第十五話 春介遼二サイド:秘密結社の目論見
有栖川姫子が不審者と対峙した同日の夜、水曜日の午後23:20時、ゼンダルタ王城の会議室にて:
「まさか、あんな桁外れなヴァルキューロアがこの王都に自由に行き来できるだなんて.......」
ネネサ女王の方を向いて、そんな声を漏らしたのは頭が禿げて一房の髪の毛も生えてない鎧を首の下から纏う女性なのである。彼女は一人だけが座れる位置にあるテーブルの端の席に腰を降ろしている女王から右斜めの隣席に座っていて真剣な面持ちで会議に参加しているようだ。
「ネファース、何をそんなに驚いているの?<新天地の繁栄を齎す革命軍>の勢力は想像もつかない程に巨大な組織なのよ?なので、女王陛下の発動される<シェローナ>の探知と位置補足可能な範囲をすり抜けられるほどなありえない速度で動き回れる桁違いな奴がいても不思議ではないわ。」
ネファースという禿げた女騎士の疑念を振り払うかのようにそう納得させようとするウェーブの髪型の金髪な女騎士、アイーリンなのだが、それに続いて女王も話に割り込んでくる。
「アイーリンのいう通りじゃよ。あの秘密結社の会員は計り知れないほどに多くて、この周辺国だけじゃなくて、グロスカート大陸の各国に亘って枝を伸ばしている巨大な組織だと言われておる。これは3年前、ニシェーの率いた調査隊によるとはっきりと断言できる情報じゃ。」
「........そうです、陛下。その裏の社会というか、表舞台から全体を潜ませて活動してきたそれは数年前に実行したリーアン作戦にて、ブリオス町で工作活動をしていた4人の会員の逮捕に成功した際に全員はメラニスの副官に尋問されたが、どうやら<新天地の繁栄を齎す革命軍>の最終目的は自分たちの力で完全にカン・ウエイを打ち倒し、その後は世界征服というか、世界を(あるべき状態に戻すこと)という意味わからないものが含まれているようでしたね。 」
自分に関する事柄が話題にあがったためか、静かな声でそう言ったニシェー。この場にはニシェーだけじゃなくて、他の二人の<6英騎士レギナ>の騎士達も揃っているのだ。
「本当に頭おかしいったらないわねーー!<神の聖騎士>の力なしで<終わりの饗宴>に臨むとか、正気な沙汰じゃないわ。」
はき捨てるようにいっきにそんなことを言い放ったアイーリン。まあ、無理もない話なのだ。神滅鬼がまたも表舞台に姿を現して2年間しか経ってないけど、その前は人間同士の戦争も起こらずにずっと平和ボケのような時代が長年つづいてきたのだから、警戒体制と危機的意識をまったく自身に備えてない大勢の人の緩い心と思考につけ入る隙をあの秘密結社に晒してしまったんだ。そのお陰で、数十年の間にわたって彼らの手先のものは全大陸に浸透してきて、今に至るという訳。
「そんなバケモノが目の前に現れたというのに、何もされずに無事で生きて帰れたあの小娘はさぞ運がよかったんですな.....。」
「おい、メラニス殿ーー!!この世界リルナを救う重責を担っていらっしゃる<神の聖騎士>である有栖川姫子を(あの小娘)呼ばわりするのはシェレアーツ様の教えに反する重大な罪ですぞーー!!」
「--おっと!すまないな、ネファース。少女年齢にある未熟なヴァルキューロアに対してそう呼ぶのは口癖なので、ついつい彼女が<神の聖騎士>の一員であるということを忘れてしまった。許せ。」
いつもの口調で話していたらそんな重要な事実を頭からすっかり抜け落ちた隠密調査隊<ニルバーラ>の総司令官、メラニスがネファースに怒鳴られたのだ。
「まあ、まあ、口が滑ってようじゃし、それくらいにして良いぞ、ネファースよ。」
「し、しかし.....メラニス殿にあんな間違いを二度と起こさせないように、反省させることも念頭において少しだけの軽い罰をお与えになっては下さらないでしょうか......?」
「いいといっとるじゃろうがーー!何度も言わせるつもりじゃー!?御主はーー!」
「--ひっ!ごめんなさい、女王陛下ー!出過ぎた進言をしてしまいまして誠に申し訳御座いませんーー!」
慌てて女王に向かって、その禿げ頭をテーブルにすり付いて低頭しながら謝るネファースがいるのだった。その光景をみて、心なしか少しだけ苦笑して哀れみの視線を向けたメラニスがいるのだった。(悪かったな、わたしの所為であんたが女王に怒られる羽目になるのって)と言わんばかりの表情をしていた。
「......本題から脱線しそうになりましたね、さっきので。では、あの件ですけど、女王陛下のご発動された<シェローナ>の探知網をすり抜けるほどの動きをしていたあの全身が青い鎧に覆われた正体不明な手練れなヴァルキューロアがいきなり目前に登場したと同時に捕まえようとした不審者を溶かしたと証言して下さった有栖川様でしたが、召喚されて間のないのにも関わらずにあれほどの急激な成長を見せた彼女といい勝負をしていたその不審者の身体をあんなに容易に溶かせるほどの<現神術>って本当にありますの?」
疑念を女王に向かって尋ねたのはウェーブの髪型の女騎士、アイーリンである。
「......それについては妾も初めて聞いたのでわからんじゃ。今度、その者についての捜索と追跡をメラニスに頼みつつ、エレンやユリンにも頼んで、全国にあるすべての神殿に保管された文献だけじゃなくてこの王都にあるアルネス大図書館に行ってもらってそれらしき情報を探してもらうのじゃー。」
「そのあやしい者についてお調べするにつきましては理に適っている行動であると存じていますけれど、やはり有栖川様に前にいた別の不審者を捕まえてもらえなかったのが大きいな痛手でもありましたね?」
「それはわたしも同感だな。隠密行動を専門とするわたしの隊としても、それが残念に思えてならん。」
アイーリンの嘆きに対して、メラニスも同意を示した。どうやら、そのバケモノのような存在の登場した目的はその不審者が捕まって情報がばれないように、本人ごと消し去るにやってきたに違いない。どんな理由があったにせよ、<神の聖騎士>である有栖川姫子まで殺されなくて済んだのは不幸中の幸いと言っても差し支えないだろう。
「こそこそとこの王都で何をしていたのか、吐き出させる前に消されたのは少々腹も立つんじゃな......」
女王も悔しそうな唇を噛んで有栖川姫子の腰を抜かすほどの強敵による干渉に怒りを覚えているようだ。
「...では、我々<6英騎士レギナ>の新たな任務とかはないのでしょうか...?」
今度はニシェーがそう女王に伺ったのである。
「この前に、御主とメラニスをディグラン平野に行ってもらって、前にいた老人蒸発の件で調べてもらったんじゃろうーー?結局、その老人の神使力の痕跡も見つからなくて無駄足のようじゃったが、今はそれよりも急用ができてしもうたんじゃー。今回の件で既に気づいておるじゃろうー?隠密行動が専門のようだったとはいえ、手練れなヴァルキューロアを未知なる現神術で溶かしたのはただならぬ事態なのじゃ!なので、御主、アイーリン、ネファースと他の3人もこの調査に加わり、できる限りそのあやしい鎧姿の正体不明、国籍不明の者の在り処や活動拠点について、情報を探ってほしい。一々、妾がカレバスを使っていては部下を甘やかすだけになるので、別任務に当たっていてこの王都にいない他の3人にもそれについて伝えろー!いいなーー!?」
「「「了解ー!我が女王陛下様ーー!!」
ネネサの勅命に対し、3人の<6英騎士レギナ>が勢いよくそう返事したのであった。
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翌日、木曜日の寮。午前6:05時。
有栖川姫子の視点、彼女の部屋にて:
「..........ふぅ.........。」
やっと気持ちの整理がつきました。
昨夜、かつてない恐怖のせいであんな屈辱的な醜態を晒してしまいましたけれど、結局だれにも見られてなかったですし、前向きに考えるとしましょう。
でも、一つだけは絶対に忘れません。
この有栖川財閥の時期当主である私をあそこまで怯えさせるのは褒めるべきなことであると同時に、許さないと思う気持ちも私の中にあります。
なので、誓いましょう。
絶対に。
次に会うことになったら.......。
絶対に、君を圧倒するように負かす!
必ずです!
なので、その来るべき日に備えるように今日から、前とは比べられない程に一生懸命に剣術の訓練だけじゃなくて、現神術の習得や神使力のもっとも効果的な使い方もマスターし、遼二君も守っていけるような立派なヴァルキューロアとなり、最終的に戦闘経験も豊富になって誇らしい神の聖騎士として、この世界を救って、仲間4人で全員を無事に日本へ共に生きて帰らせて見せましょう!
絶対に、です!遼二君、森川さん、早山君.......4人で、立ちはだかるすべての強敵と災害を乗り越えて、日本に帰りますね!
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