最強の護衛たち
毎回遅れ気味で申し訳ありません。
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グロテスクな頭部を持つ守護者を見た直後から愛菜の父親は酷く取り乱しだした。
「は、はは……はははははははははは! ダメだ、俺たちは死ぬ! 全員殺される! はははははははははは!」
あまりのショックからなのか、愛菜の父親が狂気に陥りだしているようだ。
今にも暴れだして逃げ出そうとする愛菜の父親を必死に愛菜の母親とワルキューレで抑えていた。
「まさか貴方の守護者、クトーニアンだとでもいうの!?」
「ふっふふふ、そうだ。 俺は守護者召喚で我らが主の化身を召喚したのだ!」
愛菜の父親程ではないがシャーロットも明らかに動揺した様子を見せていた。
深雪と深雪の父親は異形な姿に驚きこそしているが、その素性を知らないらしく、サイクロプスとミノタウロスを目にしたのとあまり変わりがない。
だが召喚主である教団のリーダー格の男は、明らかに勝ち誇った様子だ。
「グラント女王、アレが何かわかりますか?」
「おそらく地下世界の、それも最深部の方に生息していると言われるマインドフレイヤー辺りですわね。 私も文献や人伝でしか聞いたことがないですから初めて見ましたわ」
対してセッターとグラント女王は初めて見るクトーニアンと呼ばれた相手に興味津々な様子を見せる。
「もしそうなら、ディルムッドがいればハッキリしたんだけどな」
マイセンが独り言のようにつぶやいて、それが聞こえたアラスカが頷いていた。
つまりサハラが護衛に召喚した者たちは全員、目の前に現れた守護者を目にして怯えや恐怖に陥っている様子が全く見られなかった。
それどころか……
「ミノタウルスは星剣7つ星の剣を手にするときにすでに戦った相手だった。 それより多少大きい程度」
「懐かしい、あなたを救ったときに私が倒した相手がサイクロプスだったな。 もっとも、こちらもその時の奴よりも大きいが……問題無いだろう」
「ああ! そのとき僕が意識を失ってて危ないところだったんだよね。 目が覚めたら目の前にサイクロプスがいて驚いたよ」
思い出話をする余裕まで見せていた。
「き、貴様ら……」
教団のリーダー格の男がそんな3人を見て苛立ちと不安を見せる。
だがここで教団のリーダー格の男は自分の守護者の思い出話が無いことに気がついたようだ。
「ふん、ミノタウルスとサイクロプスは戦った経験があるようだが、俺の守護者クトーニアンは経験が無いようだな?」
「無いけど別に問題無いかな。 だってそいつの『気』見えてるし、もう捉えてあるから」
教団のリーダー格の男はマイセンの『気』がどうたらという意味がよく分からなかったが、自信ありげな態度に一抹の不安を覚える。
教団のリーダー格の男はクトーニアンを守護者に召喚出来たことで、教団からも一目置かれる存在になれたというのに、今目の前にいるものたちはこれから対峙する守護者を前にしてまるで懐古話に花を咲かせていた。
教団のリーダー格の男はこちらの守護者だけでは不利と感じたのか、視線をあちこちに移して何やら考えを張り巡らせている。
その視線がある1箇所で止まった。
「どうやら俺たちでは敵わないらしい。 だが……今はいいだろう。 しかしこれからの人生、死ぬまで命を狙われながら怯えて暮らすことになるだろう」
ある1箇所とは深雪の父親だった。
「教団が何をしようとしているかわかった今、私はどれだけ脅されようと屈指はしない」
「そうかい、だが俺は久保さんに言ったんじゃない。 あんたの後ろにいる……娘さんにだよ。 いつまでもそこの守護者が守ってくれるわけじゃあるまい? 結婚だってしたいだろう、だが教団に狙われていたらそれも叶わないぞ」
「ひ、卑怯な!」
教団のリーダー格の男が久保の心に揺さぶりをかけてくる。 久保の表情に顔をニヤつかせた。
「私の結界内は電波も通らない、そいつらを皆殺してしまえば情報は漏れないわよ」
だがそれをシャーロットが安心させるように言った。
「く、くそがぁぁぁぁぁぁ! 守護者、やれ! やってしまえ! まずはあの余裕を見せている守護者を油断なくサッサと殺すんだ!」
教団のリーダー格の男はもはや他に手は無いと見たのか、守護者にセッターたちを倒すように命令する。
その命令に合わせて、残る2人の教団員も各々の守護者に命令を出した。
対するは史上最強と後世まで名を残した7つ星の騎士のセッターに、その娘であり7つ星の剣に認められたアラスカ。
そしてそのアラスカの夫であり、『気』さえ読めれば神すら殺すと言われたマイセンが立ち塞がった。
「出し惜しみは無しだ。 全力で行くぞ! seven star blade ultimate attack !」
セッターが7つ星の剣に命令し、ミノタウルスに向かい、まるでバターでも切るように抵抗無く多段攻撃を仕掛けた。
その一撃一撃は残像のように6本の剣が続いて切り裂いていき、7振り目が降り終えたとき、断末魔すらあげられずにミノタウルスは8つの肉片となった。
「7つ星の剣よ、お前の姉妹の出番だ! seven star blade dancing attack !」
アラスカがそう叫んで7つ星の剣を宙に放り投げる。
直後、アラスカの投げた7つ星の剣と同じような形状をした剣が宙に大量に現れ、それ1本1本が意思を持つかのようにまるで剣舞を見せるかのように一斉にサイクロプス目掛けて襲いかかる。
しばらくしてアラスカの元に剣が戻り、サイクロプスのいた場所にはズタズタにされ、元がなんだったのかわからないほど肉塊となったサイクロプスの残骸が残るだけだった。
それらはほんの一瞬の出来事で、教団のリーダー格の男も何が起こったのか理解するのに時間がかかる。
「我が守護者よ! あの女を殺して撤退だ!」
あの女とはもちろんこの結界を展開しているシャーロットの事で、クトーニアンがシャーロットに顔を向けて目を細めた。
「うぐっ……」
顔を向けただけでシャーロットは頭を押さえて苦しみだし、展開した結界が消え始める。
「ハッ!」
そこへそんな声が聞こえマイセンが刀を一閃していた。
クトーニアンの気味の悪い烏賊のような顔のムニムニと動いていた足のような触手がチンッ! とマイセンが鞘に戻した直後、ぶるんと1度震えた後その場に崩れるように倒れ、そのまま動かなくなる。
マイセンの居合斬りだ。 『気』を捉えていたマイセンは既にいつでも居合斬りを放てる体制が整っていて、放つタイミングを見計らっていた。
「くそっ俺の守護者まであっさりかっ! だが結界は解けた。 お前ら今のうちに一旦引くぞ!」
教団員も魔法が使えるらしく、一斉に加速して脱兎の如く姫川家から逃げ出そうとする。
「そいつらを逃がしてはダメ!」
シャーロットの叫ぶ声が聞こえた。
「限界領域」
マイセンの声が聞こえたと思ったときにはすでにその場に姿はなく、3人の教団員が床に倒れた先にいた。
「そんな速度じゃ僕からは逃れられない」
チンッ! と綺麗な音色をたてながら刀を鞘に戻した。
限界領域はマイセンの持つ最大の能力で、ほぼ時間が止まったような速度で行動が取れる。
一見無敵なように見える力だが、その分マイセンの身体にかかる負担も大きく、鼻から垂れてきた鼻血を袖で拭っていた。
その様子を見ていた誰もが、ただただ呆然と見つめるだけしかできない。
それは同じく守護者として召喚されたワルキューレとエリニュスも同じだ。
「こちらは片付いたようだ。 あとはマスターが戻るのを待ちましょう」
セッターが何事もなかったかのように言った。




