幕間7
——7日目
1週間が経った。
シャーロットは1週間ぐらいと言っていたから、もしかしたら今日現れるかもしれない。
そのため今日は姫川一家は全員家で待機している。
「シャーロットが戻ったら我々の任務は終了ですね」
セッターが確認する様に俺に聞いてきた。
「そうなるな。 後のことは月読命がやってくれるだろう」
チラッと月読命を見ると頷いてくる。
「セッター君には大変お世話になった」
「いえ、こちらの方こそ世話になりました」
「アラスカちゃんもお買い物とか一緒に行けてまるで娘が出来たみたいで私とっても楽しかったわ」
「お母さん!」
「いえ、私も幼い頃に母を亡くしているので、母といられた気分を味わえました」
しみじみとする中、家を任されていたマイセンだけは仲間はずれの様にも思えた。
「マイセン君も家を守ってくれてありがとう」
それに気がついた愛菜が気を利かせる。
「僕はほとんど家でテレビを見てただけだったから楽だったし、すごく面白かったよ」
マイセンにとってテレビは楽しめるものだった様だ。 特にSFやファンタジーもの、特にalienはマイセン自身が関わった事の為釘付けになっていたのを覚えている。
そんなマイセンにリビングに笑い声が響いた。
昼になってもシャーロットが現れる気配が無いまま昼食も終わる。
「さてと……私はお買い物にでも行ってくるかしらね」
「では私も」
まどかがそういうとアラスカもごく当たり前の様に立ち上がる。
「あなたはどうするの?」
「ん?
——あ、ああ! なら私には息子がいなかったから息子代わりにセッター君マイセン君とスーパー銭湯にでも行って背中でも流してもらおうかな?」
「スーパー銭湯って?」
「いろんなお風呂や大きいお風呂があるところだよ」
「やった!」
「私で良ければ喜んで」
愛菜の父親が俺に目配せしてくる。 どうやら2人に気を使われた様だ。
愛菜の両親たちが出て行くとリビングに残ったのは俺と愛菜、それと月読命だけになった。
「……サハラさん、私も行くから」
やっぱりこの話題か。
ここで愛菜を言い聞かせないと間違いなくついてくるな。
「お前まで一緒に来たら親はどうするつもりなんだ?」
月読命は愛菜の守護者だから、愛菜が来れば当然一緒についてくる。 そうなれば姫川夫妻が襲われた場合、助ける守護者もいないことになる。
「お父さんかお母さんに譲渡するわ」
そこはそう言い出すだろうな。
「残念ながら守護者権限の譲渡はそう何度もできないことに加え、召喚者……この場合契約者だな。 それに私にだって契約者を選ぶ権利はあるのですよ?」
話を聞いていた月読命が、腰に手を当てながら自身を物の様な扱いをされていることにご立腹の様子だ。
つまり気に入らなければ月読命は消えるつもりだという事か。 という事は少なくとも愛菜は気に入られているって事だな。
「だそうだぞ?」
「それなら命令権を使うから問題ないわ!」
この愛菜の発言にてっきり月読命は怒るんじゃないかと思ったのだが……
「はぁ……まったく、私は恋愛成就の神ではないのだがなぁ……」
ん? そういえば月読命っていろいろと謎の多い神だったよな。 というか月読命の奴、なんだか余計な事を考えたりしていないだろうな……
「れ、れれれ、恋愛成就って何のことよ!」
愛菜も愛菜で素直じゃないんだよな。 まぁその方が俺としても助かるんだけどな。
それはさておき守護者とはいえ一応神様だって事忘れてないか? いやまぁ俺も今じゃ一応神だが。
「つまり契約者はこの異世界の神の事を好いているから一緒に行きたいのであろう?」
「おい、ちょっと……」
「好きって……コホンッ、何か方法があるとでもいうの!?」
ちょっと待て……そうなったらいろいろ問題だろ。
「……無いな。 あるとすれば親を取るか好いた相手を選ぶのかだ」
一瞬だが何か含んだような言い方に感じたような気がしたがまぁいいか。 というか俺みたいな元人間と違って生まれから神だと残酷な選択も平気でいうもんなのかねぇ……
ついでに言うと、俺の今の世界に連れて行けないだろうよ。
愛菜はソファで体育座りをしながら考え込みだした。 スカートの為嫌でもパンツが目にうつる。
「くくっ……」
そんな俺の様子に気づいた月読命が含み笑いをしてきたから、慌てて視線を逸らした。
「其方も男神よな」
「……悪かったな」
「何故そうまでして其方は避けるのだ?」
ん、そうか、月読命は俺が既婚者だと知らなかったか。
「俺は既婚者だからな」
「ほぉ、すでに結ばれた相手がいたのか。 それならば納得もいきますね」
ここで敢えて嫁さんは3人いると言わないでおいたつもりなんだが……
「何よ、既婚者とか言って3人も奥さんいる癖に貞操感あるフリなんかして!」
「はぁ!? 其方は一夫多妻なのか!」
ヤバい。 このままだとどんどん立場が悪くなる。
「月読命、ちょっと来い!」
「私を言いくるめるつもりか?」
「違うわい! いいから!」
月読命の手を引っ張ってリビングから俺が寝泊まりしている部屋に向かった。
「よ、よもや私にまで手を出そうとでもいうのではなかろうな?」
自身の腕で身を守るような仕草を見せてきやがる。 これじゃあまるで俺は無節操な人間、いや神みたいだ。
「ご希望とあらば本当にそうしてやろうか?」
「うぅ……やはりそうなのか。 ならばせめてどうか初めてなので優しくして欲しい」
コイツどこまで本気なんだよ!
顔を見ると口元が笑っていやがる。 どうやら俺は月読命に弄ばれているらしい。
「はぁ……手っ取り早くいうぞ。 まず俺はこの戦いが終わったら元の世界に戻る。 愛菜はついて来れないのだからそういう関係になるべきでは無い。 仮に来れたとした場合、愛菜は定命者だ。 老いて輪廻に還る嫁の姿なんか想像したくない」
俺の考えを口にする。 まだまだ細かい部分はあるが、重要なポイントだけを伝える。
「ふむ、それが全てでは無さそうですが確かに納得もいく……」
月読命は顎に手を当てて思案する。
「ならば仕方がなかろ」
あっけらかんと、屈託のない笑顔で月読命は納得した。
「なんだよ、ずいぶんと簡単に納得するんだな」
「其方の考えを聞けたからな」
なるほどね、月読命は俺の事を探っていたわけか。
「一応気づいたようだから教えておくが……術がないわけではない」
急に真剣な顔で月読命がそんな事を口にする。 おそらく愛菜のことだろう。
「まぁ其方の満足いくものとは違うから、其方が聞いてくるまでは言わないでおくとしよう。 一応覚えておくといい」
にんまりと笑顔を見せると月読命はリビングに戻っていった。
結局夕方になって全員帰ってきたが、この日シャーロットが現れる事はなかった。
その日の夜……
「あなた、浮かない顔をしてスーパー銭湯で何かあったの?」
「ああ……いや、2人があまりに凄かったものでな」
セッターとマイセンが首をかしげる。
「私も鍛えてそこそこ自信はあったつもりだったのだがなぁ」
「あらぁ〜、2人共細マッチョだったのね〜!」
まどかは筋肉萌えかよ。 愛菜がひいてるぞ。
「冒険者ならみんなこんな感じだよねアラスカ?」
「まぁ〜! アラスカちゃんもなの? 後で私とお風呂に入りましょう!」
「え、ええと、あ……はぁ……」
後で風呂場から喜びの声が聞こえてきたのはいうまでもない。
そしてみんなが寝静まった夜……
「まだ起きていますか?」
「本当に口調がコロコロ変わるな。 何か用か?」
「私の元召喚者を覚えていますか?」
あの高慢ちきでやたら好戦的だった魔法使い協会の男のことだろう。
「ああ」
「何かしてくるかもしれません」
「……だろうな」
ああいった輩は根に持つ奴が多い。
まさか今日シャーロットが現れなかったのは、もしかするとあいつが関わっている可能性も考えられる。
「その時は……返り討ちに合わせてやるさ」
「ふむ」
どこか嬉しそうな返事をすると、くぅくぅと寝息が聞こえてきた。
こっちの神様も寝るんだな……
更新したと思ったら文章を消してしまいまして、書き直しになって遅れてしまいました。
遅くなってすみません。




