高校生活の始まりに
「明、聞いてくれ。お父さん再婚しようと思うんだ」
「いいんじゃない?おめでと」
僕は素直に父さんを祝福した。
というか、しない理由がなかった。
僕が高1になる今日まで5年間、男手一つで育ててくれた父さんには感謝しているし、幸せになってほしかった。
小5の4月、始業式から帰ってくるとリビングで倒れる母さんがいた。
普段は誰よりも元気で笑顔の母さんが倒れることは異常だとすぐ気づき、すぐに119番を押した。
2分も経たないうちに救急車が来て病院に運ばれたが、そのまま母さんは帰らぬ人となった。
その頃、ちょうど海外出張に行っていた父さんは仕事を投げ出して帰国したが、その時にはもう母さんは天国へ旅立ってから丸二日経っていた。
父さんの心中を察するだけで、胸が張り裂けそうになった。
しかし、僕の前では決して暗い顔をせず明るく振舞ってくれた。
母さんが亡くなってからは、仕事を辞め得意のプログラミングで自営業に切り替え、家事をすべてこなし、僕が一人にならないように気を使ってくれていた。
そんな父さんが再婚して幸せをつかもうとしているのを、どうして最愛の息子が邪魔をすると思ったのだろうか。
「ありがとう。そんな軽い反応なのか?別の人が新しいお母さんになるんだぞ?それでも大丈夫なのか?」
父さんなりに気を使ってくれていたらしい。
「母さんを忘れたわけじゃないさ。父さんには幸せになってほしいからね。父さんだって母さんを忘れたわけじゃないんだろ?」
父さんは涙ぐみながら首を縦に振った。
「ならいいじゃないか。父さん、おめでとう」
「ありがとう、明。父さん泣きそうだよ」
「もう泣いてんじゃん」
朝からそんな親子の会話をした。
「今日は、早く帰って来てくれ。新しいもう一人のお母さんを紹介するから」
「わかった。楽しみにしてる」
「驚く準備をしておいてくれ」
「はいはい」
僕はそういうと、今日から始まる高校生活の第一歩を踏み出したのだった。
「あ~きら~、おっはよ~」
朝から高い声で僕の名前を呼ぶ女の子がいた。
僕の大好きな最愛の人、幼馴染の茜だ。
「おはよう。今日も元気だね」
「もちろん。私から元気とったら何も残らないよ」
「そんなことはないぞ。茜はいつでもどんな時でも最高に可愛いぞ」
「ありがと。大好き」
朝から住宅街のど真ん中でバカップルのいちゃつきを見せた。
見せる相手がいないのだが。
「高校行くか」
「そうだね。同じクラスがいいな~」
「そうなるように信じてるよ」
そういうと、自然と手をつなぎ学校へ向かった。
「やったね。1年間同じクラス、よろしくね!!」
「一安心かな。あと2回このプレッシャーに耐えないとか」
「先のことは考えないで、とりあえず教室行こ」
茜はそういうと僕の手を引っ張って行ってくれた。
入学式が始まり、僕は緊張していた。
新入生総代は僕なのだ。
中学から親に迷惑をかけまいと勉強は手を抜かず、体を健康に保つためにバスケ部に入っていた。
それが功を奏したのか、勉学と運動で苦い経験をしたことはない。
そしてついに新入生総代、僕の出番が来てしまった。
結果を一言で表すと、うまくいった。
入学式が終わり僕は茜と帰っていると、二人同時に口が開いた。
「「うちの親が再婚するんだよね」」
「「えっ!?」」
それから僕たちは家に着くまで一言も言葉を交わさなかった。
茜を家に送り届け自分も家に帰ろうとしたが心の整理がつかず、家のドアの前でうだうだ悩んでいた。
「明、何してるの?」
「茜か。心の整理がつかなくてな。茜こそ何をしてるんだ?」
「家に着いたらリビングの机の上にこれが」
茜はそういうと1枚の紙を渡してきた。
”帰ってきたらそのまま明君の家に来てください☆”
その紙を見て僕の予想は確信へと変わった。