教団との初戦闘
1つ1つ愛菜が答えてくる。
警察に届け出を出さないのは、被害を広げたくないからだそうだ。 つまり教団は警察すらも殺しかねないということだろう。
そして愛菜の両親が攫われたのは、魔法使い連盟の幹部だったからだという。 魔法使い連盟はおそらく魔法使い連盟本部の場所を聞きだそうとしているんじゃないかと、愛菜の両親が攫われてからは1度会ったきり連絡がつかなくなったそうだ。 おそらくは愛菜の一家は見捨てられたのかもしれない。
愛菜はどういう魔法が使えるのかについてになると急に口ごもりだす。
「私が教えてもらったのは、召喚魔法と召還魔法だけよ」
もし両親の身に何かあったら、守り手を召喚するように言われていたらしい。 たぶん両親は愛菜には魔法使いとしてではなく、普通に人生を送ってもらいたかったとかなんだろう。
知り合いの味方、これは1人だけいるそうだ。 ただし定住していないため、今どこにいるかわからないそうだ。
ここまで聞く限り、つくづく愛菜が哀れに思えてしまう。 人間に限らず誰もが出生は選べない。 愛菜は姫川家に生まれたというだけで辛い人生を送ることを義務付けられたわけだ。
何か言葉をかけてやりたい。 だがここで下手に優しい言葉をかけてしまうと、愛菜の張り詰めているものが切れてしまいかねないだろう。
申し訳ないとは思ったが、頷くだけにしておいた。
最後に敵と言っている教団についてだが、向こうがこちらを知らないように、教団もその素性を見せてはこないらしい。
大抵はこのあいだの襲撃者にように教団の内情を知らされていない下の者たちが襲ってくるんだそうだが、魔法使いが召喚魔法で自分の身を守るために守護者を呼び出すのと同じく、教団の幹部と思われる者は英霊と言われる過去の英雄を使役してくるらしい。
ははっ……知っていたのと設定は違ったが、やっぱ英霊……出てくるのかよ。
となるとヘラクレスとかと戦うわけか俺は……そんでもってアーサー王が実は女の子で……
「これで全て答えたわよ……って、何かいやらしい顔をしてるんだけど?」
顔に出てたか? ヤバいヤバい。
「サ、サンキュー……と言いたいが、それじゃあ探しようもないな。 家に帰って両親の部屋を調べてみるしかないだろうな」
愛菜と腕を組んだまま家路に向かう。 会話をする事もなく、俺は俺で考え事をしながらだった。
愛菜の家は閑静な住宅地にあるが、そこに行くまでに途中人気がなくなる場所がある。
そこを歩いている時に背後から何者かが近づいてきた。
「振り返らずにそのまま聞いてくれ、ついてくる奴が1人いるぞ」
「襲撃者かしら?」
「そこまではわからない。 だがある場所からずっと一定の距離を取りながらついてきている」
「任せて」
小さく愛菜が返事を返したあとだ。
「ぎゅ〜!」
「な、なんだよ急に!」
突然胸を押しつけ抱きつかれれば本気で焦る。 そりゃ当然だ、女子高生に抱きつかれれば誰しも慌てるに決まっている。 しかも愛菜は見た目は十分に可愛い。
「お、おいおいおい」
強引に押されて道の端までよると潤んだ瞳で俺を見つめてくる。 ……のではなく、目で追ってくるものを見ろと合図をしてくる。
やっと意味を理解した俺はキョロキョロさせたフリをして、ついてきていた相手を確認する。
見るからに怪しい上下真っ白い服装をしている。 まるでどこぞの宗教の信者のような姿で、あんな格好で出歩く奴なんか絶対にいない。
「おい、人いるから」
それではじめて愛菜もキョロキョロしながら、その相手を見て確認した。
「三文芝居を無理にしなくても良いですよ?」
「という事は、教団の手の者ね」
「ええ、どうやら貴女は守護者を召喚した様ですからねぇ。 我々でないとお相手は務まりそうになさそうでしたのでね」
どう見ても英雄には見えない。 という事はこいつ以外にもどこかに潜んでいるという事か? しかもそうなら俺の感知の範囲外になる。
「しかし愚かですねぇ……呼び出した守護者ではなく、彼氏と一緒だったなんて……」
どうやら相手は女体化していた俺だと気づいていないらしい。
「愛菜……そいつ誰だよ。 知り合いか?」
だからなんでそこでハァ? みたいな顔すんだよ。
「彼氏さんには残念ですが、ここで死んでもらいますよ。 その子と居たことを後悔するんですねぇ」
パチンと指を弾く。
次の瞬間、俺の肩に矢が当たった。 もちろんそんな矢が俺に突き刺さるはずもない……と思っていたが……
「グッ!?」
「サハラさん!」
なぜだ!
矢を引き抜いて見てみるが、普通の矢にしか見えない。
「ほぉ……痛みに声を上げなかったか?」
“サハラ!”
バカ! 何で勝手にてきてんだよ!
「ぬっ! 喋る狼だと? そいつが守護者だったのか! やれっ! メデューサ!」
メデューサ!? 英霊ではないのか? いや、それよりも……
手で愛菜の目を塞ぐ。
「なっ、何!?」
「目を開けるな。 石化するぞ!」
神官衣を着た男の横にそいつは姿を表す。
全ての髪の毛は蛇で、胴から下も蛇の姿をしていて手には弓を持っている。 先ほど放った矢は、やはりこのメデューサが射たものだろう。
俺に目を合わせて来ようとしたが、即座にその目を閉じる。
「どうしたメデューサ! さっさとそいつを石に変えてしまえ!」
「残念ですが無理です。 石化の魔眼を持つ私だから即座に気がつきましたが、あの男も私と同じく魔眼を持っています」
さすがは元女神、なるほど……神威があるが故に俺の体も射ぬけたわけか。 しかし、愛菜は教団は英霊を使うと言っていたが、コイツは英雄なんかじゃない。 英雄ペルセウスと戦った相手だ。
“サハラ、喰っていい?”
「いいぞ、フェンリル」
“わーい”
こんな状況だというのにマヌケた態度をしているがフェンリルも最上位精霊だ。
一声遠吠えをあげればそれだけで辺りの温度が下がりだす。
「予想外です、マスター、ここは一旦引きましょう」
「くっ……お前に任せる!」
“逃がすか!”
メデューサが神官衣を着た男抱えて逃げ出そうとしたが、極低温まで下がりだしたここら一帯の寒さにメデューサの動きが鈍る。
フェンリルの身体が一帯と同化した様に見えたと思ったその瞬間……
——パキパキパキパキッ!
メデューサと抱えられた神官衣の男が完全に氷に包まれて凍りついた。
“いっちょあがりー”
長い付き合いだが、正直フェンリルが本気で戦うところを見たのは初めてだった。
おそらくフェンリル自身もメデューサが何者かはわからなくても、神威を持っていることには気がついたのだろう。
「俺だけならまだしも、フェンリルが居たことはメデューサにとって最悪でしかなかっただろうな」
愛菜の目を塞いでいた手を退けて言うと、驚いた表情で愛菜が凍った氷像を見つめながら聞いてきた。
「どうして?」
「爬虫類の属性がある以上、寒さは天敵ってことだよ」
「なるほど〜、……って、うえっ! 本当に食べてる!?」
「そうみたいだな……」
“うまうま〜”
冗談のつもりだったが、フェンリルはメデューサと神官衣の男の氷漬けをマジで食べやがった。
パリパリポリポリと食べる音が妙にリアルで、愛菜は必死に耳と目を押さえていた。
さすがに人間を喰ってる絵面は俺も耐え難く、顔を背けてはいたが吐き気を催したのを必死に堪えていたのは内緒だ。
救いはあっけなく喰い尽くしてくれたことで、フェンリルは満足そうにイヤリングに戻っていく。
気がついた愛菜がイヤリングを返そうとしてきたが、しばらくの間は身につけている様に言っておいた。