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少しだけ話を長くしました。もう少し1話を長くできればいいのですが……


「ここでお別れだ! 早く立ち去れ!」


 でかでかとした城門まで来ると、衛兵は有無を言わさず金貨と地図を渡して二人を放り出した。まだ空は明るく、おそらくは昼前といったところか。周囲には王との謁見のために列をなす人々がおり、響と律は異世界において独特な格好であることから悪目立ちをしていた。


「これは早く服装をどうにかしないといけないな」


「衣料店のようなものがすぐに見つかるといいんだが」


 こそこそと話しながら足早に二人は城を去っていく。見るからに響と律の服装は上物であり、律に限っては獣人である。まだ年若いこともあって二人を狙わんとする者は多いのだ。


「この辺は貴族街のようなものなのか? 豪奢な服装の人や煌びやかな家が多いな」


「多分そうだと思う。服はこんなところで買うべきではないな」


 響の呟きに律がすぐさま答える。今着ている服を売ればそれなりの値段にはなりそうだし、機能性も考えると服の型も売れるようになるだろう。服を売るにしても物価が分からなければ何とも言えないのだが。

 王城からだいぶ離れると豪奢な服を着るものが少なくなっていくようだ。貴族街を抜けたのだろう。粗野な服装の人が増え、周囲の家も日本にいた頃より小さく古めかしいものが増えてきた。このケスターナ王国はどうやら中世ヨーロッパと似たような街並みらしい。庶民の居住区は似たり寄ったりの赤い屋根の家がことごとく立ち並んでいる。ところどころ店のようなのも見えるが、そちらの方は割かしカラフルである。


 ちらほらと露店も見えてきた。よくあるファンタジー世界の定番、串焼きの露店だ。1本10ジルで売っているらしい。スキルに【言語理解】などはなかったが、どうやら文字は普通に読めるようだ。


「う、響、匂いを嗅いでたら腹が減った……」


 くーん、とでも言うように耳と尻尾を垂れ下げるものだから、物価の確認と共に買うのはありかもしれない。


「おじさん、串焼き2本いただけるか」


「おやっ、兄ちゃんたちお貴族様かい? ここはそんなおいしいものは売っていないんだよ」


 どうやら服装と話し方で響たちを貴族と間違えてしまったらしい。困った顔をしている店主に違うと言ってから串焼きを受け取る。


「これでいいか?」


 金貨を1枚子袋から取り出すと店主はますます困った顔をする。


「金貨なんてもらってちゃあ商売できねえ。銅貨20枚は無理でも大銅貨2枚とか持ってねえか?」


「いや、親に渡されたのがこの金貨1枚だけなんだ。成人したからってこれだけ渡されてほっぽり出されたんだ」


「なんつー親だよ……。成人したってことは兄ちゃん、15だな。そうか……まあ、ちょっと待っててくれ」


 ありもしない話を適当にでっち上げた響は大人しく待つことにする。それにしても成人が15歳ということは中々にシビアな世界のようだ。響も律も16歳なのでとっくに成人していることになるが、この世界の標準よりも童顔かつ背も低いのでものを知らない成人したてのガキに見えること間違いなしだ。道行く人を見る限り男性はだいたい180から190は普通にありそうだ。響は172、律は178とこの世界では低い部類になる。


 そんなことをつらつら考えていると店主が戻ってきたようで、お釣りを渡してくれる。


「いいか? これが大銀貨、こっちが銀貨でこれが大銅貨だ。それでお釣りが大銀貨9枚と銀貨9枚、大銅貨8枚、だ。ぜってえに無くすなよ、兄ちゃん。それとその金はポーチか何かに収納しておいた方が身のためだ。とりあえずこの袋に入ってるから後で確認してくんな」


 銅貨1枚=1ジル、大銅貨1枚=10ジル、銀貨1枚=100ジル、大銀貨1枚=1000ジル、金貨1枚=10000ジルというところか。1ジルがだいたい日本でいう10円か。今手持ちが49980ジルだから、だいたい50万円だな。手持ちにしておくのが怖い。


「ありがとう」


「……おう、この国は獣人の差別が激しい。早くこの国を出た方がいい」


 最後に忠告のようなことを言って店主はしっし、と追い払うかのように手を振る。響と律はいい店主だ、と思いながらもぺこりと頭を下げ早々に立ち去るのであった。


「とりあえず貨幣の価値も大体分かったし、服を買ったらすぐにこの国を出よう」


「ん」


 串焼きをかじるとじゅわっと広がる肉汁がうまい。何の肉かは分からないが、豚肉と牛肉の間くらいの味だ。たれのうまさも相まって、とにかくうまい。店主はいい人だったし、文句のつけようのないいい店だった。


 そんなこんなで北に伸びる通りを一直線に歩いていると、とうとうお目当ての服屋が見つかった。辿り着くまでにサンドイッチやらジュースやらを買って腹を満たしておいた。どれもこれも純粋においしいしのに貴族は満足しないって、一体貴族はどれだけおいしいものを食べているのか。

 看板に『ミーシャ衣料店』と書かれているのを確認して俺たちは中へ入っていく。こじんまりとした外装に比べ、中はそこそこ広く快適そうだ。服も数多く取り揃えていて、通りで見たような服がたくさんある。


「いらっしゃいませ、ッ、どのようなご用件でしょうか」


 店員が律を見て少し顔を歪めてから、努めて笑顔で接してくる。この店は外れだな、と思いつつも服屋がこれ以外にあるかも分からないため、ここで購入するしかない。


「今着ている服を買い取ってもらって、新しい服を買いたい」


「その服ですか……少々お待ちください、店主を呼んで参ります」


 そんなにこの服が珍しいのだろうかと響と律は二人で顔を合わせながら、店主が来るまでゆっくり待つことにした。



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