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ワースト・ハッピー・バースディ  作者: 小阪暦
【第一章】零と無限の管轄(オルターネイション)
9/23

8『参戦』

 彼方が目覚めたのは、またしても病院のベッドの上だった。


 「なんかデジャブ感じる……」


 時計を見ようとして上半身を起こすと全身に激痛が走った。


 「あいだだだだだだた!!」


 思わずベッドに再び倒れ込む。


 とりあえずは大人しくしていることを決めた彼方は、記憶が途切れる前の情報を整理することにした。



 (確か喫茶店の前にマシンが出現して、それを阿良節(あらふじ)さんらと撃退して、木舘(きだて)さんが……)



そこまで考えて思わずハッとする彼方。嫌な冷や汗が流れてくる。



 「木舘さん、大丈夫なんだろうか……ッ!?」



 自らの刃が少女に牙を向いた瞬間。


 否が応でも記憶がフラッシュバックした。



 彼女を傷つけてしまったことは彼方の心を酷く蝕んでいた。敵を倒せたとしても、大切な人を傷つけてしまっては意味がない。



 彼女に謝らなくては。


 そんなことを考えていると、病室の扉が勢い良く開いた。



 「やっほー新藤君!調子はどーでぃッ!?」


 「こら夏々莉(かがり)。外に響くから静かになさい。高校生でしょ?」



 深刻に悩む少年を傍目に、脳天気なテンションで少女と女性が現れた。



 「え、あれ……? 木舘さん、無事だったの……? 阿良節さん、一体……?」


 「あぁ、この子の怪我ね? 見せてあげなよ」


 「えぇ恥ずかしいなぁ……、なーんてね。ほらっ」


 そう言うと夏々莉は羽織っていたブレザーを脱いでシャツの袖を捲る。


 顕になった左腕には太巻きのギブスが巻かれていた。



 「あの後血はすぐに止まったんだけど、なんか骨にヒビが入ってるみたいでさー。数日はギブス生活なんだって」



 「ヒビ……」



 すると彼方は痛む体を無理に起こしてベッドから降りようとする。


 (い、いてぇ……ッ!)


 「ちょ、新藤君待ってって!」


 夏々莉の静止を振り払い、その場で深く頭を下げた。



 「本当にごめん。俺のせいで君に怪我を追わせてしまった。不甲斐ない」



 「そ、そんな……」



 「…………ハァ」



 二人の後ろからため息をついた阿良節が彼方の前に出てきた。

 

 そうして大きく手を振りかぶり、思い切り彼方の背中に叩きつけた。



 「ぎ、あああああッ!?」



 悶絶する彼方の腕を掴み上げ、無理やりベッドに乗せて寝転ばせた。



 「な、なにするんです……ッ! あぁ……ッ!」


 「女の子の話ぐらい最後まで聞きなさい! それに、傷なら君のほうが深いんだよ?」



 「えっ? 俺のほうが……?」


 そうよ、と言い阿良節は懐からカルテを取り出した。


 「ひび割れ程度の四肢の疲労骨折、打撲、切り傷。あと貧血もあったね。無事なのは背中ぐらいだよ」


 「ま、まじか……俺、割とボロボロだったんだ……」


 「戦闘中に負傷した様子は無かったのにね。だからこそ、君の怪我は零と無限の管轄(オルターネイション)のバックファイアじゃないかって私は思うの」


 「……確かに、前回も全身に激痛が走ってた」


 「だからしばらくは安静にしてなさい。私からはとりあえず以上です。じゃあ次は夏々莉の番ね」


 「え!? 私ぃッ!? そんな雑なパスしないでくださいよ〜……」


 口ではそういうも、待ってましたとばかりの表情を浮かべる夏々莉。


 彼方も彼女の方を向き直る。



 「あのさ、月並みのセリフだけど……新藤君は悪くないよ。本来なら君は私達に守られるべき市民だもの。私達が体を張って守らないといけないんだ」


 夏々莉は左腕に手を当てて、少し寂しそうに言う。


 「だからこの傷は恥なの。守るべき君を危険に晒した私達の罰。君が悲しまなくてもいいんだ」


 「木舘さん……」


 「それにさ」



 彼方を見つめる少女の顔は少し赤らんでいた。


 

 「心配してくれたの、すごく嬉しかった」




 「―――――――、」

 


 彼方は、少し考えた。



 自らが盾となり市民を護る。


 彼女達の在り方で多くの人々が救われていた。


 自分だってその一人だ。



 だけど今は、迫る悪意に打ち勝つ矛がある。


 盾と体を張る彼女達のつゆ払いができる。


 

 目の前の大切な人を、護ることができる。



 救うことができる。



 強大な力にその身を操られ、意識が朦朧としていた中でも確かに聞こえた声があった。




 私は君に救われたんだよ。



 

 彼方は、一歩を踏み出すべきか否か、少し考えた。


 


 そして。



 「阿良節さん」



 決断は随分前に済ましていた。



 「俺、JOKER(ジョーカー)に入ります」



 阿良節の表情は読めない。


 喜びか、悲しみか。

 


 「……SEEKER(シーカー)幹部の建前上、ああ言う言い方をしてしまったけれど……本当にいいのかい?」


 「この力を手にした時から、誰かを守る為に戦うことは薄々と決めていました。あなたも木舘さんも、俺にイエスと答えてほしい感じが漂ってたし」


 でも、と彼方は付け足しながら少し俯く。


「正直なところ、俺は阿良節さんのことを信用し切れてはいません。死んだ身内と同じ姿格好の女の人が我々に協力してほしいと急に持ちかけてきたって、質の悪い詐欺かと思いましたよ」


 「…………」


 「それでも、木舘さんや他の仲間の人達と話している姿を見て、そんなに悪い人じゃないんだと思いました。木舘さんは仲良しなクラスメートで命の恩人だし、彼女が信頼しているってことは信じてもいいのかなって」



 それに、と彼方は阿良節を目を見据える。



 「例え影武者だったとしても、(はるか)姉は誰かを悪意で裏切るような人じゃない」



 「彼方、君」



 阿良節は彼方から視線を反らした。


 彼の目を見ていられなくなったのだろうか。



 「私は、遥との約束を破ってしまった。裏切りを働いたんだ。君が思うほど善良な人間ではないよ」


 「遥姉ならそこまで見通してると思います。あの人は頭の切れる人ですし」


 「……君の気持ちは嬉しいよ。我々の計画には君は不可欠だし、夏々莉も楽しく過ごせると思う。だけど、こんな強引なやり方で引き入れてしまったことは、本当に申し訳なく思う……」


 「顔を上げてください、阿良節さん」


 顔を上げると、再び彼方と目があった。


 罪悪感で潰されそうになっても、この目は反らしちゃいけないと感じた。


 「ごめんなさいは無しだ。貴方達が俺の命を救ってくれた。なら僕は貴方達のために力を振るう。これでおあいこなんです。俺が欲しいのはそんな言葉じゃない」



 そう言うと彼方は右手を差し出した。


 契を結ぶべく、阿良節の答えを待つ。



 阿良節は瞳を閉じ、小さく息を吸い込んだ。



 「…………そうだね」





 そして優しく微笑み、彼方の手をとった。





 「――――――よろしくッ!」







 

 数分後。


 「彼方君。協力してもらえるのは本当にありがたいんだけど、君貧弱すぎない?」


 「あなた酷すぎひん? もうちょっと言い方あるやろ?」


 唐突に貶されてつい関西弁が出てしまう彼方。


 しかし阿良節の言うことにも一理ある。


 「まぁそりゃ、零と無限の管轄を使うたびに全身ボロボロになってぶっ倒れてちゃまずいですよね……」


 「彼方君の体も心配だしね。というわけで……」



 カモンッ!と阿良節が号令をかけると、病室の扉が開かれ二人の男が入ってきた。



 矢原槍史(やはらそうし)空壁塔真(そらかべとうま)だ。


 

 おまけに二人揃ってタンクトップ姿で、えげつなく鍛えられた筋肉が露出していた。



 「この二人が専属でトレーニングしてくれるらしいので、頑張ってね!」


 「おう少年! いや、彼方か! お前もバキバキの筋肉に鍛え上げてやるからよろしくなッ!」


 「安心しろ。筋トレ無しでは生きられない体にしてやる」



 彼方は聞き捨てならない言葉を聞き、明日から地獄の日々が送られることを確信した。


 言ってしまった手前、投げ出さないように努力はしようと腹を括る。



 「よ、よろしくお願いしますどうぞお手柔らかに……」



 横で一部始終を見ていた夏々莉も、苦笑いを浮かべていた。



 「が、頑張ってね〜……」





 ゴリラのような体格になった彼方を見てみたいような見たくないような、複雑な気持ちになった夏々莉であった。

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