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違和感

 神社前に停められたバンに乗り込むように言われてあった通り向かうと、そこにはシャーロットが言っていたように共に向かう数名の魔法使い協会の者らしい人物がすでに乗り込んでいて、俺が最後のようだった。


「遅かった、か?」

「いいえ、彼らはここで休んでいただけだから」


 なるほど。


 中にはざっと見たところ7名。

 1人はシャーロットで、残り3人が魔法使い協会の者と守護者(ガーディアン)なのだろうが、全員作業員のような格好とヘルメット姿のため判別がつきにくい。


 残った席には俺の分まで用意してある。 シャーロットに着るように合図され、わけがわからないまま従った。


「それじゃあ行くわよ」

「挨拶する時間も無しか?」

「戻ってきてから好きなだけすればいいわ」


 教団の本拠地を叩き潰したら日本に帰ってくるのは決定事項なのかよ。



 車が動きだしたまでは良かったのだが、なぜか妙な感覚がある。 そう何か大事なことを忘れているような、見落としているような……そんな感じだ。



「どうかしたのかしら?」

「いや……なんか見落としているような気がしてならないんだ」


 運転をしているシャーロットが一瞬考えるような仕草を見せたが、すぐに運転に集中する。


「気のせいじゃない?」

「そうかもな。 それよりシャーロットは新しい守護者(ガーディアン)は呼び出さないでいいのか?」

「どんな守護者(ガーディアン)を召喚しても貴方の方が頼りになるし、魔力の温存にもなるから私は貴方のバックアップに回る事にしたわ」

「はは……さいですか」




 車は首都高を抜け成田を目指している。 羽田ではなかったようだ。

 しかしそれにしても同行する魔法使い協会の連中と、その守護者(ガーディアン)は相変わらず無言のままで自己紹介も何もない。

 俺が感じている違和感はこの事なのかとも思ったが……



 そうこうしているうちに空港に到着した。

 シャーロットが駐車場に車を停めたあと、急ぎ足で俺たちを誘導していく。

 それを誰1人それを疑問視することなくついていた。


「なぁ、なんでそんなに急いでんだ?」

「正規ルートはすでに千葉支部の教団の手が回ってるからよ」


 つまり教団の連中も俺が高飛びすることを知っているって事らしい。 この格好はその為の変装という事らしいのだが……

 子供騙しも良いところだ。 さっきからずっと思っていた事だが実にキナ臭い。


「シャーロット、何か俺に隠していないだろうな?」

「べ、別に何も隠してなんか無いわよ?」


 シャーロットの目を覗き込もうとするが、視線を必死に逸らしてくる。 俺の断罪の目の事を知っているからなのは間違いない。

 まさかまた裏切った? いや、それは無いだろうな。 一緒のついてきている連中からは1度も殺気なんかを感じなかった。


「じゃ、じゃあ、手筈通りにそれぞれ別れて機上するわよ」


 シャーロットは俺と残り、あとの6人は立ち去っていく。


「シャーロット……」

「言うわよ、全部ね。 でも先に飛行機に乗っちゃいましょう」


 飛行機に乗ってエコノミー席の方へ向かおうとすると、シャーロットに引っ張られる。


「私たちの席はこっちよ」


 エコノミーじゃなかったのか。 エコノミー以外は初だからなんかドキドキしてくるな。


 シャーロットの後についていくと、なんだかすごく広い部屋に出る。

 なんというかちょっとした会議室のようだ。


「ここって飛行機の中だよな?」

「もちろんよ。 ここは本来は上層部だけが利用できる場所なのだけれど、特別に許可がおりたのよ」


 教団の本拠地を潰すと言ったからその感謝か何かってところか?



 かすかな揺れを感じ飛行機が離陸体制に入っているようだ。

 どうやらこのスペシャルクラスは離陸時であろうが着席はおろかシートベルトの着用のアナウンスすらもされない。

 そして加速する感覚を感じたと思ったらもう飛び立って空の上に登って行っているようだった。


「ふぅ……なんとかなったわね」


 離陸してしばらくするとシャーロットがそんな事をつぶやく。


「そうだ。 もうそろそろ話してもらうぞ」

「分かったわ。 ここまで来れば安心だものね」


 安心?


「貴方がもっと賢かったら失敗していたわね。 このスペシャルクラスを貴方のために貸し出すなんて本気で思ってるのかしら?」

「えっと、違うのか?」


 カチャッとドアが開いて別れて行動していた3人が姿を見せてくる。

 その姿を見て俺はやっと朝からの違和感に気付く事になった。


「何でお前ら来てんだ?」


 思わず声が出る。

 そりゃそうだ。 愛菜と月読命(ツクヨミ)がいるんだから。

 そしてその後を続くように姫川夫妻も姿を見せてくる。


 つまりこのスペシャルクラスを利用できるのは姫川夫妻のおかげだったというわけだ。




「これは一体どういう事か説明して貰おうか?」


 丁度良い事にここには会議室のようになっている。


「どうもこうもこういう理由なんだけど?」


 聞こえた声の方に顔を向けると一瞬目を疑った。


「セ、セーラム!? 何でお前がいるんだよ!」

「んー、えっとぉ……呼び出されちゃったみたい!」

「はぁ!?」


 どうやらこういう事らしい。


 今の姫川家はもはや秘密でも何でも無い秘密結社の一員だ。 となると守ると言っても限度があるとハッキリ安倍の父親に告げられたのだそうだ。

 そこで安倍の父親がしてくれたのは、ワルキューレの譲渡。

 だがそれだと愛菜の父親かまどかしか守れない。 そこでまどかが召喚魔法を使う事にしたのだそうだ。


「まどかは魔法使いだったのか?」


 考えてみればそうだ。 愛菜の父親が秘密結社の一員だとして、その妻であるまどかがその事を知っているのは同じく秘密結社の一員だったか、あるいは魔法使い協会の一員、または考え難いが教団の一員だったとかでも無い限りありえないはずだ。



「実はね、裕二さん……あ、愛菜ちゃんのお父さんの事よ。 私が以前一度だけ護衛についた事があったのよ」


 おお! ここに来てやっと愛菜の父親の名前が判明した! 案外普通だったな。


「その時にまどかさんの事を尋ねられて……」

「うむ、あー、私の一目惚れというやつだ」


 つまり橋渡しをしたわけか。

 まどかも最初こそ断ったそうだが、最終的に根負けしたのだとか。


「いや、その辺の惚気話はその辺にしてもらって、セーラムが召喚された部分を教えて欲しい」

「召喚魔法は呼び出したい相手を思い描く事も大事なのよね〜。 それで、大した準備もできなくて急にやる事になったから……」



 つまりまどかは、俺に関係するような人物で、アラスカの様なエルフでもう少し可愛らしい感じ、ついでにワルキューレっぽい子が良いなぁと思ったらしい。


 その結果、セーラムが召喚されたようだった。


 そして今回のこのとんでもない発想もセーラムのアイデアらしい。


『パパなら諦めるしか無いところまで来れば諦めてくれると思うよ?』


 という実に出たとこ勝負な俺に似た発想をしてくれたわけだ。


「俺の弱みを……」

「パパの娘ですからねー」

「娘……」

「違うぞ! 本当の娘じゃない」

「そうよ! サハラってば幼い私を育てたからって理由で、お嫁さんにしてくれなかったんだから!」

「……うん、知ってるから」


 どうやら愛菜はセーラムの事も知っていたらしい。 それもやはりクリスマスの夢らしいのだが、その時にちゃんと理由なんかは聞いていたようだ。



「失礼ですがこんな幼子で役に立つのですか?」


 ワルキューレが話が一旦切れるのを待ってから聞いてくる。

 セーラムは確かに見た目だけなら愛菜よりも幼く見えるため、女子中学生ぐらいにしか見えない。 だがセーラムはエルフの中でも希少種のハイエルフだ。


「問題無い。 俺の世界じゃセーラムは神話級の生ける英雄だ」

「そうよ、こう見えてもうかれこれ300年以上生きてるんだからねっ!」


 人差し指をピンと立てながら自慢気に言う。


 300年以上生きているにも関わらず、幼子と言われれば女から見れば羨ましい限りなのだろうが、現実にはセーラムは生命に関わるかなり危険な道を歩んでいる。

 それは今回の件もそうだが、きっと俺のせいなんだろう。



「というわけだからサハラも諦めてね?」

「というかって……お前もやろうと思えば契約破棄ぐらいできるだろ」

「あのさ、パパと一緒にしないでよね?」


 怒られてしまった。

 まぁここまではわかった。 だが何故愛菜たちが一緒に来るのかだが、まぁ聞かなくても迷惑がかかるからっていうところだろうな。



「で? 仮に教団の本拠地をぶっ潰した後はどうする気だ? 親玉は倒したとしても下っ端は生き残っていれば狙われ続けるのは変わらないだろう」

「うむ、そこで私がある提案を出したのです」



 月読命(ツクヨミ)の提案、それはとんでもないものだったが、それを飲んだ姫川一族も狂気の沙汰じゃなかった。


「貴方の権限があれば可能なんじゃありませんか?」


 袖口で口を隠しながらクスクス笑う。


 俺はもちろん、隣で聞いていたワルキューレも呆れた様子だった。




毎度更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

できれば記念すべき令和初日に更新したかったのですが、間に合わせられませんでした……

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