変わり果てた姿になった愛菜
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薄眼を開けながら様子を伺うと、更に地下深くに降りているようだ。
重々しい音とともに扉が開かれ薄暗い部屋らしい場所に連れて行かれた。
『なんだその女は?』
『姫川愛菜の友人だそうです。 始末する前にご友人に会わせてあげようと思いまして』
『それは構わないが、なかなか強情な娘でな……壊れてしまったぞ?』
日本語以外の言葉でそんな怪しい会話をしている。 それが英語だったおかげで俺にも聞き取ることができたのだが、愛菜の状態が良くない言葉を聞いてしまった。
喰ってかかりたかったが、それだと今気を失っているフリが無駄になる為グッとこらえる。
気付けをされ、意識を回復させようとしてくる。 なので戻ったフリをしながら目をさますことにした。
「うっ……こ、ここは……」
特に拘束されてはいない。 おそらく普通の女だと思われているからだろう。
ならばここはおとなしく演技を続けるのが得策だ。
「ここは……どこ……え!? なんでこんなところに?」
「お目覚めですか? 貴女が姫川愛菜さんに会いたいというのでわざわざ連れてきてあげたのですよ」
「愛菜……愛菜さんがここに居るんですか?」
感知でこの部屋の中にいる人数はすでに掌握している。 だが愛菜の場所まではわからないため、怯えたフリをしながらキョロキョロさせて探したが見当たらない。
「貴女には選択肢を与えてあげましょう。 我ら教団の仲間に加わるというのでしたら生かしてあげますが、断るのであれば我らが主の供物になってもらいます」
「教団? 供物? 一体なんのことですか? それよりこんな事をして許されると思っているんですか? これは立派な犯罪ですよ!」
「ははは、誰も貴女がここに居ることなんて知りはしませんよ」
「いいえ! 今もこのビルの外には私の噂を聞いて人が集まっているはずです! 中に入って行ったのを目撃している人は大勢います!」
俺がそう言うと、支部長は近くにいた他の教団員の1人に小声で何かを指示を出すと素早く何処かへいなくなった。
そして1分も経たずに戻ると報告をしているようだ。
「なるほど……貴女の噂はどうやら我らの想像以上だったようですね」
「分かったのなら……」
「それでは何が何でも貴女には我らの同志になってもらうしかないようですね。 貴女が我らの同志になれば信者も増えてくれるでしょう」
どうやら教団は俺の噂の人気を利用するつもりのようだ。
「私はなんだかよくわからないいかがわしい宗教になんて入信しませんよ!」
「……別に構いませんが、姫川愛菜がどうなってもよろしいのですか?」
くそっ……いやらしいことをしてきやがる。
まずは愛菜の保護が優先だ。
「それならまず愛菜さんに会わせてもらえますか?」
俺の感知は生物の感知だけでどれが愛菜かまではわからない。
先ほどの会話から愛菜はここに居るらしいような事を言っていたが、薄暗いせいもあるが姿が見当たらなかった。
「……実は姫川愛菜は、我らの秘密を知ってしまいましてね。 どこまで知ってしまったのか問いただしていたのですよ」
そこまで話した後、一度頷いてから続けてくる。
「貴女はサハラとかいう人物を知っていますか? 姫川愛菜はその名を必死に繰り返していたのですよ」
嫌な予感がする。 支部長は問いただしてと言っていたが、シャーロットも言っていた通り拷問されていたのだろう。
そしてこの部屋に入って支部長と話した男は壊れてしまったと言っていた。
焦る気持ちを抑えながらまずは今の質問に答えなくてはならない。
知らないと言えばおそらくそうですかで終わるだろう。 だが知っていると答えた場合どうなるのか?
その場合、俺は少なからずとも守護者なんかの事を知る人間として見られるに違いないだろう。 だが知らないばかりも良くないか?
となれば……
「愛菜さんから話は伺ってました。 恋人なのか聞きましたけど、結局うやむやにしか答えてくれなかったですけどね」
上手い切り返しだったのか、支部長はふうむと頷いただけだ。
「それにしても先ほどから随分と落ち着いてますね。 今の状況から普通なら冷静でいられないと思いますよ?」
「皆さんが噂している私以外の3人には、今日私がここに行く事を伝えてありますからね。 私に何かあれば警察に通報されると思います」
「そう言うことでしたか。 ですが警察に通報したところですぐに動くとは思えませんし、ここはそう簡単に見つかりはしません」
まぁ、そうだろうな。
それならそろそろ愛菜に会わせてもらわないとな。
「それで、愛菜さんはどこですか?」
支部長が側にいた西洋人の男を見る。
『いいのか?』
『構いません。 現実を知ればきっと入信してくれるでしょう』
『もしそれでも拒否したらどうするつもりだ?』
『その時は……貴方様のお力をお借りしたいと思います』
それを聞いた西洋人の男はニヤリと舐めるようにイヤらしい目を俺に向けてくる。
俺自身も男だが、こういうのを見るとつくづく男という生き物を軽蔑したくなるもんだ。
『娘ならその椅子の後ろにいるぞ』
言われて椅子の後ろを覗き込んでみると、確かに感知で1人いるのがわかる。 だが目では薄暗くて何かいるのがわかる程度だ。
『コイツ、俺の言葉が分かるようだな』
『日本人が日本語以外話せないなんてもう時代錯誤もいいところですよ』
『そうかい、まぁ言葉が通じるならますますもって楽しみだ』
西洋人の男を無視して椅子の後ろに近づくと、そこに地べたに座っている愛菜がいるが俺に気がつく様子がない。
『なかなか強情な娘でつい俺もあれこれ試してしまってな……』
西洋人の男が愛菜に行った拷問の内容を口にしていく。 その内容は聞くのも耐え難いほどの拷問なのだろうが、ドラウの拷問を知っている俺からすればその内容は可愛いものだった。
とはいえそれは俺のいる世界での話で、平和に生きてきた愛菜にとっては死よりも辛く苦しいことだっただろう。
だが愛菜の側まで行くと、実際にはどれだけの仕打ちを受けたのかわかるほど変わり果てた姿になっていて、さすがの俺もそのあまりの酷さに目を見開く。
水攻めをされたせいで下腹部パンパンに膨らんでいて、そして……
『どうだい俺の芸術は? 昔の中国であったとかなかったとか言われているダルマ女と言うものらしいぞ?』
西洋人の男が言うように、愛菜の手足は切断されていて——
まるでダルマのような姿になっていた。




