試される
「貴方が何者か興味が湧いたわ」
「ですから愛菜が説明した通り、俺のいる世界では創造神の執行者、世界の守護者という役職の者ですよ」
シャーロットは目を細め、つい先ほどまで見せていた眼差しとは打って変わり、冷血な表情に変わっている。
「冗談はその辺にしてもらえませんか?」
「シャーロットおばさま!?」
「愛菜ちゃん、悪いけど彼を試させてもらうわ」
やれやれ、結局こうなるのか。
しかしこんな建物の中で戦ったらとんでもないことになるぞ?
「家の心配ならご無用よ?」
俺の考えを悟ったのかシャーロットが言い当ててくる。
そして直後、奇妙な空間に変化していく。
何もない、まるで無の空間だ。
「これはまさか固有結界とかいうやつか?」
「あら、よく知ってるわね。 貴方の世界でも存在するのかしら?」
そんな訳はない。 単に俺が思い浮かんだ言葉を言ったまでだ。
「試す、と言うなら俺も一応加減はするが、どれぐらい加減したらいいかわからないからどうなっても知らないぞ?」
「ふふ、舐められたものね。 こう見えて私は魔法使い協会で裏切り者の懲罰を任されているのよ?」
どうやら一戦交えないと理解してくれそうにはないらしい。 鞄から贖罪の杖を取り出して身構えた。
「まずはご挨拶程度よ」
シャーロットが手振りをすると、魔法矢に似たようなものが大量に浮かび上がる。
どうやら魔法の詠唱は必要ないようだ。
「まず1本!」
合図で俺目掛けて魔法矢のようなものが射出されて、勢いよく飛んでくる。
僅かに身を避けてみたが、魔法矢のような追尾能力は無く通り抜けていった。
「次っ!」
すぐに次が射出される。
今度は俺も騎士魔法の聖剣を使い白く輝いた贖罪の杖で打ち返して反射させた。
反射させた事に驚いているシャーロットを、筋骨隆々としたシャーロットの守護者がその腕で守る。
「驚いたわ……まさか魔法を跳ね返すなんて……でも、全部一斉にならどうかしら?」
おいおい! それ俺じゃなかったら絶対に危ないだろう! どこが試すだ!
シャーロットが手を振り上げてから下ろすと、全部の光弾が一斉に俺に向かって飛んできた。
「サハラさん!」
愛菜の心配する声が響く。
が、光弾は俺を素通りしていった。
「呼んだか?」
「「え!?」」
愛菜とシャーロットが同時に声をあげる。
俺には縮地法という視界の範囲なら一瞬で移動する力がある。 それで光弾が迫る位置から愛菜の真横へ移動しただけだ。
「行って!」
シャーロットが驚いたのもつかの間、今度は守護者をけしかけてきた。
はっきり言ってここまで来るとマジで俺を殺ろうとしてるようにしか思えない。
筋骨隆々の守護者はいつの間にか手にした剣で俺に向かってくる……って、俺の隣には愛菜がいるんだぞ?
思い切り振り下ろされた剣に俺は片腕を伸ばした。
——バシィィィッ!
剣が俺の手の手前で止まる。
騎士魔法の防壁でシャーロットの守護者の攻撃を食い止めた。
シャーロットの守護者は雄叫びをあげながら剣をめちゃくちゃに振ってくるが、対物理攻撃に対して防壁はそうそう敗れはしない。
「そろそろシャーロットもあんたも無駄なことは止めにしてもらうぞ? でないとお試しの範囲を超える」
——グルルルルル……
フェンリルがシャーロットの背後に現れて唸り声をあげる。 もちろん俺が攻撃はするなと思念で伝えておいたからだ。
ハッとシャーロットが振り返ったが時すでに遅く、フェンリルがシャーロットを押し倒して首元に口を開けていつでも噛み付ける体勢で動きを止める。
それを見たシャーロットの守護者が救いに向かおうと攻撃の手を止めた。
「もう良いわ!」
シャーロットがそう声をあげるとシャーロットの守護者は大人しくなり、固有結界も消えて元のリビングに戻る。
「フェンリルももう良いぞ」
俺もそれを確認してフェンリルにストップをかける。
“俺の出番コレで終わりか?”
トコトコ俺の元まで歩いてきて尻尾を振ってくる。
シャーロットはというと立ち上がって、改めて驚いた顔を見せている。
「貴方の強さめちゃくちゃね。 私の魔法は簡単に避けるし守護者の攻撃もまったく効かない……魔力提供無しでここまで戦っても平気だなんて本当に信じられないわ」
「そいつはどうも」
“どうも”
「1つ聞いいても良いかしら? 貴方はなんで契約もないのに愛菜ちゃんを守るの?」
シャーロットもそうだが、愛菜も真剣な眼差しで見つめてきている。
「内情を知って放っておけなかった。 ってとこかな? ああ、あと愛菜に召還してもらわないと困るからだ」
“困るからだ!”
それを聞いてクスクス笑い出すシャーロットと、目をまん丸にして愛菜が固まっている。
「愛菜ちゃん、彼がいれば私より安心できるわ。 きっと愛菜ちゃんの想いに応えて彼は来てくれたんだわ」
そんなつもりで召喚されたつもりはさらさらないし、手助けだって成り行きでしかないんだけどな。
シャーロットが玄関の方へ歩いていく。
「あんたはどうするんだ?」
“どうするんだ”
「私は姫川夫妻……愛菜ちゃんの両親の居場所を探るわ。 愛菜ちゃんの事よろしくお願いするわね」
「ああ、そっちこそ気をつけてくれ」
“気をつけろ”
シャーロットが愛菜をそっと抱きしめた。
「必ずお父さんとお母さんを見つけ出してみせるわ。 だから愛菜ちゃんも気をしっかりね」
「シャーロットおばさま……」
この隙に俺はフェンリルを1発ぶん殴っておく。 フェンリルは文句を言いながらピアスに戻っていった。
夜だというのにシャーロットはそのまま家を出て行こうとする。
「せめて今晩ぐらい泊まっていけば良いのに」
「愛菜ちゃんが安全だとわかったんだもの、少しでも急いで愛菜ちゃんの両親を探す事に専念するわ」
で、シャーロットは俺を見てくる。
「それじゃあ愛菜ちゃんの事を頼んだわね」
「ああ、任された」
玄関を出たところでシャーロットが振り返ってくる。
「愛菜ちゃん、貴方に好意があるみたいだから襲っちゃっても大丈夫だと思うわよ?」
「襲わないわっ!」
「誰がこんな奴!」
クスクス笑いながら去っていく。 シャーロットの守護者もその後をついていった。
見送った後、ふと思いだす……
「ヤバい、結局ほとんど情報得られなかったじゃん」