支部長の守護者(ガーディアン)
支部長が何をしているのか【保護の神ロルス】とブリーズ=アルジャントリーには分かっていない。 だが俺が動くなという合図で、支部長の手に持つものが凶器であるという事は理解してくれたようだ。
『ロルス、射撃武器からの保護の魔法だ』
手短にドラウの言語で伝える。
【保護の神ロルス】が即座に実行してくれたようだ。
「派手にやってくれましたがこれでまた形勢逆転ですね。 おっと、動かないでくださいよ。 少しでも動いたら暴発してしまうかもしれませんよ」
とまぁ支部長が説明してくれているわけだが、正直なところこの中で焦りを感じているのは愛菜だけだ。
「まずはこのわけのわからない結界を解いてもらいましょうか」
「断る、と言ったらどうする気だ?」
カチャッと愛菜の額に銃を押しつけて見せてきた。
「やれるものならやってみればいい。 秘密結社の情報を聞き出せなくなるだけだ」
一瞬だけ渋い顔を見せたが覚悟を決めた様子を見せると、銃の引き金を引いた。
ガァァァァァァァァァァン!
銃声が部屋にこだまして鳴り響く。
あまりの轟音に鼓膜が破れたんじゃないかと思うほどだ。
そして撃たれたと思った愛菜はというと……
「あー……あ、あ、あ……」
ちょぼちょぼちょぼっと音を立てながら失禁してしまい、俺が貸したローブをびちょびちょにさせてしまう。
もちろんロルスの射撃武器からの保護の魔法のおかげで愛菜は無傷なのだが、当の本人はそんな事は知らない。
「その銃は女の子を失禁させるしかできないのか?」
アレだけの至近距離でぶっ放したにも関わらず無傷に終わり、さすがの支部長も戦意も何も無くなってしまった様子だ。
『ええい! ボケっとしてないでさっさと守護者をけしかけんか!』
既に自身の守護者を失った西洋人の男が支部長に叫ぶ。
『残念ですが私の守護者は彼らに勝てるほどの力は持っていません』
確かに先ほどから感知で位置は把握しているが、支部長の守護者はその姿を見せようとはしてこない。
おそらくサポートに特化した守護者なのだろうが、そんな神話やおとぎ話に登場する奴はすぐに頭に思い浮かばなかったが、今のでもはや2人が俺に抗う術がないのがわかった。
それより1つだけ気になることがある。 それは教団の守護者は全員姿を消す事が出来ることだ。
安倍にしろシャーロットにしろ魔法使い協会の守護者はそんな事はできない。 この違いは一体何なんだ?
まぁその疑問もすぐに分かることだから今はいいだろう。
「おとなしく愛菜を返してもらおうか? さもないと強引な手段に出させてもらうぞ」
「はっはっは、銃が効かないとはいえこの娘は私たちの生命線であることに変わりはありません。 そう簡単に手放す気などありませんよ」
うん、どうやら手荒くいかないとダメらしい。
贖罪の杖を構えて愛菜を掴む支部長の腕を狙う。
腕を殴り飛ばしたいと思った瞬間、支部長と愛菜の姿が消えた。 いや、正確にはその場からいなくなり、ブリーズ=アルジャントリーに時間を止められていないこの部屋の入り口まで移動していた。
「どうやらこの部屋の中なら私の守護者の力は有効なようですね」
そういうと支部長は扉を開けて逃げ出そうしだす。
『貴様! 1人だけで逃げる気か!』
そしてその場に取り残された西洋人の男……
憐れだな。
「そこの男を頼む」
ロルスに西洋人の男を任せて俺は支部長の方へ向きを変えた。
「な、なんで扉が開かないんですか!?」
逃げられる、そう確信していた支部長の顔に焦りが浮かんでいた。
「種明かしをしてやるよ」
この部屋以外の時間が止まっていることを教えてやる。
徐々に絶望の顔に染まっていく支部長だったが、そこで突然笑い出した。
「なるほど、つまりこの部屋の空気がなくなるまで私が逃げ切ればいいのですね!」
「馬鹿……」
手を掴まれた愛菜が呆れた顔を見せてきた。
「ま、まぁ、それならさっさと贖罪してやればいいだけだ」
無駄に会話をしている間に、支部長と西洋人の男2人の断罪は既にしてある。
贖罪の杖を突きつければ支部長は贖罪されて終わるだけだ。
スゥっと贖罪の杖を支部長に向けようとした瞬間だった。 いきなり支部長が瞬間移動をして躱してしまう。
まさか気づいたとでもいうのか?
移動先の支部長の表情を見る限り、驚きが感じられるとこから見て支部長の意思ではないな。 となると守護者が召喚者を守る為に取った行動か。
姿を見せないままの支部長の守護者はどうやら勘が働くらしい。
「今何かしようとしたようですが、私の守護者が守ってくれたようですね」
まだ支部長には悟られてはいないようだ。
それならば先に支部長の守護者を叩けばいい。
標的を支部長から姿の見えない守護者に変え、感知を頼りに攻撃を仕掛けるが瞬間移動で逃げられてしまう。
「私の守護者は捉えることなど出来ませんよ!」
「そうかい?」
徐々に速度を上げていく。
瞬間移動してもすぐに俺も縮地法で接近して支部長の守護者を狙う。
別段法則じみたものがあるわけではないが、もはや瞬き移動でもしているような逃走と追撃だ。
「取った!」
ギャウっと声を上げて支部長の守護者が吹っ飛び、その姿を見せる。
そいつはまるでピューマのように真っ黒で大型の猫のような姿だった。
「UMAのエイリアンビックキャットだったのか」
そいつは一番信憑性が高いとまで言われているUMAだった。
とはいえ瞬間移動する生物などいる筈もないが。
贖罪の杖の一撃で吹っ飛んだエイリアンビックキャットは、体をビクンビクンさせながらも必死に起き上がり、召喚者である支部長を守ろうとするその姿は忠犬さながらに思える。
可哀想だとは思うが、召喚した相手が悪かったと諦めてくれ。 そう心の中で思いながらとどめを刺した。