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形勢逆転

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「愛菜!」


 声をかけたものの愛菜は何の反応も示さず、ただひたすら「サハラさんが助けに来てくれる。 サハラさんが助けに来てくれる」とまるで念仏のように唱えていて、その目は曇り光が見られない。



『俺の守護者(ガーディアン)が止血をしたから死ぬことはない。 まぁ、心は死んでしまったようだがな』


 俺の背後から西洋人の男の声が聞こえた。

 その声を無視して俺は愛菜を抱きしめる。


「愛菜、遅くなって済まない。 助けに来たぞ」


 延々とつぶやく愛菜の耳元でそっと呟く。


「……サハラさん」


 消え入りそうな声で俺の名前を言う。


「ああ、そうだ。 もう大丈夫だ。 よく頑張ったな」


 抱きしめるのをやめて、愛菜に俺の顔を見せる。


「わた、私……頑張ったんだよ。 サハラさんの秘密を話せって言われて……爪を剥がされて……指も折られて……」

「ああ」

「水に顔を何度も押し付けられて、水もいっぱい飲まされて……でも頑張ったんだよ」

「えらかったな」

「それでね……腕と足も切られちゃって……こんな姿になっちゃった」


 目に涙を浮かべながら訴えるように愛菜がやられた事を話してきた。


 当然今の会話は支部長にも聞こえていて、警戒心を露わにしてくる。


「貴方がサハラ? いや、しかし情報では男だったはずです」


 そろそろネタばらしをする頃か。 その前に……


再生(リジェネレイト)


 愛菜に再生(リジェネレイト)の魔法をかける。

 みるみるうちに切断された腕と足のあった場所に骨、血管、筋組織と再生されていき、愛菜の手足が元どおりに戻っていき、目にも光が戻ったように見える。


「サハラさん助けに来てくれたのね!」


 元どおりに戻った愛菜が俺に抱きついてくる。


「約束は守る。 というか……」

「なに?」


 鞄からローブを取り出して愛菜に手渡す。


「とりあえずこれでも羽織っていてくれ。 その……目のやり場に困る」

「——あ」


 自分の今の格好に気がついた愛菜が慌ててローブを着込んだ。



「さてと、それじゃあこいつら全員にお礼をしてやらないといけないな」


 立ち上がって振り返る。

 切断された愛菜の手足が元どおりに戻したのをよほど驚いたのか、俺が振り返るまで見入っていたようだ。


「……どうやら貴方がサハラだったようですね。 姿を変える能力に治癒の奇跡を使うところから、神かまたは神に仕える者といったところでしょう」


 まぁ一応当たってるな。 正確には創造神という世界を作り出した最も偉大な神の執行者だがな。


「しかし残念ながらこの人数相手ではさすがに敵いますまい?」


 今まで暗がりにひっそりといた教団員達が支部長の後ろにずらっと並んでいる。

 この部屋に入った時点で人数を把握していたため、今さら別に驚くことでもなかったが。



「驚きで声も出ませんか。 まぁ当然でしょうね。 しかも全員召喚者、守護者(ガーディアン)持ちですからね」


 さすがの数の多さに愛菜も心配そうな顔を見せてくる。 それを問題ないとウインクして見せた。


 もちろん今は女体化しているからで、もちろん普段はこんな事はしない。 どうも女体化すると女として動いてしまう癖ができたようだ。



「確かに神話やおとぎ話に登場するような連中を1人でこれだけ相手にするとなるとさすがに厳しいところだけどな……」



「……召喚者自体は大したことはない」


 支部長が振り返って俺の声が聞こえる方へ顔を向けてくる。


「な、なんですと!?」


 なんのことはない。 支部長と西洋人の男以外の教団員を叩きのめしただけだ。


『こんな事ありえん! ムッチャクチャだ!』

「一体何が……」


 まぁ2人が驚くのも無理はない。

 何しろ俺が1秒にも満たない速度で2人以外の全員を倒しただけだからな。



「くっ……こうなっては仕方がありませんね!」


 西洋人の男が俺に守護者(ガーディアン)をけしかけ、その隙に支部長は愛菜に向かって走りだしその手を掴む。


「イヤっ! 離して!」

「今回も失敗に終わりましたが、こちらに姫川愛菜がいる限りいくらでも手は打てます!」


 例によってまた支部長は守護者(ガーディアン)の力で逃げ出すつもりのようだった。


「何度も同じ事をさせると思ってるのか?」


 次の瞬間、腕輪が輝いて銀髪の美少女が現れる。


「アルっ! この部屋の時間を止めてくれ!」

「……サハラ様? 分かりんした!」


 突然の見知らぬ場所に召喚されて、困惑するよりも早く俺の頼みを実行したこの美少女の名はブリーズ=アルジャントリー。 俺ですら習得できない時空を操る力を持っている。


 わずかな詠唱の後、この部屋全体以外の時の流れを彼女は止めた。


「な!? なぜ移動できないのですか!」


 慌てる支部長を他所に、俺に向かってきていた西洋人の男の守護者(ガーディアン)……巨大な鎌を振りかぶりながら、黒を基調にした痛んだローブを身に纏った人間の白骨した姿の前にも1人姿を現われて、おそらくグリムリーパーの持つその巨大な鎌を錫杖で受け止めた。


『なんだと!? こっちにも別の奴が現れた!』


 ブリーズ=アルジャントリーの他に召喚したのは非常に整った彫像のように綺麗な女性で、今はその表情が睨むように俺を見つめてくる。


「——それで、世界(ワールド)守護者(ガーディアン)のサハラ。 これは私を急に呼び出し、亡き者にでもしようと考えかしら?」

「こなたの広さならかなりの時間を止めていても大丈夫でありんすサハラ様」


 俺が召喚した2人からほぼ同時に声がかかった。


「そいつは【死の神ルクリム】のお友達だろうと思ったんだが違ったか? それとアル、良くやってくれたな」


 俺に言われて【死の神ルクリム】は巨大な鎌を持つグリムリーパーを見つめ、ブリーズ=アルジャントリーは俺に褒められたのが嬉しかったのかニヘヘと可愛らしい笑顔を浮かべてくる。



『ええい! 何をしている! そんな奴サッサと消し去ってしまえ!』


 グリムリーパーの鎌を受け止めながらも余裕を見せていることに苛立ちを覚えたのか、西洋人の男が守護者(ガーディアン)であるグリムリーパーに命じる。

 召喚者の命令に従いグリムリーパーが巨大な鎌を再度振り上げて、【死の神ルクリム】に向けて振り下ろしてきた。



 正直に言うと【死の神ルクリム】が戦う姿を俺は初めて見る。 案外、死極の門の管理権限と輪廻転生を任されているだけかと一瞬だけ不安がよぎったのだが……

 突然ズヴァッと手を伸ばしたかと思うとグリムリーパーの身体をひっ掴み、いつの間にか現れた扉を開けてそこに放り込んだかと思うとガチャリと閉じてしまった。


「用事は済ませました。 私はこれで帰らせてもらいます世界(ワールド)守護者(ガーディアン)のサハラ」


 それだけ言うと【死の神ルクリム】は消えていった——



 あれヤバい! ルクリムの奴、間違いなくグリムリーパーを死極に放り込みやがった!


 死極、そこは終わり無き死ぬことが出来ない世界であり、そこに閉じ込められた者たちとの永劫の殺し合いが行われる場所だ。 一度そこに閉じ込められたら、【死の神ルクリム】の持つ死極の鍵がない限り脱出はできない。



『お……俺の守護者(ガーディアン)が……』


 今の光景に西洋人の男が呆気にとられている。

 そこへ間髪入れず俺は更に召喚する。

 召喚したのは青白い肌に異常なまでに露出の高い、やはりこちらも黒を基調にした格好の長い白髪の女性で、本来ならドラウと呼ばれている種族の女だが今は【保護の神ロルス】として存在している。


「あら……いきなり呼び出されたかと思えば、随分と楽しそうな状況ね世界(ワールド)守護者(ガーディアン)

「あんたにしか頼めない事があってな」


 すぐに俺の頼みが何であるか悟ったのか、【保護の神ロルス】が恍惚とした表情を浮かべた。



「う、動かないでもらいましょう。 この娘がどうなってもいいのですか」


 支部長が一気に形勢逆転し慌てて取った行動は、その手に掴んでいた愛菜を人質にとることだった。

 愛菜の頭にいつの間にやら銃が突きつけられている。


「サ、サハラさん……」


『良くやった支部長』


 西洋人の男が我に返って支部長の方へ向かっていった。




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