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幕間5

 ——5日目


 不安と恐怖の中、目を覚ましたが特に何事もなく無事に朝を迎えられた。

 だがなぜか俺は仰向けで寝ていて、愛菜が俺の腕に頭を乗せて寝ている。 いわゆる腕枕というやつだ。


 いくら寝ていたとはいえ姿勢を変えられたりすれば目を覚ますはずだ。

 そうでもなければ魔物がいる場所で野宿なんてできない。


 おかしい……俺がまさか熟睡したとでもいうのか?


 首だけを動かして部屋に設置されている時計を見るとそろそろ起きる時間だ。

 それと……


「愛菜、そろそろ起きる時間だぞ」


 気持ち良さそうな顔で寝ている愛菜の顔が一瞬だけ渋い顔を見せてから目を開けた。


「おはよう」

「……ふぇ!?」


 寝ぼけた顔の愛菜が腕枕で寝ている事に驚いたようだが、すぐに状況を把握してくれたようだ。


「お、おはよう」

「急いで準備するんだ」

「う、うん?」


 愛菜は当然分かっていないが、俺たちの部屋近くに人が集まっている。


“アリエル”

“おはよーサハラさん。 楽しい一時だった?”


 俺はアリエルとだけは念話のように会話ができる。


“ふざけている場合か”

“分かってるって。 大丈夫、まどかはちゃんと守るから”


 愛菜が不思議そうに俺を見ながら着替えをしている。

 準備が終わり部屋をアリエル達とタイミングを合わせて出る時に、愛菜の手を絡ませて繋いだ。


「サハラさん、コレって恋人繋ぎ……」

「外に人が集まっているから、絶対に手を離すなよ」


 ほぼ同時に声を出して、理由を知った愛菜が自分の早とちりに顔を真っ赤にさせながら頷いた。



 ——ガチャ


 同時に3部屋から出る。


「おはよう皆さん、さぁ行きましょう」

「そうねサラちゃん」

「はい、マ……サラさん」


 アリエルはしっかり女体化時の俺の名前で返事をしたが、アラスカは呼び慣れていないためマスターと言いそうになっていた。


 それはさておき……

 進行方向に人が集っている。


「すみません、通るので避けてもらえますか?」


 俺が先頭に愛菜の手を繋いだまま声をかける。


「姫川まどかと姫川愛菜のお2人は、おとなしくついてきてもらいましょうか?」


 だが避けるどころか人集り全員が銃など何らかの武器を俺たちに向けてくる。

 しかも逃走出来ないようにしっかり一本道の廊下の反対側にも待機していた。


「やはり教団の方達でしたか。 ここでこんなことをして、叫び声をあげればすぐに人が来ますよ?」

「構いませんよ、その時は目撃者も殺せばいいだけですからね」


 狂ってやがる。 目的の為なら手段を選ばなくないってか。


「あなた達、武器を使うということは全員教団の下っ端なのね」


 なるほど、まどかが言う通りこいつら全員、守護者(ガーディアン)もいなければ魔法も使えないといったところか。


 形振り構わぬやり方だが、守護者(ガーディアン)がいなければ俺たちの敵でも何でもないのだが、ここで下手にこいつらを殺せば大騒ぎどころか警察沙汰で、気を失わせるだけだと目が覚めればまた繰り返してくるだろう。


『アリエル、ウェラ、眠りの魔法であいつらを眠らせてくれ』


 日本語ではなく本来の世界での共通語で指示を出す。

 どうやら俺が召喚して呼び出すと俺がわかる言語は理解できるようで、今まで特に気にしなかったがここに来てそれを思い出した。


『眠りに誘う不可視の爆発! 睡眠(スリープ)!』

『眠りに誘う不可視の爆発! 睡眠(スリープ)!』


 アリエルとウェラが俺の意図を即座に理解して、前後挟むようにいた教団員の狙う方向を間違えることなくクルッと互いに背を向けると魔法を行使した。


 ——その結果、


 見事なまでに教団員全員が床に崩れ落ちて眠りについた。


「あとはこいつらをどうするかだな……」


 もちろんこのままにしておけば目が覚め次第また来るだろう。

 しかもネズミーシーが広いとはいえ俺たちは目立つからすぐに見つかってしまい、さっきの言動から容赦なく辺りにいる他の客諸共殺しかねない。


「ここから離れた場所に移動させるのはどうですか?」

「離れた場所?」

「今まで行ったことのある場所なら、その……全て魔導門(ゲート)を出せるように……して……あり……ます……」


 ウェラが勝手に魔導門(ゲート)の座標登録していたことを怒られるのを覚悟しながら答えてきた。

 前に一度来た時に、魔法の類は可能な限り使わないように俺が言っておいたからだ。


「なんで約束を守らなかった?」

「あ、あたしがお願いしたの。 街並みが迷宮みたいで覚えられないし、よく行く場所ならその方が早いからと思って」

「じゃあ何か? ネズミーランドも本当なら魔導門(ゲート)で来れたのか?」

「うむ!」


 ルースミア、威張って言うな。


「まぁ今更言っても仕方がないな。 じゃあ怒らないから1番遠い居場所に頼むよ」


 するとなぜかウェラが更に気まづそうな顔を見せる。


「絶対に怒らないでくださいね……」


 一体何処だよ……


 魔法を詠唱して魔導門(ゲート)が開き、まどかと愛菜以外で教団員を抱えて魔導門(ゲート)を潜った。




 魔導門(ゲート)を抜けた先は同じくネズミーランドっぽい……しかし景色や気温などが違う事に気づいた。


「おい……ここは一体何処のネズミーランドだ」

「えっと……その……」

「ど、何処だっていいじゃない! 細かい事は気にしない気にしない! ねっ、サハラさん!」

「本場だ!」


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 本場ってアメリカだよな? カリフォルニアだかなんだかだったよな? というかそもそもいつの間に行った? パスポートも無しに……というか、日帰り出来る距離じゃないだろう!


「と、とりあえず用件を済ませちゃおう! ねっ、サハラさん!」


 そうだった。 魔導門(ゲート)には開いている時間がある。 魔導門(ゲート)を往復しながらせっせと教団員を運んでいると、まどかと愛菜もついてきた。


「え……ここって」


 2人も魔導門(ゲート)の先が本場のネズミーランドと気づいて驚いている。


「来れるのなら最初からこっちに来てれば良かったのにね」


 などと何処かトンチンカンな事を口にするまどかがいた。





 教団員を運び終えて魔導門(ゲート)が閉じる。

 そうなると次はどういう事か聞かなければならない。


「さてと……説明してもらうぞ」


 嫁ーズが済まなそうな顔を見せる中、愛菜が俺の手を引っ張ってきた。


「せっかくホテルに泊まって一般よりも早く入園できるんだから早く行かなきゃ損よ!」


 嫁ーズにとっては救いの女神に見えた事だろう。

 後で問い質せばいいか……



 そんなわけでネズミーシーを朝から楽しむ事にしたわけだが、まどかがウェラを主に俺以外の奴と何やら怪しいワードがたまに耳に入り気になったが、その都度愛菜がどうでもいい話を振ってきて内容は聞き取れなかった。


 今日は姫川家に帰らなければならないため、早めに帰るつもりだったが全くその気配を見せない。


「そろそろ帰るぞ?」

「大丈夫ですよ、帰りはエラウェラリエルさんの魔法で一瞬で帰れるのだから、ね?」


 は?


 呆然とする俺を見てまどかが続ける。


「せっかくの便利な力は使わなきゃ損するわよ」




 結局ラストの花火までしっかり見てから一瞬にして姫川家に帰った。




「主よ! 必要になったらいつでも呼ぶんだぞ!」

「これ以上はとも思いましたが、愛菜さんなら歓迎ですよ」

「じゃあ護衛の方はアラスカさんたちに任せるね。 サハラさんまた後でねぇ」


 姫川家に戻って早々嫁ーズが一方的に言うだけ言うと消えていってしまった……



 あいつら逃げやがったァァァァ!


 後でコレが全てまどかが考えた事だと教えられたわけなんだが……


 わけの分かっていないセッターに申し訳なさそうにしているアラスカ、そっぽを向いてごまかしているマイセンだけが残っている。


 というか、ウェラが何かとんでもない事を口走った気がするわけだが、愛菜を歓迎する? いや、鈍感系主人公とかじゃないから言ってる意味は分かっている。

 だけど愛菜はこの世界の住人で、あっちの世界に連れて行けないのだから結婚とかしたら離れ離れになるからそんな勝手はダメに決まってるし、そもそも寿命だってある。

 自分で言っていることが無茶苦茶でわがままな事は分かっているが、今までも友人達が寿命で輪廻に還って行くのを何人も見てきたというのに、嫁になった者が老いて死ぬのなんか見たくはない。

 

 だから愛菜がどれだけ俺の事を好いていてくれても、一緒になる事なんて考えてはダメだ。



 賑やかだった姫川家も多少は静まり返っていた。




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