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幕間6

 ——6日目


 嫁達もいなくなり特にこれといってやる事もなくなる。

 俺が教団の本拠地へ乗り込んだあと、愛菜と愛菜の両親が心配だ。


 セッターは愛菜の父親に同行しアラスカもまどかの買い物に付き合っていて、今、姫川家にいるのは俺と愛菜とマイセンだけだ。



「今日はどこか行かないんですか?」

「普通はそんな毎日どこかへ出かけるもんじゃないぞ? だいたいそんなに出かけてばかりいたら金が無くなるだろう」

「そうしたら依頼でも受けて稼げばいいんじゃないんですか?」

「ぷっ、くすくすくす……」


 話を黙って聞いていた愛菜が我慢しきれなくなったのか笑いだした。


「依頼って……くすくすくす……」

「サハラ様、僕、何かおかしな事言いましたか?」


 愛菜からすれば依頼を受けて金を稼ぐなんて言葉は漫画や小説なんかの世界での話だから、真面目に言うマイセンがおかしいのだろう。 だが、マイセンが生きてきた世界ではごく普通の事だ。


「えっとな、この世界には……いや、この国じゃ仕事の依頼を受けるなんて言わないんだ。 マイセンに分かりやすく言うと冒険者ギルドなんて物は存在してない」

「じゃあどうやってお金を稼ぐんですか」

「そうだな……冒険者ギルドに近いのは日雇いのバイト辺りか」

「へぇ〜……ならそれで稼げばいいんですよね?」

「そうは言うが日雇いを1日やってもネズミーランド日帰り1日分程度だぞ?」

「安いんですね」


 命のかかった仕事じゃないんだから当然だろう。


「じゃあ、今日はのんびりする感じですか?」

「まぁそんなところだな。 そういえば愛菜は何かしたい事や行きたい場所はあるのか?」


 今もまだくすくす笑っている愛菜は急に自分に話が振られて慌てて佇まいを直す。


「いいんじゃないかしら? ずっと出かけてばかりだったし、たまにはのんびりしたいもの」


 決まりだな。

 そんなわけでダラダラとリビングでテレビを眺めているわけだが、途中途中でマイセンがテレビの内容の疑問の解説で俺は全く休めないし楽しめない。

 愛菜はそんな俺を横目でチラチラ見ながらテレビを眺めていた。


「なんだよ?」

「うううん別に。 ただ……2人のやり取りを見ていて想像してた神様らしくないなぁって思っただけよ」

「僕は神様じゃないですよ?」

「あ、うん。 サハラさんの事」

「なんだよそれ……っ!」


 誰か来る!


 姫川家に近づくのを感知(センス)で気がついて玄関の方に顔を向けた。

 一手遅れてマイセンも反応を見せる。


 もちろんごく普通の宅配やら郵便配達などという可能性もあるが、愛菜も俺とほぼ同時に反応したという事は魔術師絡み……つまりは魔法使い協会か教団しかない。


「マイセンは愛菜を守れ。 いいな?」

「わかりました」


 感知(センス)に反応しているのは2人だ。 となれば俺が倒してしまったからまずシャーロットではないだろう。 となれば……



 チャイムが鳴る……


「俺が出る」


 俺が玄関に向かい応対する。


「どちら様ですか?」

「君が噂の姫川愛菜の守護者(ガーディアン)かね?」


 どちら様ですかと聞いて答えるよりも先に俺の事を聞いてきた来客者は3名、尋ねてきた男は教団の連中とも違うどこか偉そうな人物のような雰囲気を見せていて……と言うよりも服装などからして地位のある者だろう。 その後ろに控えている男は、ごく普通のサラリーマンの営業といった格好をしていておとなしく控えてはいるものの、警戒しながら注意深く俺を見ている。

 そしてそのさらに後ろにいる悪意を感じられない爽やかな優男、服装は黒を基調とした神主が着るような格好で神威を感じ取れる。


「俺の素性を知っているのなら関係者なんだろうが、俺はあんたにどちら様かを尋ねたんだが?」


 一瞬、サラリーマン風の男が俺に殺気を向けてきたが、それを手で制して止めた。


「いや済まなかった。 姫川氏の知人ではあるのだが、実のところ申し訳ないが私は名乗ることができない。 その意味を分かってはもらえないかね?」


 姫川氏、つまり愛菜の父親の事だろう。 という事はこの男はおそらく秘密結社の1人ということなのだろう。

 となるとその横にいるのは魔法使い協会の者で、やはり連れているのは守護者(ガーディアン)か。


「今、姫川氏ならいませんが?」

「分かっている、私が用があるのは君だよ。 とりあえず中に入れてはもらえないかね? 一応東京支部は壊滅状態になったとはいえ、情報は既に各地に伝わっているはずだろうからね」


 つまり教団の目はまだ生きているということだろう。 だが肝心な事をこいつらは忘れている。


「招き入れたいのは山々だが、ここは俺の家じゃない。 勝手に入れるわけにはいかない」

「それなら君の召喚主に頼むとしよう」


 そういうと男はリビングから眺めていた愛菜に視線を送った。


 愛菜はすぐに俺を見て困った顔を見せてくるのだが、困っているのはこっちも同じだ。


「ここは一度出直してもらえないか? 夜なら家主も帰ってきている」

「この!……」


 サラリーマン風の男が我慢ならなくなったらしい。 腕をあげると風の塊のようなものが現れた。


 シャーロットが氷柱を呼び出したのに似ているところから、おそらくカマイタチ辺りだろう。


「サハラ様にそんな魔法は効かないとは思うけど、もしも危害を加えようとするのならその腕を切り落とすから」


 マイセンが腰にある(キャロン)に手を添えながら警告するわけだが、魔法が効かないは言い過ぎだ。


「止めんか! 我々はまだ彼と争うと決めたわけじゃないんだぞ!」


 ……へぇ、今のが俺に会いに来た理由か? 場合によっては秘密結社まで敵に回ろうっていうのか。


「愛菜、少しこいつらを入れて話をしてもいいか?」

「え? え、ええ……」





 と言うわけでリビングに上がってもらい話を聞くことになった。


「それで? 秘密結社が魔法使いと守護者(ガーディアン)を連れてまで俺にいったい何の用だ?」

「単刀直入に言おう。 君のその力を秘密結社に貸して欲しい」


 東京支部を呆気なくぶっ潰した俺の力をどうやら秘密結社は手に入れたいようだ。


「それでなのだが、守護者(ガーディアン)の譲渡をしてもらいたい」


 そして愛菜に視線を移す。


 どうやらこいつらは俺と愛菜が召喚者と守護者(ガーディアン)の関係のままだと思っているらしい。

 ということは愛菜の父親は秘密結社には全てを話していないということだ。


「悪いが俺は愛菜を守ると誓ったんだ。 その誓いを破るつもりはない」

「それなら安心したまえ。 姫川愛菜にはちゃんと代わりの守護者(ガーディアン)を用意してきてあるのだ」

「それはその後ろにいる奴のことか?」


 俺が守護者(ガーディアン)に視線を送ると目を合わせてくる。

 もちろん視線を合わせてくるということは、俺にとって断罪の目が捉えることになるわけだ。

 だが俺の断罪の目をもってしても裁くべき罪が一切見当たらない。 それはつまり穢れが一切無いということだ。


「私の瞳から何か得ることが出来たかな? 異世界の神よ」

「——っ!」


 驚いた……断罪の目と知って合わせてきたのか。


「私は月読命(ツクヨミ)、其方は元々は私が姉の氏子のようだな」


 そういうと優しげな顔で微笑んでくる。



 驚かされることばかりだった。

 まさか月読命(ツクヨミ)と会うことがあるとは思いにもよらなかった事と、俺の一家は確かに月読命(ツクヨミ)の姉である天照大御神を氏神としていた。


 それにしても……月読命(ツクヨミ)といえば確か男の神と言われているが、実際に見ると実に中性的で男とも女とも見える。



「気に、なります?」


 そう言いつつ片腕はまるで胸を隠す様な仕草をして見せてくる。 その顔は照れているようでもあり、少し怒っているようでもある。


 慌てて月読命(ツクヨミ)から視線を逸らした。


「珍しく月読命(ツクヨミ)様が口を開きましたな?」

「異世界とはいえ私と同様神、しかも神格は私よりも上だからな」


 ——俺ってそうだったのか!? 確かに今の俺は創造神の執行者、代理人のようなものだが……


「なんですと!? 我が守護者(ガーディアン)よりも上位の存在!?」


 魔法使いの男が目を見開いて俺のことを見てくる。


「とにかくだ。 月読命(ツクヨミ)様が守護者(ガーディアン)であれば申し分無いだろう?」

「無駄ですよ」


 断ろうと返事をするより先に月読命(ツクヨミ)が代わりに答えてきた。


「何故なら、彼は守護者(ガーディアン)では無いのだから、ですよね?」


 驚きを隠しながら頷いて答える。


「それはいったいどういうことだ……」

「その者は契約を無しに行動している。 最初こそ召喚されたのでしょうが、今はその縛りを無しに自らの力で動いていますね?」

「そんなことあり得ない!」

「はぁ……召喚者にはもう少し冷静になってもらいたいものですね」


 月読命(ツクヨミ)に言われてうぐッと口を噤んだが、魔法使いの男は俺を睨みつけてくる。 八つ当たりも大概にして欲しいものだ。


 だがここで1つ思い出す。

 俺はパスポートが届いたら愛菜を置いていかなければならない。 そうなるとその間の愛菜の守り手がいなくなってしまう。


「1つ聞きたい。 秘密結社は何のために俺の力を借りたいんだ?」


 これがもし秘密結社又は魔法使い協会の誰かの守護者(ガーディアン)になれというのであれば即座にお断りだ。


「……君に教団を潰す手伝いをしてもらいたい。 このままでは教団は古の邪悪な神々を目覚めさせてしまう。 それだけは何としても食い止めねばならないのだ!」


 嘘は言っていないな。


「それならそこにいる月読命(ツクヨミ)に頼んだらどうなんだ?」

「残念ながら私には其方ほど力は無いのです」


 月読命(ツクヨミ)の話によると各地に存在する神話やおとぎ話に登場する者たちには同格の者たちがいるらしい。

 例えば月読命(ツクヨミ)であれば西洋の神のアルテミスで、姉に当たる天照大御神も言ってみれば他国の太陽神と同じ存在となる。


「それが何か問題なのか?」

「それぞれの神にはまた仇敵となる存在がある。 正体不明の神である其方であれば仇敵も誰を当たらせれば良いか検討もつかない」


 なるほどねぇ……俺が創造神の執行者だと仮にばれたとして、それに該当する仇敵はいたっけか?

 まぁそれは今はどうでもいいか。


「それなら協力してもいいが、1つ条件がある」

「何かね?」

「俺は誰の指図も受けない。 だが教団を潰すことは約束しよう」

「身勝手もほどほどに……」

「やめんか!

……ではそれをどうやって証明するのだね?」

「簡単なことだ。 教団の本拠地を潰しにいく」


 秘密結社の男と魔法使い協会の男が口をあんぐりと開ける。


「本拠地の場所は分かっている。 ここを潰さない限り姫川家に平穏は訪れないからな」





 秘密結社の男は俺の条件に呆気なく納得してくれた。 納得した理由は月読命(ツクヨミ)が保証してくれたからだ。

 秘密結社の男に命じられて魔法使い協会の男が愛菜に月読命(ツクヨミ)の権限を譲渡するのだが、どうにも渋々といった雰囲気が見て取れた。


「報告は姫川氏から聞かせてもらう」


 そういうと2人は足早に去って行った。





「ちょっと!」


 2人が去るなり愛菜が俺に詰め寄ってくる。


「私を置いて行くつもり!?」

「当たり前だろう、遊びに行くんじゃ無いんだぞ!」

「じゃあ誰が私を守ってくれるのよ!」


 お前……それを月読命(ツクヨミ)のいる目の前で言うのかよ……


「私はどうやらあてにされていないらしい」

「あっ……」


 愛菜が月読命(ツクヨミ)にペコペコ頭を下げて謝る。


「良い良い」


 意外にも月読命(ツクヨミ)は俺たちのやりとりを楽しんでいる様にも見える。


月読命(ツクヨミ)には大変だろうが、愛菜と両親を守ってもらわなきゃならないんだ」


 両親のことを口に出すと愛菜も口を噤んだ。



 そこへちょうど買い物に出かけていたまどかとアラスカが戻ってきたため、2人にも改めて説明をする。


「我が家に月読命(ツクヨミ)様がいてくださるなんてありがたい話ねぇ」


 まどかはやはりどこか抜けている様に思えた。




 日も暮れ夜になると愛菜の父親がセッターと共に帰ってくる。

 ここでまた今日会ったことを話した。


「連絡はあった。 まさか秘密結社がここまで動くとは正直信じられなかったが、上層部は沙原君のことを相当買っているのだろうな」

「呆気なく東京支部を潰しちゃったんだもの、当然よね」


 まどかぁ……




 そんなわけで夕食も済ませると順番に風呂になる。 人数が多いためセッターはマイセンと入りアラスカは愛菜と入っている。

 俺は遠慮しているのだが神様ということで一番風呂にされ、神様同士ということで月読命(ツクヨミ)と一緒に入ることになった。


「じゃあ月読命(ツクヨミ)さっさと入っちまうぞ」

「え? ちょ、ちょっと……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 脱衣所に行き俺が服を脱いでいくが、月読命(ツクヨミ)はモジモジしながら服を脱ごうとしない。


「いえ、その……」

「なんだよ恥ずかしいのか? 大所帯だから我慢してくれよ」


 ——で、俺も少し考えてみれば分かることだった。 風呂に入ってきた月読命(ツクヨミ)はもちろん裸なわけだが……女だった。

 手で胸と股を隠しながら顔を赤らめるその姿は清純な乙女の様だ。


「お、お前女だったのかぁぁぁ!?」

「だ、だって……人間には私は姉の弟とされてしまっているからな。 言いだす機会も無いままになってしまったのだ……」


 思えば一般には男神と考えられているらしいが、記紀では性別の記述は無かったとあった様に思う。


「この事は皆にはくれぐれも内密にして欲しい……」


 この口調が統一されてないのも男神と間違われた原因なんだろうなぁ……




評価ありがとうございます。 大変励みになります。

幕間のタイトルも別に無駄な話ばかりでは無いので、そのうち『パスポートが届くまでの日々』のようなサブタイトルに変えるかもしれません。

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