第四十一話 聖戦舞祭:王女殿下の本気の演舞
あの銃口のついた大剣、ソヒー・ヨセミンという<現神戦武装>を手に持つエレンは颯爽と、ローザに向かってゆっくりと歩を進めているのだが、
「殿下.....申し訳ございませんが、一つ、勘違いしておられるようでございますが....」
「うんー?あら、今度は一体なにをしてわたくしの集中力を鈍らせようというのかしらー?無駄でー」
「無駄なのは、そちらの方でございますよ、殿下ー!」
ゴドーーーーン!
「ひゃあー!今度は一体ーー!?」
「ルーくん、あれはー!?」
「ああ.......ああ!エレンーー!気をつけてー!」
そう。ローザがそういうが早いか、いきなりエレンの足元だった舞台の床に、それを構成している数個の頑丈なレンガが溶けたかと思うと、次はその下から、数本の鎖の形をしている紫色の線がエレンの体中に向かって、伸びていったのである!
「くー!このー!」
神使力を瞬間的に爆発させているエレンだったが、どうやらそれはあの鎖を破壊するまでには至らないらしくて、手や腕をひらひらさせてそれらを追い払おうとしても、結局はぴくっともしなくて無駄である。最後はエレンの四肢すべてがあの紫色の無機物な鎖みたいなものによって、空中に浮かされるようにして縛り上げられたのである。
「ああーー!エレン様ー!あっちゃ~~。まさか、ローザが知らずの間に、あれを無詠唱で発動できたとはね~~。」
「ん?どういうことなの、ネフイー!?今のエレンを縛りつけてるあれは何なのー?」
梨奈の問いに対し、
「にしし....。あれはね~~、<強鋼豪無破鎖縄>といって、第5階梯の罠系の現神術なんだよー。第五階梯なだけに、あれは使用者の神使力を多く消費していて、普段はヴァルキューロアの中から忌避されている節があるみたいなのだけれども、相手の動きを完全に止めるっていう点において、もっとも優れているものらしいんだよー?それに.....」
何かを続けようとするネフイールだったが、
「....ファイットレームーー!いつの間に<強鋼豪無破鎖縄>を発動したのー!?あれは発動する際に、準備動作が腕や脚をすべて、四肢で舞うような動きをしなくちゃならないはずですわよ!それだけじゃなくて、技の名も最後はしっかりと唱える必要があるんですわー!どうやったら、そのすべての手順をーー!?さっきは見えなかったんですけれど、一体いつー!?それに、貴女は今までに、罠系の技が得意じゃないはずですわーー。いつからそれをーー!?」
「簡単なことでございますよ、殿下。さっき、殿下がワタシの<百発白雷突貫線>を打ち消すために、自身の持つ神使力を一瞬で増大なさっておられたんでございますよねー?皆の視界をあんな黄金な光で眩ませつつ、ソヒー・ヨセミンを無詠唱な<ニスファル>で普段型に戻す隙ができてらっしゃったようでございますが、それと同時進行に、ワタシもこれを発動するのに、すべての動作を一から最後までこなせましたよー。まあ、詠唱はなしにしておりましたけれど......」
わおー!すげえな、ローザさん!エレンも!二人とも、あんな僅かな間で、あれやこれやと色んな動きをやってのけたものだから、いくらの芸当を見せてまで気が済むの、お前らー!
というか、会長の発動してる<神使力反発物質強化>の影響下にあるというのに、なんでその<強鋼豪無破鎖縄>が舞台のレンガを溶かせられたのかーー!?特殊な技の一種だからかー!?
「それに、この一年間で、ワタシも鬼のような訓練を密かに重ねてきて、やっと苦手だった罠系の技の数々までを熟練し習得するようになっておりました。なので、今のワタシなら、今年になるまでの<王族直下部隊>にいる四人の中から、罠系の技において、僭越ながらも自分の方が一番上手いということを自負しておりますよ。」
「.........なるほど、ですわ。.....で、まさか、これだけで、わたくしの動きを完全に止められるだなんて、思ー」
「思っておりませんよー!<完全無破無滅大包布>--!!」
エレンが神使力を上げようと、刹那の間で黄金色のような光を発しようとしたんだけれども、ローザがそれを叫んで遮った。
いきなりそう叫ぶかと思うと、エレンを囲むようにして、四方から4本のぶっとい銀色の柱が生えていって、その中から、光のような速さで、強靭な生地のような頑丈な素材でできているように見えた布が次々とエレンの体中に巻きついていく、まるでミイラかのようにきつく包み込んできたーー!
「まだこれだけじゃないでございますよーー!はああーー!<鬼殺大破兼束縛重効巨大岩>ーー!!」
「ルーくん、上を見てーー!」
「---!!??--」
空を見上げると、凄い速度で落ちてきたとっても大きな漆黒の四角い不自然で破壊不可能に見えるような岩がミイラ化した姿になったエレンに容赦もなく押しつぶすように衝突してきたーー!
「エレンーーーーー!!!!!!おい、あれはさすがにやりすぎなのではー!やっぱり、止めにいかないとーー!エレンがーー!」
と、すごい心配になって、混乱しそうになっているところの俺に、
「落ち着いてー!早山隊長ーー!エレン様が心配なのはわかってるんだけど、忘れたのかなー?いくら罠系な現神術、第五階梯なものを続けざまに放ちまくったローザさんだからって、エレン様はエレン様なんだよー?」
「そうよ。エレンが何者か、ルーくんだって知ってるのよねー?ねー?」
「ええー?.......ああ。そう。そうだったー!」
目の前に綺麗な女の子が残酷な攻撃を受けている最中なのだから、見兼ねていたんだけれども、何をそんなに慌てていたのか、今更、馬鹿に思っちゃうからなんだ。
そう。エレンはー。
「では、これで閉めに入りましょうー。殿下、この試合、貰いましたよーー!<瞬殺絶消雷迅雅槍>--!!」
今度、爆発的な神使力な消費から来るものなのか、ローザが紫色のポニーテール髪をひらひらさせながら、さっきより凄い嵐が吹きすさんできて、こちらに吹き付けてきたーー!もちろん、その間にすでに、大岩に押しつぶされるようになっているエレンの方向に、ローザの槍の先端から伸びていった超ぶっとい漆黒の神使力の線が恐ろしいまでにエレンのすべてを覆いつくそうと、岩ごと貫いて、滅ぼそうと穿つのだったがーー。
バコオオオオオオーーーーーーー!!!!!!
轟音と同時に、さっきよりも眩しい、黄金色の光がその舞台すべてを覆い尽くしたーー!
「きゃあああーーーー!!ルーくんーー!」
「ああああーー!梨奈ーー!目を閉じろーー!」
慌てている俺ら二人に、
「ふうう......会長のあれはやっぱり健在のままなんですわ。これだけ神使力を開放していても観客席にまではおろか、この舞台でさえも破壊できないままにしただなんて......お陰で、民にまで被害が及ばずにして無事に思うのままに暴れられますわよねーー。」
と、聞き慣れた、その凛とした声がこちらにまで響いてきたのであるー!
そう。エレンは、この国のもっとも高貴な美少女である第一王女様で、この学園に現役で所属している<ナムバーズ>3位のヴァルキューロアなのである。
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