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翌朝、響を起こしたのはフクロウのハクだった。コツコツと頭を嘴でつつかれ、他の動物たちを起こさないようにもそもそと起き上がる。
「ふわぁ~、ありがとなハク」
静かにそう言ってハクの頭をかりかりと掻いてやる。気持ちいいのか目を細める様は朝から響の癒しになる。しばらくそうしているとハクが思い出したように翼をはためかせ、響の制服のカッターシャツを器用に嘴でハンガーから外して響のもとへと届ける。
「ん、着替えろってことな、了解」
ハクの見事なアシストと共に着替え終わった響は、いまだにぐーすか寝ているシロたちを見て苦笑いする。
「お前らそろそろ起きろよ。母さんがご飯用意してくれてるぞ」
ご飯という単語を聞いて飛び起きたシロたちは、まだかまだかとばかりに部屋の扉を開けろと催促する。そういえばあのフェレットは大丈夫か? 思い出すと気になってしまい、フェレットをのぞき込むとパチリと目が合った。
「おはよう、足大丈夫か?」
「きゅ」
「ご飯食べれるか?」
「きゅきゅっ」
……多分大丈夫だろ。よし、ご飯を食べるか。数年一緒に過ごしてきたシロたちならともかく、まだ1日足らずのフェレットと意思疎通するのはさすがに厳しい。フェレットを抱き上げた響は扉を開けて1階の居間に向かうのであった。
「おはよう」
「わんっ」 「なぁ~」 「ホー」 「きゅぁっ」 「きゅ、きゅぅっ」
かわいい鳴き声と共に父さんと母さんに挨拶して、それぞれが席に着く。テーブルの下には動物たち用のご飯が用意されているのだ。
「お、その子が新入りさんかい?」
その子と指されたフェレットはまだ足が治っていないため、響の膝の上にいる。
「そうだよ。こいつ何食べるのかな? イタチ科だから肉がいいのか?」
「そうねえ、とりあえず昨日買った魚があるから、それを食べさせてみましょう」
とりあえずということで魚を少し食べさせると、嬉しそうにどんどん食べていく。うん、思ったより警戒してなさそうでよかった。食べさせているとチクリと指先に痛みが走る。……噛まれた。
「あら、血が出てるわよ」
噛んだのはフェレット本人だというのに、必死に響の指をちろちろと舐めている姿は控えめに言ってもかわいい。
「そういえば、シロもクロもハクもギンもみんな一度はお前の指を噛んで血が出たことがあったなあ」
なんて父さんが言っているのを聞きながら、響は確かにと頷くのだった。
食事を終えて学校に着くと、クラスメイトが遠巻きに響を見ているのを感じる。どうせまた獣臭いとかそういう話を陰でしているのだと、響は大して動揺せずに一日を迎える
「きゅぅ」
――――はずだった。この小さな声を聞くまで。幸いと言っていいのかは分からないが、教室がガヤガヤと少しうるさかったため誰も気づいてはいないようだった。
響は声の発生源である自分の鞄をひったくって、急いで屋上に向かうのだった。