ゴブリン討伐の裏で
今回胸糞悪いぞぉ。
ついにゴブリン集落を襲撃する作戦が始まった。
初めての大規模な依頼で緊張しあまり眠れなかったが新人で遅れるのはまずいと思い、早めに僕らは準備を整え、西の門にやってきた。
だがそこには既に『踊る氷剣』と『潜むもの』のふたつのパーティーが既に集まっていた。
え?僕ら結構早くに来たはずやねんけどなぁ?もしかして普通冒険者ってもっと早くからきてなんか他の事、なんやろ?装備のチェックとかしたりすんのかな?
一番襲撃組の中でランクが低い僕らがあとから来るって、なんか悪い感じするな。
「おはようございます。すいません遅れてしもて。次はもっと早くに来るようにしますね?」
「冒険者ランクが高い人は現場に来るのも早い、カインも気をつけてね」
「いやエリス、あんた何目線よ」
そんな先輩冒険者ヅラしちゃって! エリス、生意気な子!そしてサリア、ナイス突っ込み!
「ハハ、いえいえ。その必要はありません。ただ私たちが早すぎると言うだけで、あなた達も十分早くに来ていますよ」
「僕も早く来すぎちゃっただけですから。気にする事はないと思いますよ?」
「うん、そう言って貰えると助かりますわ」
良かった、僕らが遅いって訳じゃなかったんやな。まあ、30分早くに来て遅いって言われてもちょっと困るけどな!朝に弱い僕は今以上に早く起きれんから!
なんせ元吸血鬼やからね!ナンチャッテやけど。
「そう言えばこうして話すのは初めてでしたね。会議でも言いましたが私たちは『踊る氷剣』、そして私がリーダーのミシェルです。そして私の仲間である」
「オッスゥ、俺っちはハンスってんだ。多分あんまり話す機会は来ないとは思うが、これからよろしくな!ちなみに俺っちは斥候だからな、そんなに強かぁないがこの俺っちが罠なんか1発で見破ってやるぜ?」
キャア!ハンスパイセン、かっくいい!...うっはキモ、自分のあまりの気持ち悪さに吐きそうなったわ。
それにしても、なかなか個性が強いな。会議の時黙っとったからそんなに喋らんのかな思っとったけどめっちゃ喋るやん。まあ、見た目からして金髪に染めてる感バリバリ出とってチャラい感じしたし、そうかな?とは思ってたけどな?
あ、ちなみにこの世界の人間って説明したかわからんけど髪の色は個性豊かでピンクに白に青に、めっちゃ色んな色があるんよ。これ、異世界あるあるの予備知識な。
「私はノン、一応盾役でやらせて貰ってる」
背がちっこいなって思っとったけど、よう近くで見るとドワーフやな。エルフ程じゃないけど耳が尖ってて、めっちゃ幼児体型や。大体身長は140センチ位か。昔の伝説とかで出てくるドワーフみたいに女の人でも髭ぼうぼう、なんてことになってなくって良かったなぁ。
「僕はディッシュってんだ。ちょっとイケメンだからってリーダーを狙ったらどうなるか分かってるだろうな?僕が許さないぞ!」
おや?おやおや?ディッシュ君、君さてはミシェルさんに惚れてるね?あ、因みにディッシュ君はミシェルさんと同じくらいの年齢かな?二十歳くらいに見える。言動はちょびっと幼い感じはするけどね?まあ個性だよ、個性。
そうこういるうちにほかのパーティも集まってきたようだ。昨日参加の意思を見せたパーティーはほぼ全員集まってきている。
「全員集まったな?ではこれよりゴブリンの集落襲撃作戦を始める!」
『潜むもの』などのパーティーとは話せなかったけれど、一つだけでも上位のパーティーと話せただけで収穫はあったというものだ。しかもあのパーティ、自分らとは別のパーティとは話したくないって感じの空気出てたしな。
まだシドさんはマシな方やったわ。
それから僕達は冒険者らしく、キビキビした隊列などは組まないようでパーティ事に集まり、ギルド長を先頭にゾロゾロ歩いていった。
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...そろそろやな。もうちょいでシドさんらが見つけてくれたっちゅうゴブリンの集落が見えてくる、はず。一応ギルド長に報告しといた方がいいんかな??
いやそんなわけないか。僕らは最前列に近いとはいえ、先行隊が先に向かって報告してるはずやし。
あ、ちなみにこの役目ももシドさんらのパーティ『潜むもの』な。
「...ギルド長、そろそろ集落が見えてきます」
「...そうか、全員止まれ。襲撃組以外の冒険者は集落を包囲しろ、出来たら渡しておいた信号弾で合図をするように、では散開!」
「「「「応!」」」」
しばらく経ってから信号弾が打たれたのを見た。これが見えたということは突入組Cランク以上の人らが突入するって事やな!
「突撃!」
ミシェルさんは合図に合わせて隠れていた茂みから飛び出すと質素な門を警備していたゴブリン2匹を腰に刺したレイピアで眉間を突き刺し素早く仕留める。
だがどうやら見張りは他の場所にもいたらしく、ボオオッ!と言う独特な角笛のようなものを吹かれてしまった。
ああ、クソ!さっきの角笛、襲撃してきた事知らせる物やんな!どんどんゴブリンが出てきよる!ほんまにこれ全部倒しきれんのかな!?
「カイン君、絶対に無理はしない様に、危なかったらわたしを呼んでくれたらすぐに行くから」
「そうだぞ新人共、俺らは包囲組だからな、無理しなくても俺たちDランクパーティがしっかり守ってやるぞ!お前たちは今回見学するだけって思っとけ!」
ちなみにさっき護ってあげる宣言をしていたのが僕たちのリーダーになってる人達だ。基本2パーティで動いているのでみんな新人が先輩冒険者について行くことになっている形やな。
「はい、わっかりました!」
「いざとなったら頼るけど、出来るだけ頼りたくは無いわね、あたし達はあたし達でのんびりやりましょ!どうせゴブリン達は逃げられないんだから!」
こうしている間にも襲撃組の三パーティはどんどんゴブリンを倒していく、どうやら普通のゴブリンとは違う、体格がいいものや皮膚が変化し、鎧のようになっているものなどが出てきたようだが、上位パーティの人達はあまり苦戦せず倒していた。
あ、『漆黒の鉄人』パーティがゴブリンの奴らを無視して村に押し入ってった。
...ムフフ、これは『踊る氷剣』パーティを補助するって名目で討伐に参加するチャンスなのでは!?
「2人とも!襲撃チームに加わんで!」
「え!?ほんとにやるの?...まああたしのも経験値欲しいけど」
「姉さん、ここは経験値を獲得するチャンス、行こ?」
「ぐぬぬ、...わかったわ、行きましょう。でも危なくなったら引き返すわよ?」
よし決定!まあ、帰ったらなんか罰則あるかもやけどそんな事よりも1パーティで戦っとるミシェルさんを放っとけへんからな。
え?案外余裕そう?...そんな事関係ありません!大事なのは助けようとするハートなのです!ってね。
「え?カインくん達!どこ行くの?持ち場に戻りなさい!早く!」
「ごめんなさい!ミシェルさん達を放っておけないです!」
僕らが走り出すと先輩冒険者たちがなにか言ってきたが最初の一言二言しか頭に入ってこない。早くしなければゴブリンがいなくなっちゃうからな!
「カイン君!?なんでここに!まあいいわ、どうせ経験値をために来たんでしょう?ただ今回は黙って見逃してあげるけど、1つだけ覚えておいて、そういうことしてると、早死するよ?まあ冒険者だから早死するのは確定だけれどね」
「すんません、ミシェルさんが放っておけなかったんですよ。今日の朝挨拶しただけですけど、袖振り合うも多生の縁、1パーティだけのあなた達を放っておけなかったんすよ?」
「何それ、嘘ばっかり言って、それ、嘘だってことバレバレよ?顔がニヤついてるもの。まあいいわ、そろそろゴブリンの上位種が出てきた。もう集落の中心か近づいてきたようね、気を付けて、私達はあそこの1番高い建物に行くから、カイン君達はそこの平屋建てのところに行ってちょうだい」
「カイン、完全にバレてるわよ?残念ね、ただ良かったじゃない、そのまま強制的に連れて帰られたらあたし達問題だけ起こして何も出来なかったアホになるところだったんだから」
ううん、まあサリアの言ってることも分かるけど、なんか釈然としいひんな。なんかバカにされてるみたいで。
それにしてもサリアの言う通り、完全にバレてるみたいやったな。せっかく軽く演技したのにめっちゃ恥ずいわ。なんかクサイセリフもめっちゃ言ったからな。
ハア、それやったら僕らは言われた通り、平屋建ての小屋に行くか。
そこからは何やら異様な臭いが漂ってくる。なんか襲ってくるゴブリンも今まで腰蓑をつけていたのに対し、コイツらは付けていない。
...なぁんか、いやな予感がしてきたなぁ?
「2人とも?ちょい先に行くわ、なんか嫌〜な感じするからな」
「分かった、私も嫌な予感がする、急いで行って上げて?あたし達は入口からゴブリンが新しく入ってこないか見張っているわ!」
「おう、分かった!気ぃつけろよ!」
僕は腰蓑も巻いていない、棍棒も持っていないゴブリンを手早に纏血で倒していき、近くにあった小部屋に入った。
...嫌な予感はしてたんや。変に臭いし、ゴブリンは装備なんも付けてないしでな。
その答えは目の前にあった。腹が異常に膨らんでおり、痙攣して、髪もくすんだ状態になった女が荒い縄に繋がれていたのだ。
これは明らかに旅人をゴブリンが襲い女を集落に連れ込んでいた結果だ。薄い本やったら興奮してたんかもしれんけど、現実になったらこれ程キモイもんは無いな。
そう言えば冷静によく思い返してみると他にも小部屋は沢山あった。
僕は急いでその部屋を出て、隣の部屋、隣の部屋、と行ったがどれも同じような女性がいた。
中には腰を振るのに忙しかったのか、僕らの襲撃にも気づかずずっと腰を振り続けるゴブリンもいたほどだ。さすがに気持ち悪すぎて後ろから斬りつけてやったが。
女はゴブリンに乱暴にされている状況でも意識を失っていなかったようで、ゴブリンが死んでいるのを確認したあと、切りつけた僕を発見した。
「お願いします。私を殺してください...」
女性は死んだような目をしてこちらを見てきた。
正直耐えられなかった。今すぐ楽にしてやりたかった。
ああ、そや、遺言でも聞いてやらんとな...
「遺言はあるか?」
「アルトザインにいる娘のコリンに伝えてください、復讐には生きないでね、と。娘はそこで冒険者をしているはずです」
後で知ったがアルトザインはルトリアの隣町だ。娘が独り立ちし、そのまま夫婦2人でラトリアの観光に来た時にゴブリンに襲われたのだろう。
「わかりました、必ず伝えておきます!辛い中、お疲れ様でした」
そう言うと女は疲れたような笑みを浮かべて目を閉じた。どうやら僕が楽にする前に既に体力と気持ちの限界だったのだろう。
そうこうしているうちに討伐は概ね終了したようだ。頻繁に響いていたゴブリンの悲鳴が途切れ、何かを燃やす音がしている。
その後ふたりと合流し、平屋の外に出てみるとゴブリン達が塊になり燃えていた。どうやらなにか燃やしているような音はこれを燃やしていたようだ。
ハア、胸糞やな...。
どうでした?リアル感出す為ってよりは主人公に幻想を抱かせないよう、前世でもやった事なんですけどね。
まあ多少は流れが違いますけど。