67ハク
あの娘が置いてったおにぎりが妙に気になる…
あの忌まわしき記憶の供物に似ていた…そしてほのかに香る梅の匂い…
私を最後まで助けてくれた梅の木…
思わずおにぎりに手が伸びる、そのまま一口かぶりつくと…梅の酸味が口に広がる…
この味だ…
ふっと…昔の記憶が甦る…
「いつも見守って下さりありがとうございます」
「うちで取れたお米と梅です…あまり今年は取れませんで少しですが…」
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「古今ところ病気が流行り人手も減りました…お社を直せずすみません…」
「どうか…皆が冬を越せますように…」
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………
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何を今更…と思っていたが…
あれは…もしかしたら無けなしの供物だったのかもしれない
確かに社は壊されたが…必死で止めようとする声もあった…あの時の私には聞く余裕がなかったんだな…
懐かしい味に手が止まっていると…ファイが戻ってきた…
なぜ私の好きな梅を知っているのか不思議に思い聞くと…
部屋の様子と外の梅の木を見ただけでわかったと言う…
あの娘は…
ファイが何やらニヤニヤと笑いながら味の感想を求めて来る…思わず本音でが出てしまうと…
ファイが驚き固まってしまった…
その様子に直ぐにファイをさがらせる…
「また…これが食べられるとは…」
ハクは残りのおにぎりを全て平らげた…。
仕事終わりにファイにあの娘を呼ぶように言うと…ファイが難色を示す…
ファイがそうなるのも珍しい…どんな仕事もニコニコと無難にこなす奴なのに…
手間は取らせないから連れて来るように言うと渋々納得する…帰りは送るからとさがらせようとすると…
「また明日!」
と自分の存在を私にアピールしたようだ…取って食いなどしないのに…
ファイをさがらせると娘と向き合う…この娘をちゃんと見たのはこの時が二度目だった…
初めてはルシファー様に紹介された時…あの時はオドオドとしていだが…今は…同じ娘か?
とりあえずおにぎりの礼を言うと…嬉しそうに喜んでいた…作った奴が喜ぶとは…調子が狂う…
外の梅の木を見て…よかったら一緒に梅干しを作らないかと言われる…何故私が?
怪訝に思うと…自分がいなくなった後のことを心配していた…
確かに人と魔族とでは時間が違うが…
人とは死を恐れるものではないのか?
あいつらはそうだった…その為に私は…
しかしこの娘は死を受け入れているようだ…まだそんなにも生を受けてから幾分も経っていないはずなのに…
この様な人もいるのだな…
いや…私がきちんと見ていなかっただけか…
娘と梅の実がなったら作ることを約束して部屋へと送り届けると…
嬉しそうにしながら私が優しいと言う…
優しくなどした覚えもなく、どちらかと言うと辛くあたったつもりだが…そう…全てはルシファー様の為だ!そして梅の為…
そう口にすると…自分でも言ってて可笑しくなる…つい笑いが漏れると…
笑ってる方が素敵だと言われた…
私の十分の一もいきていない小娘が何を言ってるやら…
しかし…悪い気はしない…
まぁ…ルシファー様の愛娘だ…ルシファー様の為少しは可愛がってやろう…。