プロローグ
新連載です。
よろしくお願いいたします!
古びた塔の屋上に、1組の男女が立っている。
1人は、青年。何処となく冴えない風の……何処にでもいそうな黒髪の青年だ。
1人は、少女。何故青年と一緒にいるか分からないと言われそうな、銀髪の……美しい少女だ。
青年と少女の視線の先では、破壊音が響いている。
放っておけば、何処まで被害が広がるか分からない。
……とはいえ、放っておいてもいつかは収まるだろうし、此処であえて無謀な賭けに出る必要はない。
そう、無謀。青年が今からしようとしているのは、そういう類の事だった。
「実行開始から、敵がこちらに気付くまで2秒。当機が稼げる時間は47秒。そして」
「俺の準備完了まで120秒。71秒、足りないな」
「分の悪い賭けです。それでも?」
「やるさ。そうしないと……どうにも寝覚めが悪い」
青年の答えに……少女は、満足げに微笑んでみせる。
「それでこそ、です。さあ、それでは始めましょうマスター」
「ああ。いくぞ……マスターキー解放!」
「敵」へと向けた腕が輝き……何かが展開していく。
それはまるで、銃……のような……?
いや、「ような」ではない。それは銃そのものだ。
……既存の技術体系に全く属していない、という、ただそれだけの。
「レイガン、展開完了! チャージ要請!」
「チャージ要請、正常受理を確認……では、行きます」
銀髪の少女が塔から跳んだその瞬間、敵が……「モンスター」が、青年のいる方向へと振り向く。だが、その瞳は青年を映す前に……少女と、その少女が向ける銃口を映す。
「対幻想試製弾頭、発射」
少女が手に持つは、大口径のリボルバー。
この幻想過渡期と呼ばれる時代においては、ガラクタと呼ばれる類の遺物。
されど、これもまた……かつて幻想が偽典であった頃の、その幻想の1つ。
科学幻想……すなわちサイエンスファンタジーの力であるからこそ。
そう、これはかつてファンタジーと呼ばれたものが現実になった時代の物語。
幻想過渡期に現れた1人の男……「マスター・キィ」と呼ばれた男の話だ。