サハラの思惑
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支部長の守護者が幻だったかのように消えていく。
その様子を見た支部長の顔から絶望の色が見えていた。
「さて……」
これじゃあまるで俺が極悪人のような雰囲気だが、仕方がないよな。
「まっ、待ってください! 姫川愛菜は返す、返します。 だから……」
「だから命乞いか? だけどな、お前が愛菜や愛菜の両親にやったことは謝って許せるようなものじゃない!」
「あなたに人を裁く権限があるとでもいうのですか!」
「——支部長、お前が今日までやってきた罪はこの俺の目が覗き見て既に断罪されている。 もしも今までやってきた罪が重いものでないと思うのであれば、死に至ることはない」
スゥっと贖罪の杖を支部長に向ける。
「——己の行為に後悔するがいい!」
次の瞬間、支部長がものすごい悲鳴をあげながら床を転がりまわり、かなり激しくそして長い間苦しんだ末に支部長は動かなくなった。
「どうやら相当罪は重かったようだな——」
さて……と、愛菜を見ると今の支部長の様子に引きつらせた顔を見せていて、ブリーズ=アルジャントリーは見慣れたというとおかしいが平然としている。
【保護の神ロルス】は西洋人の男を逃さないように捕まえたまま俺の贖罪の力を見ていて、その捕まえられている西洋人の男は既に覚悟を決めているのか、落ち着いた様子を見せていた。
『随分と落ち着いているな?』
『当たり前だ。 死は我々にとって主に身を捧げるのと同じことでもあるのだからな。 どんな呪いを使ったか分からんが殺せばいい!』
西洋人の男は覚悟を決めているようだが、大きな勘違いをしている。 なんの為に俺が【保護の神ロルス】を呼んだのかわかっていないらしい。
『そうしたいところだが、お前には聞きたい事がある』
『俺が口を割るとでも思っているのか?』
『ああ思ってるさ。 その為に【保護の神ロルス】を呼んだんだからな。 何より愛菜にしてくれた礼をしなきゃならない。 答える気がないなら答える必要はないが、果たしてドラウの拷問に耐えられるかな? というわけでまずは教団の守護者はなぜ姿を消せるのかを教えてもらえるか?』
当然ながら西洋人の男はそっぽを向いて答える気はないと態度で示してくる。
「ロルス頼む。 それと愛菜は見ないほうがいいぞ」
俺がそういうとロルスが早速行動に移そうとしだす。 愛菜は言っている意味がわからず首を傾げていた。
『へっ! 拷問の達人に拷問なんざ通ようしねぇよ』
——30分後
『言う! 何でも言う! 頼む、だからもうやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
ロルスの拷問の前に西洋人の男は呆気なく陥落した。
とはいえ30分持ったのはさすがとも言えるかもしれないが。
そして見るなと言っておいたにも関わらず見てしまった愛菜は悲鳴と嘔吐を繰り返し、ブリーズ=アルジャントリーも顔を真っ青にさせている。
まぁ拷問内容は割愛させてもらうが、とてもじゃないが俺でも耐えられる自信はないな。
だがあの拷問を平然と耐えきり、ロルスから引き取りを願われるような奴が1人いたのだが……さすがはドM王と称されただけはあるな。
『それじゃあ最初の質問に答えてもらおうか』
なぜ教団の守護者は姿を消せるのか、それは召喚術式の違いという事だった。
最初の頃は秘密結社や魔法使い協会が使う術式と同じだったそうだが、それを召喚した守護者が改良を施したのだと言う。
これにより教団は秘密結社や魔法使い協会よりも活動がしやすくなり、大きく勢力を伸ばしたのだそうだ。
『なるほどね、その術式の改良を施した守護者は誰だ?』
そんなことができる守護者となれば相当魔法に卓越した相手だ。
西洋人の男からその守護者の名前を聞いて俺は戦慄が走った。
『だからいくらお前が強かろうと絶対に勝てやしねぇよ』
ロルスの拷問を受けボロボロになった西洋人の男が顔をニヤつかせながら答える。
『……俺からは最後の質問だ。 教団の本拠地を言え』
この質問には西洋人の男も口を噤んでくる。
俺がロルスの方へ顔を向けた直後、西洋人の男がペラペラしゃべりだした。
『ル、ルーマニアだ!』
『ルーマニアの……何処だ?』
西洋人の男が場所を口にする。
——呪われた森
俺もそこまで詳しいわけではないがミステリースポットとしてかなりヤバイ場所として有名な場所だ。
聞きたい事は聞いた。 となればサッサとこんな所からはおさらばしたい。
「ロルスは不可視球体は使えるか?」
「もちろん使えるわ」
「それじゃあコイツも連れて愛菜の家に戻るとするか……と、その前に」
ゴスッと殴りつけて西洋人の男の意識を刈り取り、ブリーズ=アルジャントリーに時間を動かしてもらう。
準備やらをしているとロルスが俺の耳元ににコッソリと声をかけてきた。
『拷問なんかしなくても口を割らせるぐらい魔法で造作ないというのに……贖罪といい拷問といい随分といやらしいやり方をわざと見せつけたわね?』
チラと愛菜に視線を送りながらドラウ語を使ってくる。
『さて一体何の事かな?』
ロルスの不可視球体の魔法で姿を消した俺たちは、来た道を戻りながらビルを出る。
ロルスとブリーズ=アルジャントリーは初めて見るエレベーターやらに驚いていたようだが、不可視化していても声は漏れる。 その為2人が取った行動は、手で口を塞ぐという何とも間抜けだが可愛らしくも見える格好だった。
ビルを出たら出たで高層ビルが立ち並び、たくさんの人の姿にまた驚いていたが……
というより、まだ俺の出待ちしてたのか……
教団の建物から離れて辺りに人気のない場所に来たところでやっとひと息つく。
初めて見る2人がいろいろと尋ねたそうだったがそれは後回しにさせて、今は最優先で愛菜の家に戻る方法を考える事にした。
「交通機関の利用は無理だな。 だとしてここから歩くにしても……」
理由は言うまでもない。 今の俺の姿は謎の超美女と呼ばれている1人なのだ。 そこに加えて白髪に青白い肌をした人間などこの世界には存在しないし、歌姫としても活動している銀髪の美少女も目立つ。 そして何よりも意識を失ったままの西洋人の男を背負って歩いたら、警察でも呼ばれかねない。
「電話でお父さんに来て貰えばいいんじゃないかしら?」
俺がうんうん唸っているのを小馬鹿にするように言ってきた。
……ほどなくして愛菜の父親が車で迎えに来てくれて事なきを得た。
その際俺の姿を見て驚いたのは言うまでもない。




