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 この世の闇を詰め込んだかのような濁った瞳で、律のことを心底汚らわしいモノかのように見る。その視線に気づいた響は咄嗟に律の前に出て唸るように声を出す。


「おい、俺の友達は元々人間だったんだぞ? お前たちが勝手に召喚した挙句、姿が変わってしまった友を獣呼ばわりとは聞き捨てならん」


 低いその声にクラスメイトは何事かと響たちを見やるが、響は煩わしいとでも言うかのようにみんなを睨む。クラスメイトが少し怯んだのを確認した後、アメリアに視線を向ける。


「いいえ、最早人間ですらないのですよ? ソレはもう友などではありません。穢れ多き獣のくせに人に似た姿を取るなど卑しい! 排除されるべきなのですわ!」


 ねえ、素晴らしいでしょう、とでも言うかのようなアメリアの声に、律以上に響が般若のような険しい顔で怒りを顕わにする。


「……響、いいよ別に大丈夫。波風立てない方がいい」


「だめだ。これはそんな単純な話じゃない。多分この世界にいるであろう獣人をこの国は差別している。そんな国で暮らす方が危ない。いざとなったら俺たち異世界人は異端者として切られる」


 ひそひそと話していると、様子を不審に思った国王が話し出す。


「おや、もしやお主たちはアメリアの美しい術にかかっておらぬのか? まあよい、アメリア、この獣とて突撃させて死なせれば役に立つやもしれん。本望じゃろうて」


 【魅了】を美しい術と言ってのけるその精神が、響たちにはほとほと汚く感じられる。人間至上主義もいいところだ。元いた世界には人間しかいなかったが、ここには様々な種族がいる。いわば元の世界の人種差別をしているようなものだ。しかも獣人とみたら手当たり次第の差別で、それがまた愚かしい。きっと人族でなければ許せないのだろう。


「そうか、そちらがその気なら俺たちとは相容れないということだな。これより貴様らが獣と侮辱した友と俺は、この王国の庇護を受けることなく立ち去る」


「何じゃと!? こ、この儂が誰と知っての狼藉か!!?」


「いいえ、お父様、大丈夫ですわ。だって彼、所詮は適性属性が空間ですの。空間属性だなんてあんな使えない属性、いたところで何ができます? むしろ自ら穀潰しにならないようにしようなど、素晴らしい考えですわ」


 アメリアとしては自分に従わない者を排除したいのだ。実にこの申し出は好都合。そう考えての発言。後にこの決別を後悔するなど、この時のアメリアは露ほども思っていなかったのである。


「う、うむ、そうじゃな。では金貨5枚を与えるから早くこの場を立ち去るがよい!」


 金貨5枚もらえるだけでも先行きは良い。無一文で放り出されるよりは全然良いのだ。ついでに地図をくれると助かるのだが……駄目元でも言ってみるべきだな。


「この世界の地図ももらって行く。どうせ俺たちは野垂れ死ぬ可能性が高いんだ、それくらいどうってことないだろう?」


 数枚くらいなら複製でも何でもしているはずだ。簡素な地図だったとしても有ると無いとでは勝手が違う。この異世界において生きる指標ができるかもしれないし、何はともあれこの異様な国から早く出たい。


「ふんっ、まあよいじゃろう。近衛よ、今言ったものを早急に用意させるのじゃ。その後すぐに城の外へ放り出せ!」


 国王が無能でよかった。この国の文明レベルがどれほどかは分からないが、地図は間違いなく貴重なものだろう。


「ごめん、ごめん響。こんな面倒に一番大切なお前を巻き込んでしまって……」


「それ以上言うと怒るぞ。お前は何も悪いことはしていない。獣人になってしまったからといって律のアイデンティティーが変わるわけでもない。お前はお前だろ?」


 響のその嘘偽りのない言葉に、律はやっぱりこの人について行って正解だ、と思うのであった。


 慌ただしく出て行った衛兵が戻ってきて、響と律を連れ出す。その手には金貨が入っているであろう小袋と巻かれた地図が握られていた。

 しかし最後に国王の見せた下卑た笑みが頭から離れず、何とも言えない気持ちのまま二人は出て行くのであった。




「はっはっは! 馬鹿な者どもよ。誰が現在・・の地図をやると言ったのじゃ! あれはもう200年以上も古い地図であるのに。愚かよのぉ、実に愚か!」


 そう言って嗤う国王がいたとは二人は知らないまま……。



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