退屈な1日
翌朝、学校のある愛菜はせっせと準備をしている。
「学校行っても大丈夫なのか?」
「心配してくれるんだ?」
「そりゃそうだろ」
愛菜の身に何かあったら俺は元の世界に戻れなくなっちまうからな。
“サハラ! お腹がすいた!”
ボウンとフェンリルが出てくる。
「精霊のお前に食事は必要ないだろ!」
“サハラと一緒に行動するようになってからご飯を食べてたら腹が減るようになった!”
パブロフの犬かよ。
このやりとりを見て愛菜が笑いだす。
「ねぇ、フェンリルって何を食べるの?」
「何でも食……」
“にくー!”
クスクス笑いながら愛菜が冷蔵庫に向かい、冷凍庫から何かを持って戻ってきた。
「凍ってるから解凍してから食べてね」
“にくー!”
契約している精霊と言えど、その飼い主のような俺は恥ずかしいったらありゃしない。
しかもフェンリルの奴は愛菜から凍ったままの肉を奪い取るが早いか、凍ったままかぶりつきはじめた。
「凍ってるけど大丈夫?」
“俺は氷の精霊だから全然平気。 この肉うまー”
ああそうか。
「愛菜、コイツを持っていけ」
ピアスを外して愛菜に渡す。
「コレは?」
「フェンリルの入っているピアスだ。 フェンリル、肉を食わせてもらったお礼に愛菜が学校にいる間守ってやってくれ」
“わかったー”
愛菜と特にフェンリルには、敵が現れて本当に危ないとき以外は呼び出さないのと、勝手に出てこないように厳重に注意をしておく。
「たぶん学校は人が大勢いるから大丈夫よ」
“昼メッシ昼メッシたーのしーみだー”
だめだこりゃ……
まぁバカっぽいがフェンリルは氷の最上位精霊だ。 愛菜のことは守ってくれるだろう。
愛菜が出ていき、俺1人になると暇になる。
しばらくテレビを見ていたが、平日のテレビを見ても俺が見るような面白いものはやっていない。
なのでテレビを消して愛菜の言う敵の事を考えてみる事にした。
俺が召喚された日に襲ってきた襲撃者、間違いなく愛菜が教団と言っていた連中の一味なのだろう。
まぁ普通に考えて暗殺者のようなもので間違いないのだろうが、ここで疑問が生まれた。
襲撃者もそうだが、愛菜も未だに一度も魔法を使った様子がない。 いや、俺を召喚したのは愛菜で間違いないのだろうから魔法は使えるんだろうが、襲撃者が来たときも何もしなかった。
「純粋に俺を試した……のか?」
そもそもこの世界での魔法とはどんなものなのか?
愛菜は神話上に現れた魔女や魔法使いの血を受け継いでると言っていたが、もしかしたら俺がいる世界のようなド派手な魔法らしい魔法のようなものではないのかもしれない。
「ダメだ、全然わからないし知恵熱が出そうだ」
ソファに横になる。
愛菜の攫われた両親……そうか! 愛菜の両親の部屋なら何か見つかるかもしれない。
待て待て、人様の家を勝手に家探しするのはダメだろ。
そうなると教団が接触してくるのを待つしかないわけなんだが……フェンリルを愛菜の護衛につけたから、女体化する精霊魔法も使えないんだった。
「詰んだ」
となれば残るやるべき行動は1つ。
適当に町でもぶらつくか。
というわけで町をぶらぶらしているわけだが、これといってやりたいこともない。
平日の昼間だというのに賑わっている繁華街をぶらつき、ゲームセンターを見つけると中に入って適当に今の流行りのゲームを眺めていく。
それも終わると古本屋に入って適当に立ち読みしたりと、とにかくやることが無く暇だった。
気がつけば愛菜の通う高校の校門の前まで来ていた。
チャイムが鳴り、しばらくすると生徒たちがぞろぞろ出てきだした。 どうやらちょうど帰宅時間だったようだ。
愛菜の姿を見つけ片手を軽くあげる。
気づいた愛菜が慌てて俺の元にやってきた。
「お疲れ、何もなかったようだな?」
「ちょっと! なんでここに来てるのよ!」
あ、ヤバい……
そこでやっと気がついたが手遅れで、愛菜の友達かクラスメイトが集まってくる。
「姫川、そいつ誰?」
「まさか姫川さんに男がいたのか!」
まず男子生徒が騒ぎはじめた。
「あ〜、昨日の確かサハラさんだっけぇ?」
「お迎え羨ましい」
昨日の女子高生が昨日の事を口にしてしまったため、更に大騒ぎになっていってしまう。
嫉妬する男子生徒たちの目が俺を睨んでくる。 昔ならそれでビビっていただろうが、今ではなんとも思わない。 それよりもこの囲まれている状況の方が耐え難かった。
「愛菜とりあえず行こうか」
俺が名前で呼んだだけで女子生徒からはキャイキャイ声が上がり、男子生徒からは恨みのこもったような顔で睨まれる。
そんな中を逃げ出すように離れていった。
「お前ってモテるんだな」
「なんで学校に来たのよ」
「暇だったからぶらついてたらちょうどここに着いてね、ちょうど帰宅時間だったんだ。 軽はずみなことをして悪かった」
はぁ、と諦めたように愛菜がため息をついた。
「……もういいわよ、こうなった以上徹底して恋人ごっこに付き合ってもらうから」
そう言って愛菜が腕を絡めてきた。
いずれは俺は元の世界に戻る。 それまでの間だけ俺もごっこに付き合うか。
だが別れの日が来たら、愛菜の尊厳を守るためにも、俺が振られて別れたように仕向けてやらないとな。
そうと決まれば一刻も早く愛菜の両親を探し出さないといけないな。
俺がそんな事を考えていると愛菜が俺を見つめてくる。
「怒った?」
「ん? いや、そうじゃなくて愛菜の両親をどうやって探すかを考えていた。 なにしろ情報が全くと言っていいほどないだろ? 勝手に家探しするわけにもいかないから、愛菜から聞いた話だけで俺なりに1日考えてみたんだが、わかんないことだらけだ」
ちょっとだけ愛菜が口を尖らせたようにも見えたがすぐにそれもやめて、なにがわからないのか尋ねてくる。
なので両親が行方不明になった事をなぜ警察に届け出を出さないのか?
また、なぜ愛菜の両親は攫われたのか?
次に愛菜はどういう魔法が使えるのか?
知り合いの味方はいないのか?
敵と言っている教団の規模などわからないのか?
以上のことを尋ねた。