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貞操の危機

 愛菜の家に戻った俺は早速気になったことを尋ねなければならない。


「愛菜は教団は英霊を使うと言っていたよな? だけどあいつは英霊なんかじゃない。 むしろ英雄の敵だった奴だぞ?」

「私だって全部が全部知ってるわけじゃないの。 それよりも怪我大丈夫なの? ほら、その肩の傷……」


 すっかり忘れていた。 というか俺に対する愛菜の風当たりが随分と和らいだ気がするな。


「ああこれなら……」


 今ならドルイド魔法も使える。 すぐに治療の魔法を使って傷を治療した。


「凄い……傷がみるみるうちに塞がって傷すら消えちゃった……」


 まぁ今はフェンリルが居るからドルイド魔法も使えるからな。 もしいない時だったら治療はできなかっただろう。

 しかし全部が全部知ってるわけじゃない……か。 詳しい人物がいて欲しいところなんだが、そう都合よくいてくれはしないよな。

 だとするとやはり家探ししかないよな。


「愛菜、君が知らないというのなら、少しこの家を家探ししてみたい。 たぶんご両親なら少なくとも魔法使い協会の事や教団の事を記した物を所有しているかもしれない」

「そうね……じゃあお願いしちゃっていい? 私、お風呂に入ったら晩御飯の用意しておくから。 ええっと、サハラさんは好き嫌いとかある?」

「特にないと思う……」

「何よ?」

「いや、意外だったからさ」

「料理できないとでも思ったの?」

「いや、俺の分まで作ってくれるとか、好き嫌いまで聞いてくれたのがね」


 愛菜の顔が真っ赤になる。 これは間違いなくよくない展開だ。


「だ、だって仕方がないでしょ! 私が召喚しちゃったんだから、必要最低限の世話ぐらいするわよ!」

「そうか、サンキューな」


 少しだけ元の調子に戻ったか? これからはあまり余計なことを言うのはよした方が良さそうだな。



 そんなわけで、許可をもらったからには何か見つけ出さなきゃならない。

 とりあえず2階の一番奥の部屋から順番に調べることにした。

 中に入って電気をつけようとした時、感知(センス)に人の気配を感じる。 それも2人……もちろん家の中ではなく外からだ。

 急いで階段を降りると、髪の毛から水を滴らせバスタオルを巻いただけの格好の愛菜がいた。


「侵入者よ!」

「わかってるが、その前にその格好をなんとかしてくれ」

「そんな事を言われたって……」


 何故そこで赤くなるよ!


 ——ピンポーン


 相手はご丁寧なことにチャイムを鳴らしてきた。


「って事は客か?」

「さぁ? 荷物とかが届く予定は無かったはずよ」

「俺が出よう。 その間に着替えを済ませてくれ」


 というわけで玄関まで行き、ドア穴から覗くと宅配関係の人ではなさそうだ。 そもそも2人だしな。


「どちら様ですか?」


 声をかけてみる。


「そういうあなたこそ誰ですか? 姫川家の者ではありませんね?」


 愛菜の事を、いや、姫川家の事を知っている。 となると思いつくのは愛菜が言っていた知り合いの味方と言っていた人物か?

 だが念には念を入れておくべきだろうな。


「えっと俺は……愛菜の彼氏です」

「あらあら……あの娘もそういう年頃になったのね」


 やはりそのようだが、勝手に開けてもいいんだろうか。


「どうしたの?」

「その声、愛菜ちゃんね?」


 着替えが終わった愛菜が髪をバスタオルで拭きながら俺の元にきた。 訪問者はやはり愛菜の知り合いらしい。


「シャーロットおばさま!?」


 そう叫ぶなり愛菜は勢いよくドアを開けて飛びついていった。


 おいおい、もう少し慎重になってくれよ。


 ドアが開くとそこには年齢はおそらく30代前後、西洋系の人物で女優かと思うぐらいの美人がいる。

 愛菜はシャーロットをおばさまと言っているが、どちらかといえばお姉さまの間違いじゃないのか?

 そしてその後ろには筋骨隆々としたどこぞの物語に出てきそうな英雄のような男が控えていた。


「すっかり大きくなったわね、愛菜ちゃん」

「シャーロットおばさまは全然変わってないね」

「ふふ、ありがとう。 お世辞でも嬉しいわ。 それで、そちらが愛菜ちゃんの彼氏さん? 家に連れ込んじゃうなんて愛菜ちゃんも随分と隅に置けないわね」

「……違う」


 不意に後ろに立っていた男が俺を睨みつけながら口を開いた。


「——なるほど、両親が攫われたと聞いて慌ててここに来たのだけど……どうやら召喚魔法で守護者(ガーディアン)の呼び出し方は教わっていたのね、彼、頼れるの?」


 こっちに来てからずっと俺ってこんな扱いだな。


「ええ!」

「ふふ、そうみたいね」


 あ、っと愛菜が気がついて慌てて距離を置いた。

 最初のハグ以降、愛菜は俺の腕に体を絡めながら話していたからだ。


「こ、これは違うの!」

「別に構わないけど、守護者(ガーディアン)守護者(ガーディアン)だからあまり深入りはしない方がいいわよ?」

「だから違うの!」




 というわけで、シャーロットと男が俺を横切って家の中へ入っていく。

 通り過ぎ様シャーロットからは良い匂いがして、男がそんな俺を睨むように見ながら通っていった。


 リビングに行き、愛菜がお茶の用意しているのを静寂の中待っているわけだが、どうにも落ち着かない。

 なぜならシャーロットがやたらと俺を舐めるように見ているからだ。


「……貴方は一体何の神話の者なの?」


 やっと話しかけてきたと思えば愛菜が言った事とは違うことを聞いてくる。


「神話?」

「貴方は自分の神話を知らないの?」

「いや、俺はそういう存在じゃないですが……」


 シャーロットの話を聞く限りだと、魔法使いが召喚するのは神話に登場する者のように聞こえる。

 という事は、シャーロットの隣に座っている男もそういう類いなのか?


「俺は愛菜からは魔法使いはこの世界の住人じゃない者を召喚して、教団が英霊を召喚すると聞きましたが間違いだったんですか?」

「あら……そうすると愛菜ちゃんに召喚魔法を教えた時、既に姫川夫妻は身の危険を感じていたようね……魔法使いも教団も召喚できるのは神話やおとぎ話の登場人物であって実在しない者よ」


 と、そこでなんで俺の膝に手を添えてくるよ!


「で、ですけど、教団は神話やおとぎ話の登場人物でも、その敵だったものを呼んでいたようでしたよ?」


 これは俺がメデューサを見ての想定のつもりだったが、シャーロットが非常に整った顔を近づけてきて片眉が上がった事から正解だったようだ。



「お待たせ! 一体何の話をしてたかしら!」


 うん、この構図はどう見てもシャーロットが俺に迫ってるようにも見えなくもないよな。


「あら……愛菜ちゃんってば妬いてるのかしら?」

「ち、が、い、ま、す!」


 荒々しく紅茶を置いていく愛菜の手を見たシャーロットが不意に愛菜の腕を掴んだ。


「ちょっと愛菜ちゃん! 貴女契約の証はどうしたの?」

「その人に速攻で破棄されたわよ!」

「……えっ!?」


 シャーロットが急に俺を警戒しだす。 愛菜も警戒が無くなれば襲いかかってくる奴もいると言っていたから無理もないのだろう。


「順を追って話すわ。 とりあえずその人……サハラさんは私の味方だから安心して」


 愛菜が出会ってからの事を順を追って話していく。

 その間に俺はさっきシャーロットが言った事から推測をしてみることにした。


 魔法使いも教団も召喚魔法で守護者(ガーディアン)と言われる神話やおとぎ話の登場人物を呼び出せるようだ。 となるとシャーロットの横にいる男も当然その手の類になるのだろう。 というか、ますますアレに似ているじゃないか。

 そんな事を考えている間にどうやら襲撃者が現れる前あたりまで話し終えたようだ。


「つまりは、彼は元は日本人だったってことかしら?」

「信じられない話だけど、そうみたいよ」

「でもそうなると契約が切れた守護者(ガーディアン)は数日しか居られない……あっ! つまりそういう事なのね?」


 ポンっと1人勝手に合点がいったように手を叩いているがどういう事だよ。 まぁ想像はつくけどさ。


「それで2人はそういう関係なのね!」

「ち、が、い、ま、す!」

「そうなの? でもそうすると彼、いつ消えちゃうかわからないわね」


 さすが扱いに慣れてるな。 愛菜の全力拒否をさらっと聞き流したよ。


「魔力は常に消費するのはわかってるわよね? そんな状況で氷の最上位精霊を呼び出させて……それで戦闘なんてさせたら彼、消えちゃうわよ?」

「もう2度ほど戦ったわよ、彼……」

「何ですって!? それで貴方は何ともないの?」


 本当は何ともないのだが、ここは少し脅かしてみるか?


「言われてみれば少し……」

「え、嘘!?」


 愛菜が焦っている。 笑いそうになるのをもう少し我慢してみることにする。


「愛菜ちゃんに彼が必要ならば……やるべき事はわかってるわね?」

「う、うん……」


 愛菜のやつ本気で考え混んでないよな? というかだ、魔力提供っていうのは男から女へというのならなんとなくわかるが、それで女から男へも可能なのか?

 疑問に思ったことは聞いておくべきだろう。


「ちなみにその魔力提供というのはどうやるんですか? そりゃなんとなくはわかるんですけどね」

「貴方の場合、男だから愛菜が魔力を注入するしかないわ」


 だからそれをどうやるのかを知りたいわけなんだが。


「わ、私が魔力で男性に似せたものを構成して……そ、それで、その……行為に及ぶのよ!」


 ちょっ! まっ! そ、それって……

 ——俺が掘られるのかよ!!


「それはちょっと勘弁してくれ!」

「だ、大丈夫よ、サハラさん女体化だってできるでしょ?」

「あら、それなら問題なさそうね」


 問題大アリだ!

 さすがに嘘だと言わなきゃ俺の貞操が危うい。 もっとも3人も嫁がいたら貞操を守ってるのかわからないが。


「実は嘘。 全然平気だから。 何ともないから!」

「本当に? 我慢してない?」


 うおお! 愛菜のやつ本気で心配してくれるのはちょっとだけ嬉しいが、信じていないぞ!


「本当だ。 いたって問題ない」

「信じられない……魔力提供ないまま戦闘を2回もして平気だなんて……」

「1回目はただの人間だったし、2回目はフェンリルが相手をしたからかな……ははは」


 シャーロットは俺の顔をまじまじと見つめてくる。 その顔は先程までの優しげな表情とは変わっている。


「サハラさん、本当に辛かったら無理をしないで言ってよね」


 愛菜は愛菜でどうやら俺の魔力を本気で心配していた。


 まったく、シャーロットは俺を疑心めいた目で見てくるし、愛菜は僅かづつではあるけど心を開きつつある。

 これは非常によろしくない状況だぞ。




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