第33話 セイヤのこれまで
セイヤはその巨大化した胸はなるべく見ないよう努めた。
「リンカ・オ・パーイという女神に『死んだまま転移』した奴を捕まえてこいと言われたんだ」
「お前はリンカ・オ・パーイ様と知り合いなのか?」
「いや、知り合いってわけじゃねえ。たまたま頼まれたからやってるだけだ」
「たまたま頼まれた? どういうことかわからんが、まあいいか」
女戦士は、幽霊の佐藤の方へ視線を移した。
「お前の言う『死んだまま転移』した奴っていうのは目の前にいるエレメントのことではなかろうか?」
セイヤは女戦士が見つめている方を見た。
しかし、セイヤには幽霊は見えない。
「どうやら俺にはそのエレメントとやらは見えないらしい」
セイヤはリンカ・オ・パーイに渡された霊気箱を手に持っている。
霊気箱に描かれた魔法陣が紫に妖しく光る。
「ところで、お前はなぜ上半身裸なんだ?」
「ゴブリンと戦っていたのだ」
「ゴブリン?」
「ああ、ここ数日、なぜかゴブリンが狂暴化した上、大量に湧くようになった」
セイヤが聞きたかったのはそういうことではなかったが、彼も、まあいいかと思った。
霊気箱のフタを開けると、幽霊の佐藤賢市は箱の中に吸い込まれていった。
紫の魔法陣がグルリと回転し、止まった。
セイヤがフタを閉じると、もう既に彼は『転生の間』に戻っていた。
リンカ・オ・パーイは、セイヤが異世界に行っているそのほんの数分の間に、セイヤのこれまでの人生を見ていた。
「もう戻ってきた! やたら早いわね」
「早いと問題でもあるのか?」
「いえ、助かるわ。ありがとう……しかし、あなた、これまで本当にロクでもないことばかりしてきたのね」
「そうだ。だが、お前には関係ないだろう」
そうね、関係ないわ。リンカは思った。
「……」
女神は何かを言葉にしたかったが、その何かをどう表現して良いかわからなかった。
セイヤのこれまでの人生は、ヤクザそのものであった。
彼は多くの者を苦しめてきた。
「そうだな。若えころは、ずいぶんと悪いことをしちまったもんだ」
しかし、彼には優しいところもあった。
" 悪いこと " をする裏で、彼自身も苦しんできた。
「幽霊さんを霊気箱に入れてきてくれたお礼を何かしなくてはね」
「礼なんていらねえぜ」
「……そうですか。あなたが次に死んだときには、あなたは確実に地獄にいくわ」
「それがどうした?」
「地獄にいかなくて済む方法もなくはないわ」
それを聞いてセイヤは笑った。
「俺は、次に死んだら地獄へいく。それで構わないぜ」
セイヤは言った。




