幕間4
——4日目
その日は朝日が昇るよりも早く起きて準備に取り掛かる。
もともと冒険者活動のような事をしていた俺たちからすれば、こういった朝の早起きは別に苦でもない。
ちなみに俺はもちろん女体化しての同行だ。
そして愛菜は愛菜の母親まどかに起こしてもらうのだが、さすがに慣れた感じらしくさっくりと起こしてきた。
というか昨晩は遅くまで愛菜が何やら起きていたように思う。 嫌な予感がしないでもないが一体何をしていたのだろう……
「それじゃあセッター、アラスカ、マイセンよろしく頼むよ」
「分かりました」
セッターが返事をしてきて家を出るとなぜかアラスカとマイセンが日本っぽい服装で出てきて、まどかも続く。
「ネズミーリゾートなんていつ以来かしら」
「僕の場合、娯楽なんて楽しんでる余裕なかったし、なによりアラスカと一緒に遊びに出かける事は無かったから、アラスカとデートが楽しみだなぁ」
「マイセンとデ、デデデ……デート! さぁ早く行きましょうマスター!」
は?
どうやらアラスカとマイセン、それにまどかも一緒に来るらしい。
「愛菜、どういう事だ?」
「うん昨日ね、お母さんも一緒に行きたいって、それで、一緒に行かせてくれるのならパーク内のホテル取ってくれるって言うからお願いする事にしただけよ?」
マジすか!
パーク内のホテルと言えばまさに夢の世界で宿泊するようなものだ。
だがそうなると1人行けないセッターには悪い気もしたが、それを聞くと俺の耳元でボソッとつぶやいてくる。
「ジェットコースターとかがあるのですよね? マスターは克服したのかもしれませんが、私はあれはちょっと……」
どうやら昔、ゴールドドラゴンに乗せてもらったのがトラウマになっているようで、行けないことを喜んでいる。
まぁ娘や婿であるマイセンの手前、悲鳴をあげている情けない姿は見せられないだろうな。
そんなわけで開園前に合わせて出発するわけだが、今回はヤバイ。
ただでさえ謎の超美女4人と言われた俺たちに加えて、アラスカも加わっている。
嫌でも注目されてしまい、声をかけられまくる。
特に鼻の下を伸ばしながら俺の嫁ーズに声をかけてくる男には正直殺意を覚えたが、そういった類はアリエルもウェラもあっさりと躱していたため安心できた。
むしろ問題だったのは電車内で、俺とアリエル、ウェラとアラスカは予測で問題なく捌いていたが、ルースミアがヤバかった。
最寄りの駅に着くまでに10人近くの痴漢を撃退していて、俺が止めに入らなかったらたぶん数人は死んでいたかもしれない。
「我の尻に触れていいのは番だけだ!」
照れるね。
なんとかネズミーシーに辿り着いたのはいいが、入園待ちで並んでいると俺たちにカメラを向けてくるのを笑顔でなんとか凌いでいると開園時間になった。
まず最初に向かったのが大きくそびえる建物……タワーオブシュートだ。
宿泊しに来た客の客室が夜な夜な落下するという設定のアトラクションで、1室につき最大10名入れてそれが全部で5室ある。
アトラクションを終えた全員の反応は喜びに満ちたものであった。
ネズミーの乗り物なんてと甘く見過ぎた……
続いてスモールマーメイドのヒロインに会える場所に向かい人魚と撮影をする。
「そういえサハラさんの世界には人魚はいないの?」
不意に愛菜が聞いてきた。
「いや、いるぞ」
「へぇ〜、やっぱり可愛いの?」
「そうだなぁ、俺が会った人魚は可愛いよりは綺麗だったかな」
「そうなのね? 実物ってどんな感じなの? 印象っていうか、ファーストコンタクトの感想って言ったらいいかしら」
「そうだな……生臭い」
「……う、ゆ、夢が壊れるからそれ以上言わなくていいわ」
自分から聞いてきておいて言うなかよ。
というか、妙に静かだと思ったらアリエル達やアラスカ、まどかの姿が無く、いつの間にか愛菜と2人きりになっていた。
「あれ……」
俺と愛菜で辺りを見回すが姿は見えず、連絡を取ろうと愛菜がスマホを取り出すと俺に見せてきた。
なになに……?
——はぐれたみたいなので、このまま行動します。 他の皆さんはお母さんに任せて仲良くしなさいね。 お母さん——
「なっ!?」
「お母さん……」
2人してため息をつく。
「サ、サハラさん、奥さんのこと心配みたいだし、え、えっと……」
愛菜が顔を赤くさせながら必死に理由をつけて別に2人きりの必要はないアピールをしている。
……仕方ないなぁ
「ちょっとトイレ行ってくる」
「え? あ、うん」
多目的トイレに入り、素早く女体化を解いて着替えを済ませて愛菜の元に戻る。
「待たせた」
「サハラさん、その格好どうしたの?」
「どうしたもこれが本来の姿だろうが」
「そうじゃなくて!」
「せっかくの気遣いを無駄にしたら悪いからな。 今日ぐらい恋人っぽくしてみるか?」
はわわわわとでもいう表現が合ってるのか急に愛菜が慌てだし、少しそのおかしな行動を眺める。
「しょ、しょうがないから付き合ってあげるわよ! ……っ! 付き合うってそういう意味じゃないわよ!」
夢の中で俺に告白したことまで言ったくせに、何を今更気のないふりをしているんだか……
「はいはい、わかったわかった」
愛菜と2人で行動することになったのはいいが、次はどこに行こうか?
「っん」
「ん?」
手が伸びてきて俺の手を掴んでくる。
「こ、恋人っぽくって言うから、手、つないであげるわよ!」
こりゃまた随分と急にツンデレな態度になったな。
なんだかんだで、すぐに愛菜も笑顔になってネズミーシーを堪能しだす。
途中、マイセンに肩を寄せながら歩いているアラスカと遭遇すると慌てて愛菜が手を離し、アラスカもマイセンから離れる。
「夫婦なんだから気にする必要ないだろうになぁ?」
「そ、そそ、そうね」
夜になって全員集まる。
ホテルへ向かおうとするとルースミアが俺にネズミーのぬいぐるみをせがんできた。
「主よ、ネズミーの新しいぬいぐるみを買って欲しいのだ」
「前のやつはどうしたんだ?」
「あ、あれは……うむ。 よくしてくれた仲間に感謝の印に与えたのだ」
な……なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!
どれだけボッロボロになってもあれだけ大事にしていたネズミーのぬいぐるみをあげたというのか!? まさか相手は男じゃないよな?
「元の次元に戻る際にティアさんにあげたのよね?」
愛菜が知ったように言ってくると、ルースミアが驚いている。
「夢の中で我はそこまで教えていたのか」
ティア……まぁ名前からして女性だろう。 というかぬいぐるみなんか男はもらっても嬉しくはないしな。
ホテルは俺と嫁ーズ、アラスカとマイセン、愛菜とまどかで部屋分けされていた。
「……気遣いは嬉しいが、愛菜とまどかを2人きりにするのは危なくはないか? 一応教団の手が伸びないとも限らないだろう?」
「あたし達目立ったみたいだしね」
俺の指摘にアリエルも同意してくる。
「それなら私と沙原さんが部屋を変わりましょう。 沙原さんのお嫁さん達とお話をしてみたかったから丁度いい機会かしらね」
「ちょ!」
「ちょっとお母さん!」
嫁ーズの反対もなくそれがベストだと決めつけられて決定してしまった……
改めてホテルで愛菜と2人きりというシチュエーションになると、お互い黙り込んでしまう。
まるで付き合いたてのカップルがラブホにでも来た気分だ。
「と、とりあえず明日に備えて寝るか?」
「そ、そうね」
……シーン
なんか空気が……
「ど、どうしたんだ?」
「あ、えっと、着替えるから……」
「お、おう、そうか。 悪かった」
ベッドに潜り込んで反対を向く。
俺、一体何こんなに焦ってんだよ……
「あの、さ、サハラさん」
着替えが済んだのか、愛菜が話しかけてくる。
「なんだ?」
「一緒のベッドで寝ても……いいかな……」
愛菜にそう言われて、脳裏にブリーズ=アルジャントリーの事が思いだされる。
「べ、べべべ、別に変な意味じゃないわよ! ただあんなこと言われて不安なだけだから!」
あんな事とは教団の事だろう事はわかるが、それ以上に我が身の危険が心配だ。
「同じ部屋にいるからそんな心配はしなくても俺が必ず愛を守るから大丈夫だ」
分かってくれたと思ったが、感知で俺のベッドに近づいてくるのがわかる。
そして愛菜は俺の言葉を無視して俺と一緒のベッドに潜り込んできた。
「今日だけ、今日だけだから……」
明日の朝を俺は無事迎えられるのだろうか……
そんな不安を覚えながら黙ったままでいると、愛菜が反対を向いたままの俺の背中に抱きつく形でくっついてきて、柔らかい感触が背中に触れてくる。
にょ、女体化をしておいて良かった……
諦めにも似た覚悟を決め俺は眠りについた。
毎度更新が遅くてすみません。




