幕間3
ブックマーク感謝です。
息苦しさを覚えて目をさます。
「おはよ、サハラさん」
「おはようアリエル」
目の前にアリエルの顔があって、目覚めのキスをされたことに気がつく。
「サハラさん……」
「ウェラもおはよう」
続いて相変わらず照れながら近づいてくるエラウェラリエルにもキスをする。
「主……」
「ルースミアもおはよう」
未だにこの意味がよくわかってなさそうではあるが、ルースミアも人間の番とはこうするものなのだろうとキスをする習慣になっている。
3人と目覚めのキスをしてやっと今の状況を思い出し、慌ててブリーズ=アルジャントリーと愛菜の方へ目を向ける。
ベッドはキングサイズが2つあるだけだったため俺は嫁ーズと、愛菜とブリーズ=アルジャントリー2人で1つのベッドを占領できていた。
だがそこには愛菜1人の寝ている姿しかなく、ブリーズ=アルジャントリーの姿がない。
アルはどこに行ったんだと思ったところで、愛菜の寝相の悪さを思い出した。
「アル! アルは無事か!?」
ヤバい! そう直感が告げてきて慌てて身を起こし部屋の中を見回す。
するとすぐにブリーズ=アルジャントリーの姿が見つかった。
顔を青ざめさせながらガタガタブルブルと身を震わせ、ベッドの隅で丸くなって座っていた。
「ぶ、無事だったか?」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
はいと返事をしようとしたが、愛菜がわずかに動いた音が聞こえた瞬間、悲鳴に変わりその場から逃げだす。
直後、ブリーズ=アルジャントリーのいた位置にドスンという音がして、愛菜の寝返りによる裏拳が振り落とされていた。
「寝ている時にアレを入れられたらたまったものじゃないわね」
試しに俺がベッドに手を伸ばしてみるが反応は無く、ベッドに手を置いてみた瞬間、愛菜の寝返りによる蹴りが飛んできて、慌てて躱した。
「あっぶねぇ……」
どうやら愛菜は睡拳の使い手のようだった。
だがこのまま寝かしておくわけにもいかない為、意を決して愛菜の肩を揺すって起こすと寝ぼけながら目を覚ました。
コイツの恋人になった奴は地獄を見るな……
3日目は午前中は富士山ハイランドで地獄を見た後、遅くならないうちに帰路についたわけだ。
そして姫川家に辿り着いたその日の夜、夕飯を終える。
「それでは私もそろそろ戻るわ。 これ以上いたら世界の守護者のここでの記憶を食いつぶしかねないものね」
継続してこの世界にいることは俺の記憶を奪っていくことになる。 対価は十分に貰えたと満足気に消えていく。
「わっちもサハラ様と十分楽しく過ごせんした。もしわっちの力が必要でありんしたら今度はその都度毎にして、どうか大切な思い出を無くさないでくんなまし」
ぺこりと頭を下げるとブリーズ=アルジャントリーが笑顔で消えていった。
俺の記憶の事を口にして去って行った為かリビングに静寂が訪れてしまう。
苦笑いを浮かべながら見回すと俺の嫁ーズだけは頭に疑問符をつけているように見えた。
「えーっと、サハラさんの記憶記憶って一体なんの話?」
耐えきれなくなったアリエルがそんな事を口にする。
なので召喚した時の対価の説明をした。
「——というわけなんだ」
「我には主の記憶は見えてないぞ?」
「うんうん」
「サハラさんの記憶……少し興味深いですね」
どうやら嫁ーズ3人には俺の記憶は奪われていないらしい。
嫁だからか? いや、それはいくらなんでも都合が良すぎる。 召喚した他の奴との違いが関係しているのかもしれないな。
「もしかしたらだけど、サハラさんみたいに記憶がなくなってるんじゃないかしら?」
愛菜が俺との共通点から思いついた事を口にする。
「以前来た時の思い出? えっと、何か忘れてる事ってあった?」
「そこは忘れてるからこそ思い出しようがないと思いますよ、アリエル」
「あ、そっか」
「ふんっ! 創造神の魂胆が見えたわ! 要するにサハラに力を貸し与える代わりに元の世界との縁を完全に切り離そうとしているんだろう。 そして当然我らも呼び出すと分かっているからついでに我らの記憶も処分する気だ」
「うわ、そこまでするぅ?」
「たぶんですけど、創造神様の知らない知識というのはやはり目障りだったんじゃないでしょうか」
嫁ーズがまだ確定したわけでもないのに創造神に対して言いたい放題だ。
「お前らちょっと待て、一応俺は創造神の執行者で世界の守護者でもあるんだから、あまり勝手な憶測で創造神を悪く言うな」
俺の一喝で嫁ーズが黙り込む。
「ねぇサハラさん、そもそもその召喚の力っていつから使えるようになったか覚えてないの?」
嫁ーズが黙り込んだところで愛菜が聞いてきた。
そういや、急に使えるようになったな。 そもそもこの腕輪だっていつ手に入れたんだ?
「ならサハラさん、改めて言うわ。 あの時の事覚えてない?」
愛菜が攫われる前にも数度俺に問いかけてきた言葉だ。
「なんの事を言ってるのかがわからない。 もっと具体的に言ってくれないか?」
「だからっ! その腕輪を手に入れた時の事に決まってるでしょ!」
俺が腕輪を入手した時の事? 朝起きたら手に入れていた事以外覚えてない。
「いや……覚えてない。 もし知っているのなら教えてくれないか? 俺は何か言ったりしたのか?」
「ふぇっ!」
なぜそこで顔を赤くさせるんだよ!
それは怒っているのではなく明らかに恥ずかしがっているようにしか見えない。
「マスターの事だから、愛菜さんに何かしでかしたんじゃないですか?」
「おいセッター! そりゃどういう意味だよ!」
セッターに問い詰めるよりも先に違う方角から殺気を感じてそちらに振り向くと、そこには愛菜の父親が俺を超ガン飛ばしながらいつどこから取り出したのか、日本刀を鞘から抜き放とうとしているのを愛菜の母親、まどかが留めていた。
「ちょ! ちょっと待ったぁぁぁ! 何もしてない、した覚えもない!」
そこで一旦動きが止まり愛菜の父親が愛菜を見る。 愛菜は愛菜で顔を赤くさせたまま手で顔を覆っていた。
「悪、即、斬!」
なぜこうなった……
俺は何もしてない。 下心だって初めて召喚された時に見た、スカートから伸びた黒タイツの脚を見たときぐらい……のはずだ。
でもまぁ子を持つ親であれば、それが娘の父親であれば誤解であっても許せないものなのだろう。 とはいえそんな誤解で日本刀で斬りつけられてはかなわない。
だけどどうせ修道士特有の呼吸法をすれば、俺の体は神鉄アダマンティンに匹敵する。
なのであえて避けず受ける事にした。
「責任をとりたまえ」
日本刀は俺の体に当たるスレスレで寸止めされ、愛菜の父親が何をトチ狂ったのか、いわゆる愛菜と結婚でもしろ的な事をぬかしてきた。
「は?」
「だからうちの娘を誑かした責任を君に取ってもらおう!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
あんたこんな3人も嫁を連れた男に責任とらそうなんて、それでも父親か!」
嫁ーズ、いや、アリエルとウェラからウンウンと頷く声が聞こえてくる。
「えっと……お父さん、ち、違うの」
この場にいる全員が愛菜を見つめるなか、意を決したように叫んだ。
「わ、私が! サハラさんに……こ、告白したのっ!!」
その後分かった事だがクリスマスイブの夜、俺と愛菜は夢の中で会ったのだそうだ。 しかもセッターはもちろんの事、俺の仲間や知り合い全員もいて紹介されたんだそうだ。
どうりで家に帰ってセッターたちがいるのを見ても驚かなかったわけだ。
で、肝心の腕輪はその夢の中でサンタクロースが現れてツリーの下にそれぞれ置いていったプレゼントなのらしい。
「朝起きた時にプレゼントがあった時は本当に驚いたんだけど、サハラさんといると本来なら超常現象のはずのものでも受け入れられちゃうのが不思議なところよね」
こうして一応誤解は解けてくれたわけだが、となるとクリスマスやサンタクロースの存在を知るはずのない創造神からというのもおかしな話だ。
サンタクロース……この世界においては北極神タイロスとも言われていたと思うが……まさかな……
「ところで愛菜さんは何を貰ったんですか?」
「えっ!」
アラスカに問われ、愛菜が顔を赤くさせながらなぜか俺の顔を見てくる。
「な、内緒よ!」
なんだか嫌な予感もするが気にしない事にしよう。
「マスター、そうなると我々も」
「いや、セッターたちは引き続き姫川家と夫妻の警護を続けてくれ」
セッターたちは何か言いたそうな顔をしていたが、それを無視して明日の事を口にする。
「ルースミア、明日はネズミーシーに連れて行ってやるぞ!」
「おおっ! お? ネズミーシー? ネズミーランドとは違うのか?」
「それは行ってからのお楽しみだ!」
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
1話に1日分を叩き込もうとすると、どうしても自分にとっては異常なほど長文になってしまい、書き忘れがないかチェックしていると遅れてしまいます。
次の話もそんな感じでチェックチェックの連続になり、遅れてしまいそうですができるだけ早く更新出来るようにします。