキリと理解させられてしまう。
「美味い……」
「光栄です」
そうして一通り紀伊が食べ終わった後、アインは紀伊の正面に座り、じっとその目を見つめる。
「それでは、自己紹介を。戦闘母艦アレイアス所属、直接サポートユニット……個体名称はアイン。以後よろしくお願いいたします、マスター・キィ」