紫電のように
今年最後の話になるでしょう。
今年はどんな都市になりましたか?
新しく学校に入学した。卒業した、就職した。
僕ですか?僕にとってはとてもいい年になったと言えるでしょう。はい、僕にも色んなことがありましたけどね。
サリア達後衛組が魔法の準備に入った。僕ら、前衛組は耐えなくてはならない。
「行くぞオラァッ!」
今回初めて人を殺すということをしたが、あまり恐怖や躊躇いを覚えなかった。だがそういう感情を覚えなかったという事自体、少し怖いとは思った。が、今だけはありがたい。
なぜならこれだけの敵に囲まれた状況では少しでも躊躇っていれば僕らの命の方が危なくなってしまうだろう。
「カイン君、行けるかい?...危なくなったら言ってくれよ?すぐに僕たちが代わるからね」
「ありがとうございます、ロイさん。ですが大丈夫ですよ。しっかり傷を癒して、それから復帰してください」
「そうかい?では、そうさせてもらうよ、カイン君、サリア君、エリス君、頑張って僕たちが復帰するまで耐えておくれよ」
ほぇ〜、なんかジャクソンから激励されてもなんも感じやんかったけど同じく、ランクB冒険者のはずやのにロイさんから激励されるとたょっとだけ頑張ろっかなって気になってくるな、不思議と。
これがいわゆるオーラの違いって奴やろうか。いや、ただ単に気性の違いやな。
そんな事を考えている間にも、屋敷の最奥に集まっているごろつき共はこっちへと殺到してやってきて僕達を殺そうと剣を、ナイフを、槍を突き出してくる。
勿論、最終手段で使うつもりだったであろう、僕達が通ってきた通路を守るために居たあのゴロツキには一回りも二回りも実力が違うが、それでもこの数だ。
ランクB冒険者パーティである『紫電』や『不退転』はどうとでもなるだろうが、シンズのようなランクが低い者にとっては相当厳しい戦闘になっただろう。
「『纏血・斧槍』ッ!」
こんなに大多数いるのであれば、強かったゴロツキに使った『増殖腕』型でも良かったのだが、出来れば自分でも使い慣れたハルバード型を使いたい。なんせ、『増殖腕』は常にどう動くか、そしてどういう形の腕をしているかを常に考えなければいかないので、疲れる疲れない以前に集中力がゴリゴリ削れていくのだ。
それに比べてハルバード型はいい。常に動かさなくていい上に形だっていつも使っているものなので、もう何もそこに関しては考えなくてもいいという事がある。つまり、その分他のことを考えられるのだ。
「ウラウラウラ、ウォラァ!」
今の僕はレベルが上がったこともあるが、何より度重なる地下道でのキメラ戦により、人体の可動域や死角などに多少ではあるが、教科書だけでの知識だけではなく、身をもっての理解も出来てきている。
敵の攻撃を見切り、交わし、そして斬る。それを何回も、何回も、何回も繰り返し、更にその経験を元にして余計な部分を削り、最適を目指していく。
「カイン君、そろそろ交代しよう!」
集中していたからか、思ったよりも直ぐにロイさんから交代の合図が来る。
いや、集中、というよりロイさんの方が頑張って休憩時間を少なくしたのかもしれない。
「ハイッ!分かりました。三、二、一、スイッチ!あとは任せました!」
「分かった。もう安心していいよ」
そう言って飛び出して行ったロイさんは構えた直剣を振り回し、盾で防御しながらも自身のパーティ名にも参考にしたのだろう雷を微弱ながらに放って牽制をする。
「はは、こんなに安定した戦い方があるもんなんやねぇ」
僕には参考しようとも思えない動き方で、敵対したいともとても思えない動きだった。