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ダネル・モア side story of “bound”   作者: はねとり 諒
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 急場は凌いだものの、ダネルの失ったものも大きかった。ルースは迂闊だったかもしれないが、裏切ったわけじゃない。だからもう招いた結果を責める気は無かった。


 とにかくこんな顔をホリーには見せられない。心を整え、深呼吸をしながら作業小屋に戻る。


 もちろん警戒を緩める訳にはいかないだろう、何しろフッカーの存在に気づかなかったのだから。訓練された者の恐ろしさがよく分かった。


(あれ……?)


 小屋が見えるようになるとすぐに様子が変な事に気がついた。中にはホリー以外の誰かが窓から見えたし、その『誰か』がイーデンだとすぐに分かった。


(何で親方が?)


 窓から外を見ていたイーデンがダネルを見つけると、何やら必死に手招きしている。


「え?えっ??」


 まわりに気を配りながら小走りに急いでホリーの無事を確かめになだれこむ。


「ホリーっ?!」


「ほいっ!」


「あ、れ……?」


 ホリーは元気いっぱいで手を上げた。そして上げた手でダネルをビシッと指差すと、もう片方の手でバンバンとテーブルを叩きだした。


「ダーネールーっ……おそいっおそいっ!ホリーはもうちょっとで変態ヤローだよっ?!」


「へんっ?たい……?あの、イーデンさん……?」


 さっぱりな状況を理解したいがどうやらイーデンも困惑が隠せない様子だった。


「ダネル、お前が出ていた間にな、どうやらヤツらの1人がここに来たらしい……」


「!、ヤツらって?!それでっソイツは?親方が追い払ってくれたんですかっ?」


「あっいや……俺がホリーの声に気づいて駆けつけた時には、ソイツは……もう死んでた」


「は?ええっ??」


 ますますもって謎が深まった。


「いやいや……それじゃあホリーがっ?まさか……」


「俺もそこら辺をホリーに聞いてみたんだが……」


 イーデンが説明に困っているというなら直接聞いて確かめるしかない。


「ホリーっ」


「なあに?お寝坊ダネル……」


「いっ……?あー、ここにその…変態ヤローかな?ソイツが来たんだろう?」


「ちがうよっへんたいヤローはホリーを待ってるんだよっ。ここに来たのはキン肉ヤローだよっ」


「…………」

「………………」


 理解するのにそれ程の時間は必要無い、ダネルの場合は……


「よしっ分かった。それじゃあ筋肉ヤローがホリーを拐いに来たんだな?」


「うむっ」


「じゃあ、筋肉ヤローは誰がやっつけたんだ?ホリーか?」


 そう聞かれるとホリーは本当に嬉しそうな顔をして、


「女神さま……」


 と、うっとりと答えた。


「めがみさま……?」


「そうっ、綺麗でえ、あったかくて……やさしくて、いい匂いがするの……」


「へえ…………?」


 ダネルのアタマは記憶の中をぐるぐる回って…そんな不思議な人を……見つけたっ!


(ああっ!!まさかっ……?)


 しかしだが……まあ、そばにいたなら面倒そうに助けてくれる…だろう。でもこんなタイミングで町に来ていたのだろうか?不思議と言えばまさにそこだ。


「でも大変だったな、怖かったろ?ごめんな……」


「んー?ぜんぜん怖くないよ……いまは」


「ん?今は……?」


 あの人が関わっているのなら謎だらけなのは全く謎では無くなった。しかし違う謎が残る……


「なあなあ、ホリー?」


「ほう?」


 ホリーにこそっと耳打ちするように『目撃証言』を掘り下げる。


「女神様って……どんな顔?いい匂いってどんな…覚えのある匂い?」


「ええー?えーと……顔は…見たけど、見えないの」


「ええ…??でもさっき『綺麗』だって?」


 ホリーは自分が矛盾しているのに確信している。これも不思議とダネルには腑に落ちるものだが。


「でも、そのいい匂いは知ってるんじゃない?」


「ううん、知らない……あっ、でも髪はねえ、紅かった」


(紅っ?紅い髪……?それに初めての匂い?)


 オリビエがホリーの為に作ってくれたあの服、あれには移り香が香っていた。単にホリーが忘れているだけかも知れないが香りの記憶は強く印象に残っている事が多い。


「ふうん……」


 しかしすぐに悩むことをヤメた。彼女に関しての『謎』は考えるだけ無駄だからだ。


「あ、じゃあ親方、死体は……?」


「そんなもんとっくに埋めたわっ。石工なめんなよ?それよりお前……ちょっとこっち来い」


「?」


 イーデンはダネルを外に連れ出すと、何が起こっているのかを確かめる。


 ダネルはフッカーの死体を隠し、ルースを埋葬してから戻って来た。彼らはすぐに行方不明に気がついてどんな行動にでるのか予想が出来ない。場合によっては町全体に影響があるかも知れないのだ。


「そうか…ルースのヤツが……悔しいな」


「はい……」


「だが、これですんなり終わり…にはならんだろう……?」


「分かりません。後ろ暗い連中みたいですから……面倒を避けて諦めてくれればいいんですが?」


「ふむ……」


 考えても仕方の無いことなのだ。問題はとにかく『安全』だろう。


「親方、もしヤツらが密に連絡を取り合っていたとしたら、この辺りも安全じゃ無くなりました。ホリーを明日移動させます」


「なんだよ、もうか?なら今夜中に……」


「いえ…そうしたいんですが夜は目立ちますから、昼間の人の多い時間に」


「そうか……」


「あっ、それから今日は小屋の鍵を外から掛けちゃって下さい。そうすれば中に人が潜んでいるとは考えにくいでしょう」


 出来れば今夜ここにいることは避けたい。多分行方不明に気がついて第二陣が回って来るのは間違いないだろう。


 本当なら今夜中に町から逃げ出す、あるいは逃げたと思ってくれるとありがたい。何故ならルースの姿もまた、消えている。3人で逃げたと考えても不思議では無い筈だ。


 小屋の外から鍵を掛けてもらうと、窓を内側から塞ぎ、灯りを消して物陰に座り込む。そしてホリーを膝の間に抱え込むと、ようやく少し力を抜くことが出来た。


「はあー……大変な1日だったな?大丈夫かホリー?まあ、大丈夫じゃ無いだろうけど……」


「ん?大丈夫……いまは」


 上からホリーの横顔を覗き込む。


「?、さっきもそんなことを言ってたけど、何で?」


「んー女神さまがね、何も怖くないよって言ってくれたからね、何も怖く無いんだよ?」


「ふうん…女神様か。今も見守ってくれているのかな?」


「ふふ……いるよ」


 ホリーがそんなことを言うものだからダネルはブルッと震えてまわりを見回した。実際に彼は野党を前に姿を消した彼女を見ている。


 途端に誰かに見られているような、そんな錯覚に震えた。


(でも紅髪、か……まさか本当に女神様っているのかな?)


 オリビエの様な存在があるのなら、もしかしたらあながち妄想や希望だけとも言いきれない…そんなことを思うようになっていた。

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