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ダネル・モア side story of “bound”   作者: はねとり 諒
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 フッカーが覗き込んでダネルの姿を確認しようとしても中は外にも増して暗くて、僅かな広さのあばら家であるのに深く飲み込まれそうな闇に満たされていた。


「くっそ……犬小屋みてえに狭いのに何だよ……?」


 

 ダネルの勝算その1


 フッカーはホリーの居場所を知る為に自分を殺せない。



 ダネルの勝算その2


 こっちはフッカーを殺せる、殺せる度胸があると思われている。多分……



 フッカーは剣を突き出し、杖の様に使ってダネルを探り出すしか無かった。


 壁の棚にぶつかり、下げた洋服に引っ掛け目を凝らしながら罠と反撃を気にして、なおかつ勢い殺してしまわないように神経をすり減らし納戸のように狭い室内を回るように見回した。


 

 ダネルの勝算その3


 長身のフッカーでは真っ直ぐ立つことも出来ない室内では、長剣はほぼ役に立たない。



「フッカーさん……」


 ダネルは軽く剣を払うと体を預ける様にフッカーにぶつかっていく。驚いたフッカーはそのまま抱きかかえてダネルを捕まえようと腕に全力を込めると……


 ズブッ!


 と、腹に突き立てられていたナイフも一緒に自分の腹の中に抱え込んでしまった。


「!!………………っああ?!」



 ダネルの勝算その4


 ホリーの危機を退ける為ならダネルは全ての覚悟をし終えている。



「テメェ……ナイフなんざ何処に……?」


 フッカーはダネルを突き飛ばすと、もはや殺すつもりで剣を突き立てようとする。


 しかしダネルはちゃんと剣先には囚われず、手元を見て正確な剣の動きを予測できた。


 闇雲に突き立てられようとした剣はダネルが少し身体を捻るだけで、深々と床に突き刺さる。


 その時合わせたダネルの目を見たフッカーの身体に寒気が疾る。


「グッああーーっ……テメェ……何モンだあーっ?」


 しかし男を無視して立ち上がると、さっさとダネルは外に出て行ってしまう。


「っのヤロー、待ちやがれ……っ」


 床に刺さった剣を苦労して引き抜いたフッカーは腹を抑えてふらつきながら表に這い出して来た。


「ふざけやがってえ……にんげん、腹を刺されたぐらいで簡単に死ぬと思ったのかあーっ?」


 しかし既に脚に力も入らず、剣を杖代わりに体を支えている様子からすると、同じ腹でも相当良く無い処に傷を負ったことが分かる。


「自分で刺したんじゃないですか……」


 ダネルの頭の中は冷えきっていて、おそらくまさに今死に向かっているフッカーの姿を見ても今までの怒りや達成感も感じない。


 人の命を金に変えてきた男が、今は金の為に死のうとしている。その姿はむしろ憐れにさえ思えた。


「フウーっ……ふうー、くっ……」


 ついには膝を地面について苦悶の表情でダネルを見上げた時、フッカーはたまらず懇願する。


「くそぉ、たのむから……そんな目で見る、なょ……」


 そう呟くと……静かに倒れ込んだ男は動かなくなった。


(殺した……オレは人を殺した……)


 血をまとったオリビエのナイフを見て、ダネルは罪の重さを実感しようとしても、


 でもまるで感情が麻痺してしまったかの様に、今は何も感じることが出来なかった。


 そして、そこへ……


「ダネルっ!」


 後を追って来たルースがやって来た。


「大丈夫なのかっ?ダネルっ……えっ、ええっ?!」


 そして倒れているフッカーを見て信じられない状況を理解しようとする。


「ダネルっ……お前がやったのかっ?そ、そんなナイフで……?フッカーさんをっ??」


 興奮するルースの声を聞いても自分がそれ程大変なことをした実感は湧いてこない。当然のように勝って、当然のように……


「ルーにい……オレは人を殺しちゃったよ……」


「あ……と、気にするなダネル、人を殺す人間はな……殺されることも覚悟しなきゃいけない。それにお前はホリーを守る為にやったんだ…金のためじゃ無い…………呪われるんだよ、この仕事は……まともに死ねるもんかっ」


 まるでひと事だ。そんなルースに眉をひそめた。


「ルーにい……良い機会だし、もうアイツらの所には戻れないだろう……?」


 ダネルがルースを説得しながら顔を見ると…その表情は何かに気づいて青ざめていた。


「ダネルっ!!!」


 不意にルースに引き倒されると、死んだと思って背にしたフッカーの剣が深々とルースの腹に突き刺さるっ!!


「ルーにいーっっ?!」


 フッカーは気を抜くと剣を支えられずに、引き抜いた剣を地面に引きずっている。


「く、そ…テメェじゃ、ねえ……ダネルう……俺の死神めぇー」


「……っ!」


 ダネルは起き上がってすぐにフッカーに詰め寄った。


「ダぁーネルーーーうぅっっ!」


 渾身の力で振り下ろすフッカーの剣をたやすく半身にかわすと、くるりと回って一閃でその首を切り裂いたっっ。


「ぐぶ……ぅぅ」


 膝から崩れ落ちたフッカーはそのまま仰向けに倒れて絶命した。今度こそ確かに……確かに殺意をもって武器を奮った。


「ルーにいっ……」


 すぐにナイフを放ると、ルースのそばにひざまづいた。


「す、すごいな、ダネル……いつの間に?」


「あ……分からないよっ思い浮かぶと体が勝手に動くんだ……それより傷をっ」


「ぐう……っ」


 ダネルが腹を押さえようとすると、ルースは酷く痛がった。


「ああ……くそっ、これはダメだろ?こんな色の血はダメだって……軍で教わったよ…」


「ルースっ!」


 しかしダネルにはどうしていいか分からずに、取り敢えず作業小屋に連れて行こうとルースを担ごうとした。


「いーっててて、待て待てっダネル……」


 ルースは助けを拒否した。


「俺をホリーの所に連れて行く気か?やめてくれ……。痛っ!んんーっ……お、俺は助からないよ、本当だ。でも俺が死んだことはホリーには言うな!俺は……アイツらから逃げる為に消えたことにしてくれ、な。それから後悔してたって……」


「ルーにい……」


「気にするなよ……言ったろ?この仕事は呪われるって。お前は間違うなよ……?でも分かってる……よな?これで終わりじゃ…ない」


「ああ……」


「おれ、なんかには知らされないが……アイツらは何人いるのか……俺のいたチームみたいなのが知るだけでも他に……2つ、うっ…厄介ごとがあれば、すぐに伝令を……走らせる」


 ルースは知る限りのことをダネルに伝えようと命を使う。


「分かったよルーにい……もう……」


「ダネル……お前は絶対に…誰かの英雄になれる……ぜっ、たい…に………………」


「ル……にい…………っ!」


 ルースはそれ以上何も語らなかった。

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