第29話 雑居ビルの銃声
数日後、神崎探偵事務所の物置部屋と化していた部屋が、白河桂里奈の部屋に変貌を遂げていた。
家具やカーテン、テレビといったものをセイヤとその弟分たちが、桂里奈の言われるがまませっせと運び入れたのである。
それらの家具類を彼らがどこでどうやって調達したのか? は分からない。
ついでにスライムもこの事務所に住み着いてしまっていた。
スライムはここ数日の暑さで完全にやられてしまったため、常にクーラーの真下に陣取っていた。
とけた状態のままとなっており、原形に戻ることができないでいる。
ときおりうなされたように「神崎太郎め~~」と弱々しい声を出している。
しばらくすると、三島剛太郎がやって来た。
彼は、みしま・クリエイティブ・エンタテインメントという超有名芸能プロダクションの会長であり、裏の顔はヤクザである。
三島老人はときおり、神崎探偵事務所にやって来ては朝のワイドショーを見て帰っていく。
テレビでは、また白河桂里奈の話題をやっていた。
どうも、白河は東都大学病院に入院しているが、昏睡状態なのでは? という噂が出ているらしい。
「ううむ、心配じゃのう」
三島は白河桂里奈の芸能人としての資質を高く評価しているのである。
本当に心底心配しているのであろう。
しかし、本物の白河桂里奈は、この事務所の奥の部屋でまだ寝ているのであるが。
神崎は、三島老人と自分の分のコーヒーを淹れテーブルに置いた。
神崎がコーヒーカップを口につけた瞬間、雑居ビルの階下からパン、パン、パンと銃声らしき音が聞こえた。
「うむ? 不穏な音が聞こえたのう」
三島老人が言った。




