わからないことだらけ
シャーロットが去ったのはいいが、時間だけが過ぎただけで結局ほとんど情報は得られないままだった。
家探しするしかないか。
「わわっ、もう9時回っちゃったじゃない! 夕飯どうしよう、お風呂もまだ入ってないし」
「今からじゃ遅くなるから今日の夕飯はコレでもいいか?」
「何コレ……ビスケット?」
「エルフの作った携帯食だよ。 一欠片だけでお腹を満たすから便利なんだ」
パキッと割って一欠片を愛菜に手渡し、俺も一欠片割って口に放り込んだ。
愛菜はビスケットを見つめながら、エルフの……とかつぶやいてから口にする。
「——凄いコレ! たったのこれっぽっちでお腹いっぱいになったわ! ……でもコレって太ったりしないわよね?」
そこまで知るか。
お腹を満たした後、愛菜は改めて風呂に入りに行き、俺は最初に調べようとした部屋に向かった。
今度こそ部屋の電気をつけて見回す。
シングルベッドが1つあって、その上には大きめのぬいぐるみが置いてある。 化粧台や机、タンスと揃っていて随分と女の子らしい部屋だ。
ここは愛菜の部屋か。
この部屋は家探ししたらダメだろうと思ったが、ふと壁に飾られた写真に目がいく。 そこには愛菜と2人の男女の姿が写っていた。
これが愛菜の両親、だよな。
愛菜の容姿は母親似のようだ。 将来を約束されたような容姿だが、となるとあの性格は父親に似たのか?
とりあえず愛菜に見つかるのもマズい。 さっさと次の部屋に移ろう。
愛菜の部屋の隣のドアを開けると、そこは使っていない部屋のようで色々なものが置いてある。
そのほとんどが処分に困ったようなものばかりのようだ。
ここを探すのは手間がかかりそうだ。 それに魔法使いってぐらいなんだから、魔法感知を使った方がはやいだろうな。
となれば記憶してないから明日にでも調べたほうがいい。
リビングに戻るとちょうど風呂から上がって、パジャマ姿になった愛菜が顔を覗かせてきた。
「何か見つかった?」
「パッと見た感じじゃわからないな。 明日にでも魔法で調べてみるよ」
「それって今できないの?」
俺の世界ではソーサラーと言われる先天性で魔法が使える者でもない限り、魔法は記憶しないと使えない。 その事を説明してあげると興味深げに愛菜は聞いていた。
「あなたの世界の魔法って面倒なのね。 お父さんはパパッと魔法を使っていたわよ? ってあれ? じゃあ私が今まで見ていたのは魔法じゃなかったのかしら?」
「ドルイド魔法は精霊の力を借りるから記憶は必要ない。神聖魔法と言われる魔法も同様だ」
「なんだかゲームみたいね」
そのまさにゲームみたいな世界なんだけどな。
明日調べることが決まると愛菜はそのまま自分の部屋に、俺はそのあと風呂に入ってからリビングで1人考える事にする。
愛菜とシャーロットの話が食い違っている部分、それは守護者の部分で、愛菜は召喚するのはこの世界に存在しない住人だと言い、シャーロットは神話やおとぎ話の登場人物だと言った。
それってつまり、実話じゃなければオールオッケーって事なのか? そういやシャーロットの連れてる守護者の名前を聞いてなかった……あれはやっぱりヘラクレスだったのか?
「わかんね……」
わけがわからない事だらけだが、1つわかる事は宝具だとかそういったものはないという事だ。
もしそんなのがあったら俺の断罪の目と贖罪の杖による攻撃は、宝具の中でもEX攻撃とかの扱いになるんだろうな。
そんなことを考えているうちに俺はいつの間にか眠りについていた。
翌朝、鞄から取り出した魔法書を開いて覚えられる魔法を記憶していく。
魔法使いとしての能力の低い俺が覚えられる魔法はたかだか数回分、よく考えてから選んで記憶していて、その姿を愛菜が興味深げに眺めている、という状況だ。
「なんだか勉強してるみたいね」
「どちらかというと勉強よりは試験で出るところを丸暗記しているの方が近いかな?」
「ふーん」
そこは興味ないのかよ。
「それでなんだけど、愛菜のお父さんのスーツを借りたいんだけどいいかな?」
「別にいいけど……何に使うつもりよ?」
「それは今は秘密だよ」
愛菜は首を傾げていたが、俺にはアイデアがあった。
愛菜が用意した朝食を済ませ、玄関に行き一緒に家を出る。
「なんであなたまでついてくるのよ」
「いやね、昨日ちょっと調べようと思ったんだけど、俺1人の時に家探しはやめておくかなと思ったんだよ」
「それはわかったけど、なんで私についてくるのかを聞いているのよ!」
なんでって決まってると思うんだが……
昨日帰り道で襲われたのを忘れたのか?
「愛菜の警護のつもりだよ」
「それはフェンリルがいるから大丈夫なんでしょ?」
ピアスをつけてあるのを見せてくる。
「昨日教団の奴を仕留めたからな。 次が来るなら間違いなく昨日よりも腕が立つ奴が来るはずだ。 だから登下校の時はついていくことにするよ」
「ふ、ふん! そういう理由なら仕方がないわね!」
しぶしぶのように言っているが、愛菜の頬が赤くなっている。
俺としてはこれ以上の関係に発展されても困るが愛菜を守らねばならない。 だが、こういう危険な状況が続くようだと愛菜にとっては吊り橋効果にもなりかねないだろう。
となると俺がしっかりしなきゃダメだな。
学校の近くまで来ればやはり当然のように同じ学校の生徒たちからヒソヒソ声が聞こえてくる。
「はぁ……失敗したわ……」
「済まない、俺ももっと早くに気がつくべきだった」
何をかなんて言わなくても分かるだろう。
学生であればまだ登校中に待ち合わせたとか言い訳もできるだろうが、朝っぱらから学生でもない男と一緒に登校してればどういう関係か疑われても仕方がない。
こんな事なら女体化しておくべきだったのかもしれないが、それはそれでまた大事になりかねない。
「そ、それじゃあもう良いから」
気がつけば校門の前まで来ていた。
「誤解は産むかもしれないがしばらくの間だけだ」
「そんな事ぐらいわかってるわよ、それじゃあね!」
小走りに学校に入っていく姿を見送った。
さて、俺も行動に移るかな……