デート
翌朝、店の開店に合わせて店で服を購入しに出かける。
俺は元の姿に戻り、一時愛菜の父親の服を借りる事になった。 愛菜は昨日と同じくブレザーの制服姿だ。
俺が選んだ店は有名なチェーン店だ。 そこで適当に見繕い、愛菜に見せる。
「うん、どこからどう見ても普通のおじさんって感じになったわね?」
「おじさんって……一応これでも外見は27歳で止まったままなんだけどな」
「17歳の私からすれば十分おじさんだわ」
やっぱり女子高生だったのか。
「はいはい、どうせおじさんですよ」
「それでも奥さん3人もいるんでしょ? あなたの世界だとあなたみたいな人がモテるの?」
さっきから酷い言われようだな。 だけど今思えば俺よりかっこいいと思う男は大勢いたが、どういうわけかモテていた気もするな。
「そうだな……あっちでも普通ぐらいはある、と思いたい」
「ふーん、案外素直なのね」
「そういや愛菜は学校は行かなくていいのか?」
そういうと愛菜がキョトンとした顔を見せてくる。
「今日は日曜日よ? ってそうか、あなたは召喚されたから曜日がわからなかったのね」
日曜日か、あっちじゃそんなものなかったから懐かしい響きだ。
「とりあえずそんなだっさい格好の人と一緒に歩きたくないから私が選んでくるわ」
……ダサかったのか。 まぁ俺って服装のセンスないからな。
——で、俺だったら絶対にチョイスしないような服を愛菜は選んできて、それに着替える。
「ベースがアレだからそれが限界かなぁ……」
ほんと、言われたい放題だな、俺。
で、愛菜が選んできたものは、服の名称なんかはよくわからないが、随分と太めに作られたパンツに丈の長いTシャツ、その上にジップアップのジャケットという俺では考えもつかない格好になった。
「これ、おかしくないのか?」
「少なくともさっきのよりはマシよ」
愛菜がいいっていうならいいか。
料金を支払い店を出て早速多目的室に入って着替えを済ます。
「このあとはどうするんだ?」
「そうね……」
考え込む愛菜を放っておき、俺は感知でまっすぐ俺たち……愛菜に近づく者がいないか確認していると、こちらに向かってくる2人がいた。
「あ、愛菜! って、アレ? もしかして隣にいるの彼氏?」
「意外〜、愛菜に彼氏いたんだぁ」
どうやら学校の友達のようだ。 だが、10歳も離れてる男を見て彼氏と思うのか?
「ち、違っ! わないけど……お願い! みんなには言わないで!」
違わないのかよ! って、そうか……しばらく一緒に行動するからあらぬ疑いをかけられないようにしたのか。
しかし普段はこんな顔もできるんだな。
「へぇ〜そうなんだぁ」
「ふ〜ん」
2人が俺をチラチラ見てくる。
きっとダサいとか思ってんだろうな。
「と、とにかくもう行くから! ほんっと、みんなには内緒にしてね!」
そしておもむろに俺の腕を掴んで引っ張っていこうとする。 当然腕を絡めてきているから、腕越しに愛菜の胸の感触が伝わってくる。
意外と胸あるんだな。
「そんな避けるような事しなくても良いじゃん、ねぇ彼氏さん?」
そこ! 頼むから俺に振らないでくれ。
「お兄さんかっこいいですけど名前何ていうんですか? あと年齢とかぁ? 」
実はこういうノリが俺は大の苦手だ。
「えっと、申し訳ないんだけどこのあと映画の上映時間が迫っているんだ。 なぁ愛菜」
「そ、そそそ、そうなのよ! 急がないと間に合わなくなっちゃうんだ。ね、サハラさん」
しかしこれが悪手となってしまった。
「きゃー、お互い名前で呼び合ってるー!」
「もうそういう関係だったんだぁ」
付き合ってれば普通名前で呼び合うだろうが……
「付き合ってれば名前で呼び合うのは普通でしょ?」
うん、俺の言いたいことを言ってくれた。
とにかくこの空気から今すぐにでも逃げ出したい。
「それじゃあそういう事で……」
愛菜を引っ張っていこうとするが、敵も負けてはいない。
なぜか後をついてくる。
「何でついてくるのよ!」
「別にぃ?」
「方角がたまたま一緒だっただけだよ」
「「ねー?」」
ねー、じゃねぇぇぇ!
そこへ愛菜が俺に更に体を押し付けてくる。
「ちょっと、何とかできないの!?」
「とりあえず本当に映画館に逃げ込むしかないだろ」
「それが良さそうね」
愛菜が俺に体を預けながらスマホで何かを検索しだす。
「ジャンルは何が好き?」
……というわけで今上映している映画の中から2人が見れそうなものを決めた。
さすがに学生ともなれば映画の出費はデカイはずだろうからついてはこないだろう。
映画館に着いてチケットを2人分買い、中へと入っていく。
「さすがについてこなかったな」
「感知って奴?」
頷いて答える。
「お前の友達はみんなあんなのなのか?」
「友達っていうか唯のクラスメイトよ」
館内の明かりが落ちて真っ暗になる。
映画館で見るなんてめちゃくちゃ久しぶりの映画だ、楽しむ事にした。
物語が進んでいき佳境に入る頃、俺の手を愛菜が握ってくる。
横目でチラッと覗き見ると、映画に集中していて俺の手を握っている事に気がついていないようだ。
まぁ……いいか。
上映が終わって愛菜が俺の手を握っているのに気がつくと慌てて手を離す。
「ご、ごめん……」
「謝ることはないだろ? 俺たちは恋人同士なんだから、な?」
冗談で言ったつもりだったが愛菜の頬が赤く染まった。
「……という設定だろ?」
「う、うん」
何だその微妙な反応は! 頼むからマジで乙女な顔しないでくれ!
そんな状況のまま映画館を出たのはいいが……
「友達、もう居ないからくっつかなくても大丈夫だぞ?」
「もうちょっとだけこのままでいさせて……映画の余韻に浸りたいから」
ハハ……俺の早とちりだったか。
結局この日は愛菜とデートみたいな1日を過ごして終わってしまった。