第30話 リンカ・オ・パーイ
銃声らしき音がパン、パン、パンと三度、階下から聞こえた。
神崎は、三島老人とともに音の聞こえた方へ向かった。
急いで階段を駆け下りていく。
三島老人は高齢であるため、神崎ほど早くはないものの、しっかりした足取りで神崎の後を追う。
彼らは雑居ビルの外に出たが、誰もいなかった。
確かに銃声らしき音が聞こえた。
いや、あれは確かに銃声だ。
銃を撃ったと思しき人物も、撃たれた者もいなかった。
ビルの一階には喫茶店があるが、朝のためまだ開店していない。
窓ガラスごしに中を覗き込むが、特に変わった様子もない。
このビルの近辺も、特に変わった様子はなかった。
「ふむ、これはどういうことだろうか?
おそらく、撃ったのは根古組の者だろう」
三島老人が言った。
「根古組?」
「ああ、奴らは殺るときは必ず三発撃つ。
しかし、逃げ足の速いことよ。
死体が無いのはどういうことだろうか……」
「三島さん、詳しいですね」
「いや何、わしも新宿での生活が長いものでな」
死体が無くなっていたため、二人には誰が撃たれたのか分からなかったが、撃たれたのはヤクザのセイヤであった。
さて、その当のセイヤであるが、どこへ行ったのか?
彼はいま、『転生の間』にいた。
「ここはどこだ?」
セイヤが呟いた。
見渡す限り真っ白な空間が広がっている。
床には薄っすらと青白い光を放つ魔法陣が描かれていた。
「ここは『転生の間』よ」
セイヤの目の前に金髪の美女が現れ言った。
風も吹いていないのに、髪がなびいている。
「お前は誰だ?」
「私? 私は転生の女神、リンカ・オ・パーイよ」
「凛香おっぱい?」
「おっぱいでなく、リンカ・オ・パーイよ。
まあ、私達オ・パーイの女神族を、民は親しみを込めてオッパイと呼ぶことも多いけど」
「なんだか良くわからないが、おっぱいの女神なんだな。
ところで、ここはどこだ?」
リンカ・オ・パーイは、セイヤに話が通じていないことを感じ、溜息をついた。
「さっきも言ったけど、ここは『転生の間』」
「『転生の間』? なんだそれは?」
セイヤが聞き返すと、ピロポン・ピロポン・ピロポンという音が鳴った。
「あ、ちょっと待って、電話がきたみたい」
リンカ・オ・パーイはスマホを取り出した。
ピロポンという音は、リンカのスマホの着信音であった。




