命の軽い世界
屋敷にいた首領を案外あっさり捉えることが出来た。僕も雑魚掃除、という意味ではほんのちょっぴりだけ貢献出来たと言えるかもしれないが、それでも結局倒した人数は多くても十数人だ。
この部屋に詰めていた人数が四十、下手をしたら五十人位はいたのでそのことを考えるとあんまり大したことがないように感じる。
「で、カイン君。聞きたいことっていうのは、例の白衣の人のことでいいのかな?」
「はい、そうですね。って言うのも、僕達はロイさんの知っている通り、裏の隠し通路から入ってきたんですけども...」
僕はジャクソンに補足を加えられながらここに来るまでにいた白衣の男が作ったと思われるキメラの事を話した。
「成程、そういう事か。正直また振り出しに戻ったと思ってたからね。その話はとても嬉しいよ。ただ、そんなに犠牲者が出ていたなんてね。ギルドが把握できてなかったという事は恐らくスラムの人間なんだろうけど、それでもそれだけの数が犠牲になっていることを考えると、その錬金術師の本拠地はもっとキメラに溢れているだろうね」
「...それは、マズイですね。ギルドにもう少し人数を増やすようにお願いしてみますか?」
実際問題ここを落とすだけで相当苦労したからなぁ、このまんま黒幕白衣がいる本拠地とか落とそうと思ったら、もしかしたら一人二人は死んでまうかもしれん。
「いや、やめた方がいいだろう。今回もこの数だったからこそ敵も最後の部屋に集まるだけで終わったんだ。これ以上数を増やしてしまえば別の場所からも増援が集まってくるだろうからな。何せスラム街なんて金を握らせれば直ぐに兵士になる奴ばかりだからな」
さすがのスラムの住民でもそんな事あるか?そんな危険な仕事を、しかも明らかに悪事っぽいことをしてるヤツらに雇われる。
...いや、ないない、そんなんないやろ。
「そんな訳がないって顔してるけどよ、ほんとにそんな話ざらだぜ?なんせスラムに住んでる奴らなんてその日の飯を食うのもやっとか、下手すりゃ何日も食えない奴らもいる、そんな奴らが金を貰える、なんて言われりゃあ雇われるさ、たとえ命の危険があったとしてもな」
「まあ、そういうこともあるってことだよ。そんな事よりも早く尋問をしないとね」
はあ、そんな事よりも、か。とことん命が軽いんやなぁ。ちょっと怖い感じがするけど、僕もここの奴らを殺したんやし、命を軽く扱ってのは同じか。