0『プロローグ』
「どこにも行かないで」どれだけ叫んでも。
届かぬまま遠ざかる、あの背中。
新藤彼方は自分が幸せ者だと心底思った。
齢13歳の誕生日に親愛なる姉の遥が盛大なサプライズを用意し、彼を祝ってくれたことがとても嬉しかった。
季節は冬。
12月18日。
雪の降る街を二人で歩き、家に帰って家族みんなと食べるホールケーキを遥と二人で買い出しに行った彼方は只々喜びで満ち溢れ、ついついスキップで歩道橋を渡ってしまうほどだった。
遥の用意したサプライズに彼方は今まで生きてきた中で一番驚かされた。
彼方はサプライズをするのもされるのも好きだ。遥の誕生日にサプライズを企て、大変彼女が喜んでくれたことを忘れられずにいた。
それゆえ少しばかり期待もしていたが、そのハードルを優に超える贈り物を彼女は差し出した。
雪。曇り空。喧騒。
街のイルミネーションの明かり。少し早めのクリスマスツリー。
蠢く機械の駆動音。擦れ合う金属の摩擦音。
通りゆく人々の声。声。声。
絶叫。悲鳴。
舞う血飛沫。鼻につくオイルと、鉄と、脂の臭い。
屍。腰を失った少女。首だけで泣く青年。
新藤遥の、死。
新藤彼方は自分が幸せ者だと心底思っていた。
世界に愛されているとさえ、ついさっきまで思い込んでいた。
「―――――――――ッ」
声にならない音が彼方の口から吹き出る。
血の味が、音が出なくなるまで、彼は叫び続ける。
ハハハ、と。どこからともなく嘲笑い声がした。
まるで神様か、この世界そのものから出たように聞こえた。
「史上最悪の誕生日、おめでとう」
12月18日。
突如世界を穿った魔神達により、今までの世界の土台が崩壊した。
世界の螺子の外れる音が、反響する―――。
初めての連載、作品です。
よろしくお願いします!