第5話 君の名は
警官に見られてはまずいか……
ところが彼は、
「誰もいる様子がないな。
まあ、こんなところに白河桂里奈がいるわけがないか」
そう言って帰ってしまった。
いや、丸見えなのだが。
もしかして、この少女は異界の生き物で、俺にだけ見えているのだろうか?
ふと、神崎の頭にそんな考えがよぎった。
しかも頭に『スライム』を乗せている。
神崎は寝ている少女をまじまじと見つめた。
まじまじと見ていると、彼女は目を覚ました。
目を覚ますなり、神崎から目をそらした。
少女との間に沈黙が流れた。
聞きたいことはあるが、どこから聞いていいか分からない。
とりあえず、警官が来たことを話してみた。
「警官が来て、白河という芸能人を探していた」
少女は白河という名前に反応したが、何も言わなかった。
そもそも警官と言っても何のことだか分からないかもしれない。
しかし、この少女は白河桂里奈ではないだろう。
あの警官が見えないのだから人間であるはずがない。
「ところで、君の名前は何だ?」
少女は「え?」という顔をした。
「ああ、言いたくないなら言わなくてもいい」
人間の言葉は分からないのかもしれない。
探り探りで話しかけているのだ。
人間界に迷い込んで帰れなくなってしまったのだろうか?
人間でないというなら、未成年でも気にすることはないだろう。
神崎はそう思った。
「ああそうだ、君のことは " しのぶ " と呼ぶことにしよう」
神崎は言った。なぜ " しのぶ " なのかはよく分からないが。