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共謀その1


 事の発端は、皇帝の座に就いた僕の価値観と。

 腰掛けている玉座のセンスがズレていたことが問題だった。


「柊くん、この椅子ダサいと思わない?」

「椅子? 僕は結構しっかりとした造りだと思うけど」


 柊くんは前世の時から比較的仲良くしていた友人だ。

 彼となら腹を割って話せるし、宵越しの晩酌を交わすのもいとわない。

 

 つい先日、彼が僕を密かに恋慕していたという衝撃的な告白はあったけど。

 基本的に僕は恋愛には無関心だから、彼の気持ちには応えられそうにない。


「竜ヶ峰くん、玉座が気に入らないの?」


 と、僕の従者をしている元クラスメイトの赤城アンは尋ねる。


 彼女の隣には双子の妹のイヴが居て、二人して僕を見詰めていた。


「すっごいダサイと思う、君はどう思うイヴ?」

「……普通だと思います」

「普通? 異世界ギオスの一般的な玉座に遜色がないって意味か?」


 僕に問われたイヴはしっかりと二度頷き、肯定する。


 そんな他愛もないやり取りをしていた時、偶然彼女が通りかかった。


「つくりかえてあげようか?」


 そう言ったのは前世の時から顔見知り程度の知り合いだった同級生のゲイン・カエデさんだ。彼女は透き通ったエメラルドグリーンの髪の毛を結い上げ、いつも眠そうな目尻をこちらに向けている。


「出来るのならお願いしようかな」

「どんな感じに仕上げる? 要望は?」

「エルドラード帝国と、僕を象徴するような奇抜な椅子がいいな」


 と言えば、カエデさんは「と言うことは」と呟き、椅子に手を当て瞑想し始めた。


「ちょっと邪魔」

「えー」

「椅子がそのままでもいいって言う感じ?」


 彼女は顔に影を作りながら「いくないよね?」と詰め寄る。


 急に接近して来た彼女から妙な迫力を感じ、物怖じするように席を立った。どうやら彼女はこちらの世界に転生する際、女神から『物質変化』の能力を貰っていたらしい。


 それで、話はここから始まるんだけど。


 僕が所有する玉座はカエデさんの手によって劇的なビフォーアフターを迎え。


 僕の価値観にそぐう最高の玉座に生まれ変わった。


「う、わーァッ!! 兄ちゃんが座ってるその椅子なに!?」


 すると弟のアルが子供特有の金切り声を張り上げ、僕の玉座を羨み始める。


「カエデさんに作り直してもらったんだ」

「かっけぇええええ!! 俺も! 俺も兄ちゃんと同じ椅子が欲しい!」

「えー、アルは今年でいくつになった?」

「今年で七つになったよ」

「じゃあ千年早いね」


 とまあ、僕は先代皇帝の長子として生まれたのはいいんだけど。


 父上はあれでいて結構恋多き男だったらしく。

 

 僕にはアルを始めとした十人の妹弟たちがいるんだけども。


 結構大変なんだよ、妹弟たちの相手をするのは。


 幸運なことに、僕には前世からの旧友なんかと言った知り合いがいる。

 今までその人たちの手を借りて何とか凌げていた感じだった。


「竜ヶ峰くん、ちょっと今いいかな?」


 中でも柊くんは僕の親友として妹弟たちから大人気。

 彼はいつも妹弟たちの相手をして、てんてこ舞いらしい。


「アルが何かした?」

「アルくんは問題ないんだけど、グレーテルが癇癪(かんしゃく)起こしてね」

「あのアバズレは相手にしちゃ駄目だよ」

「アバズレってw」


 柊くんは僕のほんの冗談に思う所があったらしく、捧腹絶倒している。


 彼は僕の他愛ない話に一喜一憂してくれるから、気に入っているんだ。


「で? グレーテルは何を要求して来たの?」

「あ、うん、彼女はこう言ってた」


 ――私はお兄様の次点、ストックじゃないのですから、私にもアイデンティティと言うものがあります。ですから、お兄様だけに特別な椅子を仕立てるのは帝室の格差を助長する問題行為であって。


「うん、長い上に要点を得れない」


 さすがは僕の妹だ。


「要約すると、彼女もカエデさんに何か作って欲しいらしいんだ」


 で、結果的に僕は柊くんを連れて城下町の教会へと足を運んだ。


 ここは『聖堂教会』という異世界ギオスの一大宗教の教会で、カエデさんは大司祭の孫娘に当たるんだけど、細かい話は置いといてここはカエデさんのねぐらなんだ。


「これはこれはベガ様、柊くん、カエデに何か用ですか?」


 僕達に声を掛けて来た初老の修道女は名をアルテナと言い、実質ここの責任者だ。


「カエデさんにお願いごとがあって、今彼女はどこに?」

「カエデでしたら今頃湯浴みの最中でしょうか」

「へぇ、だったら待ってようかな」


 そう言うと、多忙なアルテナはお辞儀をした後奥手へと引っ込んだ。

 立ち去るアルテナを見送った後、ふと教会内部に視線を移す。


 教会の内装は隅々まで精巧な細工調の『彫り』が施されていて。

 それらは讃美歌によって神々しさに磨きを掛け、大衆を惑わしているようだった。


「……偶然だなお前ら、こんな所で何をしている」


 教会に流れる悠久的な光景に気を取られていると、アビゲイルが僕らに声を掛ける。

 彼女は我が物顔で、ここに居ることに何ら不自然さはない。


「やあアビゲイル王女、今日もご機嫌良さそうだね」

「本当にそう見えるか? 明らかなお世辞は犬も食わないぞベガ」


 隣国からドロップアウトした彼女もまた、現在は帝国に匿われている。


 何でも黒木くんがアビゲイル王女のことを好きかも知れないって聞いた。


「黒木は元気にしているか?」


 彼女も彼女で黒木くんを気に掛けているし、これは完璧にデキてるね。


「黒木くんはまだ武者修行から帰って来てないよ」

「そうか、あいつほどの実力者であれば、世界屈指の男になるだろう」

「そうだね、所で二人は付き合ってるの?」


 気になったから率直に問い質すと、彼女は平手打ちを僕に見舞った。


「他人の人間関係によけいな詮索を入れるな」

「だからって何も打つことないだろ? ベガくんは一応皇帝なんだし」


 そう、僕は皇帝。

 一応この国で一番の権力者のはず。


 けど中にはアビゲイル王女のように僕を見下す輩もいるんだよな。


「……ベガ、国を追われた者として、一つ忠告をしよう」

「何? やぶからぼうに」

「お前の義弟であるディートリヒの動向が不穏だ、奴には注意した方がいいだろう」


 そっか。


 その話を耳にし、今はディートリヒが不憫に思えるよ。

 ディートリヒは何故か父上からもマークされているし。


 世間や家族から疎まれることの辛さは知っているつもりだから。なおさらね。


「こんな所で何やってるのソウルブラザー」

「カエデ、僕とベガくんは君を待っていたんだよ」

「うるせぇ陰キャども」


 次第にカエデさんがやって来て、柊くんと与太話し始めた。

 その光景を覗っていたアビゲイル王女は会釈して立ち去る。


「……彼女は信用ならないよね」

「カエデよりは信じられるけどな」

「うるせぇ陰キャども、大事なことだから二度言いました的なサムシング」


 こうして他人に不信感を抱いている時間は、とても煩わしい。

 楽しそうにしている柊くんには悪いけど、僕は早速本題に入った。


「カエデさん、実は折り入って君に頼みがあって来たんだ」

「何だYO」


「君が作り直してくれた玉座の影響を受けて、妹たちが物欲を主張し始めてね。欲望剥き出しの妹たちのために、一つ君と共謀したいと思ってるんだ」


「共謀!?」

 僕の言葉にいち早く反応し、驚いたのが柊くんだ。


 僕があの親族のために、素直に言うことを聞いてやるはずがないじゃないか。



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