エリス、スキル訓練の巻
とうとう、草原に着いてしまった。
エリスのスキル、『バラバラの心』を練習する時が来たのだ。
ここならば見渡しがいいし僕も周りを警戒しやすいから、エリスに何かあっても助けることが出来るだろう。
ま、僕ができることなんて前のサリアみたいになった時、エリスに声をかけ続けることくらいしかないけどな。
「じゃ、始める」
「...分かった、でも!ちょっとでも危ないって感じがしたら言うんやで?絶対何としてでも助けてみせるからな」
「ありがと、でも大丈夫。きっと成功してみせるから。じゃあ始めるよ、『バラバラの心』...!」
そう言ってエリスは余裕を持った状態でスキルを発動する。発動した直後、エリスにもサリアと似た様な状態、全てがカクカクした状態になっていたが、しばらくすると何故かスッ、とそれまでの不自然な動きが収まり落ち着いた様子で手を握ったり開いたりして自分の動きを確認している。
「あれ?エリス、スキルが解けたんか?なんかすごい落ち着いてるみたいやけど」
「うぅん、そんな事ないよ」「私達が仲良くなって」「わたし達は同じ存在」「だから息を合わせて動けばいい」「そう気づいた」
「お、おう、そうなんか。なんかそれって凄いことやんな?多分。いや、あんまり僕エリスが今どんな状態になっとんのか分かってないねんけど」
えっと要約するとアレかな?元々自分自身やから息を合わせて動くのも楽勝!ってのが言いたいんか?
え?でもそんな簡単なことなんか?サリアも自分が消えるのが怖いって言ってたから体がめっちゃ反発しあって全然動けんくなってたんやと思うし。
え?やっぱりそんな簡単な事じゃ無いよな?
...これ、エリスって認める能力、って言うんか?受け入れる能力の天才何ちゃうか?
いや、それが直接的に普段どういうメリットがあるんかは分からんし、『バラバラの心』を使わんと目立たん所か全く気づく事も出来ひんけどな。
「そんなにすごい事じゃない」「姉さんが倒れたのを見て」「ずっと対策を考えてただけ」「その結果は今の通り」「わたし達をわたしだと認めることだった」
「なるほど、でもひとつ言っていいか?」
「何?」
「なんて言うか、すんごい聞き取りずらいんやけど」
「それはしょうが無い」「わたしはあんまり喋りたくないから」「交代で喋ってる」
カァ〜!なんかだんだん聞いてて腹たってくんな!喋りたくないって言っとるし個人の自由って言ってしまえば終わりやけど、これ何とかならんのかな!?
「ちょっと魔法を試してみるね」「『ヒール』」「『ヒール』」「すごい、いっぱい発動できてる」「...カイン、ちょっと魔物で試したいことあるから、連れてきて」
「?おう、分かった。ちょっと待っとき、すぐ連れてくるからな。どんな奴がいいとかあるか?」
「ない、適当に捕まえてくれればいい」
「そっか、じゃあちょっと行ってくるわ」
エリス置いてきちゃったけど大丈夫かな?まあ大丈夫か。あんだけ安定してるってなったら自分でなんとでもなるやろうしな。
ゴブリンくらいやったら前もやってたし、投石なりなんなりして撃退したり倒すたり余裕でできるやろ。一応レベルも上がってるはずやしな。
んん、適当って言っとったけど、取り敢えずで定番のゴブリンでも連れて来たらええんかな。そこら辺にめっちゃいるしなこれぞ異世界の格言のひとつ、『ゴブリンは1匹いたら50匹入ると思え!』ってやつやな!
それにしても、やっぱこういう時でも纏血って便利やなぁ。鎖状にしたら拘束が簡単に出来てええわ。
「連れてきたで。ゴブリンで良かったか?」
「十分、これでいい」「じゃあちょっとコイツ傷つけて」「ちょっとでいい」
「お?おお、こんな感じか?」
腹のところに纏血を変化させた鎖を部分的に変化させてカッターの刃のようにし、ちょこっとだけ切り傷をつけてやった。
こんな感じでいいんやろうか?
「ん、これで十分。ありがと」「『魔法反転』『アンチヒール』」
エリスが魔法を唱えた瞬間、さっき傷をつけた場所が何かに無理やり傷口を広げられたように深く、広く傷が深くなっていっている。当のゴブリンはやはり傷口が開いていくのはとてつもなく痛いのか、涙や鼻水などありとあらゆる体液を流しながら痛がっていた。
そこまでされてても何か、ゴブリンがこれだけ酷い目にあっているのに心が痛まない。いや、もちろん可哀想やな、とは思ってんねんで?うん、やけどなぁ。流石、ゴブリンや。
「すまんエリス、それどうやったん?」
「ただ新しいスキルを手に入れてたからちょっと試して見た」「効果は自分のスキルを反転させること」「さっきは回復魔法のヒールを反転させて傷口を広げた」
「お、おう。なんかすんごい、えっと、えげつないな」
「でも強い」
いやぁ、強いのはそやねんけど、絵面がなあ。傷口がグヂャア!つって開いてくのはなんかすごい悪役っぽいよな。いや、魔族ってったら悪役なんもわかんねんけどなぁ。こういう可愛い子がえげつない魔法使うのってなんか納得できひんわ。分かるかな?この感覚。
「まあ、うん。強いは正義やからな!...とりあえず帰るか」
「え?まだ練習するでしょ?」「カインだっていっぱいしてた」
...マジか。今夜は飯抜きになるかもしれんな。絵面がグロすぎて
なんか想像したらアカン奴やな。