15
「いいんじゃないかい？」
声がする方を見るといるはずのない部屋の奥から人が現れる…。
ブラッドとファイが膝をついて頭を下げると…
「ルシファー様！」
リリアナが慌ててブラッド達と同じように膝を着くと
ルシファーは優しくリリアナを立たせる。
「綺麗な髪をこんな風にされて…可哀想に…」
ルシファーがリリアナの髪をそっと撫でると…
ふぁさ…
リリアナの髪が前と同じように元に戻る。
「さすが！ルシファー様！」
ファイがニヤニヤと喜び、ブラッドはホッとしたように安堵の表情を浮かべた。
「髪が…」
リリアナが自分の髪を触り驚いていると…
「リリアナ…」
「は、はい」
ルシファー様に呼ばれて姿勢を正すと…クスリと笑われる。
「そんなにかしこまらなくていいんですよ…」
ルシファーは笑いながら自分の髪を触ると…みるみるうちに綺麗な金色の髪が艶やかな黒髪へと変わっていく…。
「やっぱり…そちらの方がよくお似合いです！」
リリアナはニッコリと笑うと…
「前にもそう言ってくれましたね…？」
「えっ？」
リリアナがルシファー様の顔をじっと見つめる…
「あれは…あなたがまだ幼い時の事です…あなたの父上も母上もご健在の時の…」
ルシファーがリリアナのおでこをツンと触ると…今まで忘れていた記憶が甦る…。
「あれは…？お父様…お母様？ああ…まだお母様が元気な時ね…」
リリアナは幸せそうに笑うと…
「ええ…あの時私は魔族の国を継ぐのが大変嫌でしてね…元々争い事など好きではありませんでしたから…」
その時の事を思い出し苦笑しながら話している…
「そんな時に人の世に逃げ出しましてね…どうしようかと途方に暮れている時にあなた達親子に助けられました」
「何かしましたっけ？」
リリアナが首を傾げる…
「何も…何もしませんでした…ただお茶とお菓子をご馳走してくれて…他愛のない話しをして…あなたと楽しく遊びました…それがどんなに嬉しかった事か…」
リリアナの頭を懐かしそうに撫でると…
「あなたのお父上は私にまた何時でも息抜きにおいでと声をかけて下さいました…お母上は特製のクッキーを包んで下さって…」
「お母様のクッキー…あれって何だか元気が出るんですよね…」
リリアナが思い出した様に笑って目に涙を浮かべると…ルシファーが優しく涙を拭ってくれる。
「あなたも私が行くと嬉しそうにこの胸に飛び込んで来てくれました…」
リリアナが恥ずかしそうに頬を染めると…
「そんなに時間が私の心にどんなに安らぎを与えてくれた事か…」
しかし…ルシファーの顔が苦痛に歪むと…
「しばらく忙しく…訪れる事が出来ない間に…あなたのお母上が亡くなり…お父上は違う女性と結婚していました…」
リリアナが顔を伏せると…顎をそっと触り上向かせる。
「お父上が亡くなる前に少しだけ会いに来たのですよ…」
「えっ？」
「お父上は自分の病気の事を知り…あなたが一人になってしまう前にどうしても家族を作ってあげたかったようです…」
「お父様…」
リリアナが涙を我慢しようと力を込めると…
「よく今まで頑張りましたね…これからは私がお前のお父上の代わりになります…それが…モーリスとの最後の約束ですからね…」
ルシファーの言葉にリリアナは我慢が出来ずに子供の様に泣き出す。
ルシファーはリリアナを優しく抱きしめると…愛しい我が子にするように…髪にキスを落とした…。
