第五十話 聖戦舞祭:紅滅の形、弐
ズパー!ズピー!ズパー!ズバー!バシー!ズチャー!ゴチャー!ズチョー!
「ひゃあああーーーーーーんんぐー!!!!」
「梨奈ーーーーーー!!!」
あそこの空の上で、紅いオーラを纏った有栖川さんは猛烈な勢いで、梨奈の全身を隈なくその獰猛な日本刀を模した<現神戦武装>で斬撃を絶え間なく振り掛けたーー!
ズバー!バシー!ズシー!ズチョー!バショー!ゴチャー!ズシャー!
「はぎゅー!うぐー!ひゃぐー!ひゃああーー!きゃああー!」
まるで至近距離でマシンガンを連射するかのように、有栖川さんの梨奈への攻撃はとどまる事を知らずに、ますます勢いを増していくばかりだ。幸か不幸か、幸いにも唯一の救いとしては彼女はわざと梨奈の顔にその刀で攻撃しないのがこっちからかろうじて見て取れた(あんな速度で捕らえるのは難しいが、2週間の猛訓も経た俺なら、それを目で捕捉するのは不可能ってほどじゃない)。
そこに関しては俺がフェールリーナと戦った時と違って仲間同士の特権だな。あの時、マジで痛かったからな、彼女にすごいきつく爪が食い込んだまでに顔面を掴まれるのって。でも、あの時は相手が自分と同年代の女の子ってだけの認知情報があることで、なんか得もいわれぬ不思議な感覚が立ち上って、それで血流が<とある一箇所>に集中させられてしまうってことは誰にも言わないようにしておこう、うん!
っていうか、梨奈も懸命だな。あんな沢山の刀撃を受けている最中にも関わらず、右手による鞭のグリップは緩まないままで、ずっと手放さずに済む。それでこそ、我が幼馴染なのだな、よしー!
がしー!
「!?」
どうやら、エレンに左肩を掴まれているようだ。
「大丈夫ですわよ。森川さんはあんな程度の猛攻に屈することはないと思いますわ。」
「......エレン....。」
こちらにその綺麗な顔を向けたまま、横髪の金髪ドリルを耳から優雅にかきあげたエレンは優しく微笑んでくれて、俺を安心させようとほっこりした雰囲気を醸し出してくる。
「にししー!そうだよね、エレン様!この2週間でどれほどわたしとの模擬試合を経て成長してきたか、ずっと梨奈ちゃんを見てきたわたしがよーく知ってるよーー!だから、幼馴染である隊長なら、信じないでどうするんだよー?」
「ネフイール.........。」
......そう。そうだなー!
何を心配することがあるんだろう。
あいつは梨奈。梨奈なんだぞー!
ずっと俺の面倒を見てきたあいつが、
あんなんに敗れるわけないじゃないか!
いつも俺の世話ばかりしてくれていて、たまには厳しく、ごく稀にだがたまにも優しく、長年の付き合いもある、俺の大切で健気な幼馴染だろうがーー!
負ける訳ー!
「ないわよーーー!」
「うー!?」
カチイーーーーーーン!
「「「!!?」」」
寝ているエリーゼ先輩を除いて、戦っている有栖川さんも含めてあっちの第5学女鬼殺隊の3人が驚愕した表情になった。
「やあああーーーーーーー!!!」
弾けるように、梨奈はいきなり全身から赤黒くて紫色に近い感じの<神使力>のオーラを爆発させて、それで有栖川さんの視界を圧倒し、彼女を舞台上に着地させるには十分だった。
ター!
それで、梨奈も着地し、
「はあーーーー!まったくもうー!なんてことしてくれたのよーーー有栖川さん!おかげで、あたしの身体のあっちこっちがずきずきひりひりな痛みばかりになってるじゃない!今度はこっちも手加減なしに5倍もお返ししてやるから、覚悟するのよーー!」
「ほうー?怒っている割にはあまり棘や雰囲気が足りないように見えますが、まさかそれも君の演技なのですか?」
「さあー?どうでしょ。少なくとも、さっきのあたしの現神術を受けて痛みを堪えたあんたのそれよりもっと上手いように見えるじゃないー?<演技下手なお嬢ちゃん>~~。」
「.......私を挑発し、集中力を下げさせる作戦は無駄ですよ。今まで色んな方から物腰穏やかで冷静沈着な社長令嬢とまで評されてきた私に対して、それが通じないってところも分からないわけではないでしょう、森川さん。」
「.....ああいえば、こういう。こういえば、ああいう。まったくだわ。有栖川さんって口が達者すぎて、口論で勝てる者いないってわかってきたけれど、なんかちょっとだけムカつくって感じるのは面白いわね。」
「それはお互い様でしょうー?こっちもあなたのその落ち着かない炎が燃え盛るような攻撃的な性格は少々前から複雑に思いますね。あなたみたいな子だから、相手である早山君も大変でしょうね。」
「~~~~!?もうー!あたし達が知り合いになって1年だけ経って、異世界にやってきて色んなことを体験してきたあたしら4人だったけど、それだけは聞き捨てならないわー!出会ったばかりの頃から、あいつは隠れ女王様気取りな痛い子だって薄々感じてきたから、春介くんは可哀想だなって気づいてきたんだけど、さっきの発言で確定なのよねー! あんたがいけ好かない財界令嬢で、自分以外は格下だって馬鹿にするところはず~~~っと気に食わないわー! もういい!上等じゃない、それでー!次はあたしの全力でいくから、覚悟しておきなさいよねー!」
「まあ、如何にも多様で豊富な罵詈雑言ですことー。私は口が達者に言いましたけど、そちらも上手じゃないかしら? 言葉の端に私を悪者扱いしたくみたいですが、それはすべて個人的な感覚からくるもので、別に信憑性も正確性も何もないですよね? むしろ、そっちの方が早山君に対して、マウントをずっと取っていきたい<女王様>そのものじゃないですか?私よりも才能ありますよ、そこだけは。 けど、ひとつだけ確かなこともありますよ。覚悟を示せってことなんですが、それは言われなくてもやってやりますよ。この......紅滅の形、弐でなー。」
「--!?」
いきなりの事態に対し、ぽかんとなった梨奈がそこにいるのだ。
それもそのはず、今の有栖川さんはなんと、..........舞台上に横になっていて、手脚も<大>の字のように広げたままで床に就くような格好になってるからだ。
なんじゃ、あれー!?
戦いにやってきたんじゃないのかよー!有栖川さんー!
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