第9話 少女とスライム
その瞬間、三島老人の目に白河桂里奈の姿が映った。
「はっ! 白河桂里奈!」
「いえ、違います!」
「もしもし? もしもし? 聞こえないんですか?」
三島、白河とスライムの声が重なってわけが分からない。
とりあえず神崎はスライムをつかまえると、白河桂里奈の頭の上に再び乗せてみた。
「はっ! 白河桂里奈が消えた!」
やはり、そうか。
スライムを頭に乗せるとこの少女は姿が見えなくなるのだ。
いや、むしろスライムの方が本体なのかもしれない。などと神崎は思った。
「白河桂里奈がどうかしましたか?」
「いっ、いや、今そこに白河桂里奈がいたのだが……」
「いませんよ、誰も」
「いや、『違います』という声も確かに聞こえたはずなのだが」
白河桂里奈ではなく、異世界の少女なのだと神崎は考えている。
いや、そろそろ気づいても良さそうであるが、異世界の住人だと彼は思いこんでいる。
異世界の住人のことを三島老人にバレてはいけない。
「三島さん、今日はお疲れなのでは?」
「疲れてはいない。わしは元気じゃ」
神崎は心配そうに首をふった。
「お疲れかと思いますよ……」
今日はもう帰ってお休みになった方が良いでしょうと、神崎は三島老人に言った。
そんなやり取りをしている間も、スライムはもしもし? と話しかけてきていた。